どこまでも、限りなく(ザ・ニンジャ夢小説)
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真夜中をすぎて、深い眠りからふと浮びあがる。寝室のほの暗さとあやふやな意識にしばしとまどったあと、朝までにはまだだいぶあることに気づき、かすかな不安を感じる。
そんなとき、寝床のなかに自分以外のぬくもりがあることに、この上なく安堵する。
今夜、ふと目がさめた彼女も、それをもとめて、となりに手を伸ばした。けれど、ザ・ニンジャはいなかった。だからというわけではないけれど、つられて彼女も寝床をはなれた。暗い廊下の向こう側に、居間の灯りが漏れている。
「――ニンジャさん?」
彼女がそっと襖をあけると、そこに彼はいた。窓に向かい、こちらに背をむけていたが「どうした?」と、呼びかけにふり向いた。
「目がさめたら、いなかったから。眠れないの?」
ニンジャが夜更けまで、調べものやなにかの細工(何を作っているのかは、いまだに謎だ)に精をだし、彼女がすっかり眠ったあとで、彼が寝床に入ることはよくある。それでも一度身を横たえれば、朝まで二人並んで休むのが常だった。
おいで、とニンジャがさし招く。
「小用にたってな。そうしたらほら、雪がふり始めていたので、ながめていたのだ」
彼女がかたわらに立つと、ガラス越しに、外の冷気がじんわり滲んでいた。鈍空に目をこらせば、白くあえかな切片が、あとからあとから、舞い落ちてくる。
「夕べの天気予報、あたったのね」
「積もると言っていたな」
「あした、お休みでよかった」
すっかり安堵したような彼女の口ぶりに、ニンジャはほほ笑みをうかべた。そうして「冷えるぞ」と、羽織っていた半纏を、彼女に着せかけた。男物のそれは、彼女の背丈にはだいぶあまって、指先までも袖におおわれた。置き去りにされたぬくもりが、背中からじんわりと伝わってくる。
雪を眺めているうちに、ニンジャはなにかを思いついたらしい。「すこし待っていろ」、そう言って彼は台所に姿を消し、戻ってきたときには、ちいさな徳利と二つの盃を手にしていた。
「よければ少しどうだ?雪見酒といこう」
彼女がニンジャの盃に、いつものように酒をつごうすると「たまには拙者から」と、彼女の盃についでくれた。ちいさな器にみたされた燗酒から、ひとすじ湯気がたちのぼる。
「いただきます」
彼女が盃をあおると、まろくやわらかな美酒がのどをすべり落ち、甘い香りが鼻をぬけていった。酒が身体に沁みるうち、ほろほろと身体が暖まっていく。
「ニンジャさんも、どうぞ」
「うむ」
彼女の返盃を、ニンジャはひと息で飲みほした。さしつさされつ、二人は杯をかさねる。
「雪景色に美味い酒、なんとも果報だな」
「ほんとね。雪と、お酒――それから、大好きな人」
雪あかりに照らされたニンジャの横顔は、ドキリとするほど白く、酒気をおび、ほんのり目もとが赤らんでいた。怜悧で美しく、だけどおだやかで、この人が、かつては悪魔超人だったなどと、まるで想像がつかない。ましてやそのなかでも精鋭だけが選ばれるという、悪魔六騎士の一人だったとは。それとも、そんなほの暗い部分を、あえて隠して笑ってみせているのだろうか。もしもそうなのだとしたら、隠されたその姿を見たいような、怖いような。
しげしげと自分を見つめる視線に気づいたのだろう、ニンジャは苦笑いをうかべながら「そんなにあけすけな眼で、男を視るものではない。見透かされて、いいようにされてしまうぞ」と、言った。
「あなたにだけよ、ニンジャさん」
「そうでいてくれると、ありがたいな」
自分を抱きよせる腕の力強さを感じながら、彼女は心のなかでつぶやいた。
「見透かされてもかまわない」と。
