スキップ(バッファローマン夢小説)
名前を変える
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
深夜のおやつ
蛍袋の花がその釣鐘のなかに秘密を隠していそうな月夜の晩。
浅い眠りに飽いて二人で静かに寝床を抜け出した。
煌々とした灯りに誘われて、コンビニでアイスを買って。
インド綿のワンピースを着た彼女はチョコミント。
藍染めの甚平を着たバッファローマンはあずきバー。
袋から出したてのカチカチの塊を丈夫な顎と歯でガリガリ噛んでいく。
「歯が痛くならない?」
「全然ならねえぞ。固いうちに食うのがうまいんだ」
甘さと冷たさがほんの少し、わずらわしい暑さを和らげてくれた。
街路樹のしたのツツジの植え込みに、潜むようにぶら下がる小さな存在を見つけて彼女はしゃがみこむ。
「セミだー」
ほんの少し前まで自分そのものだった殻を縦に割って、薄明かりのした、オーロラをまといながら新しく世界に生まれ出でようとしていた。
「キレイなもんだな」
「頑張ってるね」
一度明るい世界へのドアを開けてしまったら、二度とはもとに戻れない。
「バッファもこんなだった?」
「なんだそら、どういう意味だ?」
彼女は自分の顔を見るバッファローマンを見上げた。
「悪魔超人から正義超人になったとき」
「ああ、そのことか」
得心がいったように頷いて言葉を継ぐ。
「こんなキレイなもんじゃなかったよ。――正義超人になると言ったはいいが、そのあとすぐに制裁をうけて死んじまった。お情けで生き返って、目的は達したけどボコボコに痛めつけられたしな」
「正義超人の時と悪魔超人の時とどっちが幸せ?」
バッファローマンは苦笑する。
「――そうだな、それは『男と女とどちらが幸せか』って聞くのに似てるな。
男には男の幸せがあるし、その逆もしかり。
要するに『昔も今も、まずまず幸せ』ってのが答えかな。コレでいいか?」
「うん。あとね、ずっと聞きたかったことがあるんだけど……」
「いいぞ、せっかくだから何でも聞いとけ」
「じゃあね、死ぬってどんな感じ?死んだあとはどこに行くの?どうやって生き返るの?」
バッファローマンはしまった、という顔をした。
「教えてやりたいが、それを人間に伝えることはタブーなんだ」
「……超人の人たちだけの秘密?」
「そういうところだ。悪いな」
「ジェロニモさんみたいに超人になれば教えてもらえる?」
「だれが!?」
「わたし」
彼女は自分を指差した。
バッファローマンはハトが豆鉄砲を食らったような顔をしたあと声を出して笑い始めた。
「そんなにおかしい?」
「オカシイのオカシクないのって――
ジェロとおまえじゃ人間ってところしか共通点がねえじゃないか」
「がんばれば出来るかも」
「あのなあ、アイツは胸に開いた傷から手ぇ突っ込んで、自分の心臓握って心肺蘇生させたんだぞ?出来んのか?」
「それは……ムリ」
「諦めろ、な?オレはアイツのこと、本当は超人に産まれてくるのが、何かの手違いで人間として産まれてきちまったんじゃないかと、思ってるぞ」
「……バッファがそう思うならきっとそうなんだろうね」
「この間から『超人になること』に妙にこだわってないか?」
バッファローマンは彼女の顔を覗きこんだ。
「そう?」
彼女は小首をかしげる。
「少なくともオレにはそう見える」
「私も強くなって、いろんな人を助けたいって思うときはある」
「なあ、そうしたらオレのメシは誰が作ってくれるんだ?洗濯はどうすんだよ、何日も同じパンツはきたくねえぞ?」
「そうなったら困る?」
下から彼の顔を覗きこむ。
「そらもう困るな、史上最大のピンチだ。
ずっと洗ってないリングコスチュームで試合にでて、汚いとかクサイとかブーイングの嵐だろうな」
「そんなのダメ、バッファは世界一カッコよくないと」
「だろ?だから超人になりたいなんて言わないでそのままでいろよ」
お日さまみたいに彼女は笑み崩れた。
「そこまで言うなら人間のままでいよっかなー」
嬉しそうにスキップを始めて、バッファローマンの数歩先をいく。
「そこの可愛い人間の彼女、明日の昼飯は冷やし中華が食いてえな」
「もーしょうがないなーハラペコ超人はー」
「そうなんだよ、それと紅ショーガを忘れないでくれよ」
「おっけー牧場!」
蛍袋の花がその釣鐘のなかに秘密を隠していそうな月夜の晩。
浅い眠りに飽いて二人で静かに寝床を抜け出した。
煌々とした灯りに誘われて、コンビニでアイスを買って。
インド綿のワンピースを着た彼女はチョコミント。
藍染めの甚平を着たバッファローマンはあずきバー。
袋から出したてのカチカチの塊を丈夫な顎と歯でガリガリ噛んでいく。
「歯が痛くならない?」
「全然ならねえぞ。固いうちに食うのがうまいんだ」
甘さと冷たさがほんの少し、わずらわしい暑さを和らげてくれた。
街路樹のしたのツツジの植え込みに、潜むようにぶら下がる小さな存在を見つけて彼女はしゃがみこむ。
「セミだー」
ほんの少し前まで自分そのものだった殻を縦に割って、薄明かりのした、オーロラをまといながら新しく世界に生まれ出でようとしていた。
「キレイなもんだな」
「頑張ってるね」
一度明るい世界へのドアを開けてしまったら、二度とはもとに戻れない。
「バッファもこんなだった?」
「なんだそら、どういう意味だ?」
彼女は自分の顔を見るバッファローマンを見上げた。
「悪魔超人から正義超人になったとき」
「ああ、そのことか」
得心がいったように頷いて言葉を継ぐ。
「こんなキレイなもんじゃなかったよ。――正義超人になると言ったはいいが、そのあとすぐに制裁をうけて死んじまった。お情けで生き返って、目的は達したけどボコボコに痛めつけられたしな」
「正義超人の時と悪魔超人の時とどっちが幸せ?」
バッファローマンは苦笑する。
「――そうだな、それは『男と女とどちらが幸せか』って聞くのに似てるな。
男には男の幸せがあるし、その逆もしかり。
要するに『昔も今も、まずまず幸せ』ってのが答えかな。コレでいいか?」
「うん。あとね、ずっと聞きたかったことがあるんだけど……」
「いいぞ、せっかくだから何でも聞いとけ」
「じゃあね、死ぬってどんな感じ?死んだあとはどこに行くの?どうやって生き返るの?」
バッファローマンはしまった、という顔をした。
「教えてやりたいが、それを人間に伝えることはタブーなんだ」
「……超人の人たちだけの秘密?」
「そういうところだ。悪いな」
「ジェロニモさんみたいに超人になれば教えてもらえる?」
「だれが!?」
「わたし」
彼女は自分を指差した。
バッファローマンはハトが豆鉄砲を食らったような顔をしたあと声を出して笑い始めた。
「そんなにおかしい?」
「オカシイのオカシクないのって――
ジェロとおまえじゃ人間ってところしか共通点がねえじゃないか」
「がんばれば出来るかも」
「あのなあ、アイツは胸に開いた傷から手ぇ突っ込んで、自分の心臓握って心肺蘇生させたんだぞ?出来んのか?」
「それは……ムリ」
「諦めろ、な?オレはアイツのこと、本当は超人に産まれてくるのが、何かの手違いで人間として産まれてきちまったんじゃないかと、思ってるぞ」
「……バッファがそう思うならきっとそうなんだろうね」
「この間から『超人になること』に妙にこだわってないか?」
バッファローマンは彼女の顔を覗きこんだ。
「そう?」
彼女は小首をかしげる。
「少なくともオレにはそう見える」
「私も強くなって、いろんな人を助けたいって思うときはある」
「なあ、そうしたらオレのメシは誰が作ってくれるんだ?洗濯はどうすんだよ、何日も同じパンツはきたくねえぞ?」
「そうなったら困る?」
下から彼の顔を覗きこむ。
「そらもう困るな、史上最大のピンチだ。
ずっと洗ってないリングコスチュームで試合にでて、汚いとかクサイとかブーイングの嵐だろうな」
「そんなのダメ、バッファは世界一カッコよくないと」
「だろ?だから超人になりたいなんて言わないでそのままでいろよ」
お日さまみたいに彼女は笑み崩れた。
「そこまで言うなら人間のままでいよっかなー」
嬉しそうにスキップを始めて、バッファローマンの数歩先をいく。
「そこの可愛い人間の彼女、明日の昼飯は冷やし中華が食いてえな」
「もーしょうがないなーハラペコ超人はー」
「そうなんだよ、それと紅ショーガを忘れないでくれよ」
「おっけー牧場!」
1/2ページ