そんな二人を見守りながら、どこまでも限りなく、雪が降り続く。
end
(2024.12.27 書き下ろし)
そんなとき、寝床のなかに自分以外のぬくもりがあることに、この上なく安堵する。
今夜、ふと目がさめた彼女も、それをもとめて、となりに手を伸ばした。けれど、ザ・ニンジャはいなかった。だからというわけではないけれど、つられて彼女も寝床をはなれた。暗い廊下の向こう側に、居間の灯りが漏れている。
「――ニンジャさん?」
彼女がそっと襖をあけると、そこに彼はいた。窓に向かい、こちらに背をむけていたが「どうした?」と、呼びかけにふり向いた。
「目がさめたら、いなかったから。眠れないの?」
ニンジャが夜更けまで、調べものやなにかの細工(何を作っているのかは、いまだに謎だ)に精をだし、彼女がすっかり眠ったあとで、彼が寝床に入ることはよくある。それでも一度身を横たえれば、朝まで二人並んで休むのが常だった。
おいで、とニンジャがさし招く。
「小用にたってな。そうしたらほら、雪がふり始めていたので、ながめていたのだ」
彼女がかたわらに立つと、ガラス越しに、外の冷気がじんわり滲んでいた。鈍空に目をこらせば、白くあえかな切片が、あとからあとから、舞い落ちてくる。
「夕べの天気予報、あたったのね」
「積もると言っていたな」
「あした、お休みでよかった」
すっかり安堵したような彼女の口ぶりに、ニンジャはほほ笑みをうかべた。そうして「冷えるぞ」と、羽織っていた半纏を、彼女に着せかけた。男物のそれは、彼女の背丈にはだいぶあまって、指先までも袖におおわれた。置き去りにされたぬくもりが、背中からじんわりと伝わってくる。
雪を眺めているうちに、ニンジャはなにかを思いついたらしい。「すこし待っていろ」、そう言って彼は台所に姿を消し、戻ってきたときには、ちいさな徳利と二つの盃を手にしていた。
「よければ少しどうだ?雪見酒といこう」
彼女がニンジャの盃に、いつものように酒をつごうすると「たまには拙者から」と、彼女の盃についでくれた。ちいさな器にみたされた燗酒から、ひとすじ湯気がたちのぼる。
「いただきます」
彼女が盃をあおると、まろくやわらかな美酒がのどをすべり落ち、甘い香りが鼻をぬけていった。酒が身体に沁みるうち、ほろほろと身体が暖まっていく。
「ニンジャさんも、どうぞ」
「うむ」
彼女の返盃を、ニンジャはひと息で飲みほした。さしつさされつ、二人は杯をかさねる。
「雪景色に美味い酒、なんとも果報だな」
「ほんとね。雪と、お酒――それから、大好きな人」
雪あかりに照らされたニンジャの横顔は、ドキリとするほど白く、酒気をおび、ほんのり目もとが赤らんでいた。怜悧で美しく、だけどおだやかで、この人が、かつては悪魔超人だったなどと、まるで想像がつかない。ましてやそのなかでも精鋭だけが選ばれるという、悪魔六騎士の一人だったとは。それとも、そんなほの暗い部分を、あえて隠して笑ってみせているのだろうか。もしもそうなのだとしたら、隠されたその姿を見たいような、怖いような。
しげしげと自分を見つめる視線に気づいたのだろう、ニンジャは苦笑いをうかべながら「そんなにあけすけな眼で、男を視るものではない。見透かされて、いいようにされてしまうぞ」と、言った。
「あなたにだけよ、ニンジャさん」
「そうでいてくれると、ありがたいな」
自分を抱きよせる腕の力強さを感じながら、彼女は心のなかでつぶやいた。
「見透かされてもかまわない」と。
そんな二人を見守りながら、どこまでも限りなく、雪が降り続く。
end
(2024.12.27 書き下ろし)
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