鳩と王様(バッファローマン夢小説)
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もう、しばらく前からそこにいる。並んでベンチに座り、彼女は夕陽のあたる彼の横顔をずっと見ている。
バッファローマンの瞳には瞳孔がない。虹彩もない。綺麗なシトリンの色をした眼球がそこにあるだけだ。どこを見て何を考えているのか、視線を追ってもいまいち判らないときがある。
けれども、いま考えていることは察しがついた。ここはいつまでも忘れられない場所。
物思いにふける彼の邪魔をしないよう、彼女はかそけく座っている。
立ち枯れた去年の蓮の茎の間から、今年の蓮が緑色の茎を伸ばしている。
遠い昔の同じような季節に彼の「かつての仲間」と「今の仲間」がここで闘った。
ギョロリと飛び出た紅い瞳、指の間には薄い皮膜。前かがみな身体の体表は鱗に覆われ、少しの湿り気とざらつきがある。それが、かつての彼の仲間。
何者にも恥じることなく、真っ直ぐに背筋を伸ばし、蒼い鋼鉄の鎧と高潔さとを身にまとった騎士。それが、今の彼の仲間。
紅い眼はとても狡猾で、蒼い騎士は信義を大切にしすぎた。それが最後に勝負を分けた。
――蒼は紅に負けた。
全てが終わったあとでバッファローマンが選択しようとした未来は、ある意味で究極の自己否定だった。
制裁の槍に身体を貫かれたとき、つまりは選択の機会が奪われたとき、そこにはほんの少しの安堵もありはしなかったのか。
夕陽が半分ほど沈み、空が紅と蒼のグラデーションに変わっていく。
「腹へったな」
「うん!」
「何か旨いもんでも食いにいくか」
フレンチではなく、昔ながらの洋食を出す老舗のレストランに行った。
テラスの席を選んで、夜の匂いを感じながら食事を楽しむ。
ハヤシライス三人前、カレーライスとエビフライ二人前ずつを悠々と平らげるバッファローマンに軽く呆れながら、彼女はビーフシチュー食べた後、デザートのプリンアラモードを口に運んでいる。
プリン、プリンと生クリーム、プリン、フルーツ、順番に味を楽しんでいると、当たり前だけど減っていく。惜しいけど、食べる。
「うまいか?」
「すっごく美味しい。バッファもちょっと食べる?」
「食わなくたってツラ見てりゃ判るよ」
バッファローマンは、椅子の背もたれに背中を押し付けるように座って、彼女を眺めている。
視線を感じて、美味しく食べていたデザートの味が急に判らなくなった。
それを悟られたくなくて、少し冷めたコーヒーを飲み干した。
帰りにスーベニールショップの前を通った。パンダのぬいぐるみが、大きいものから小さいものまで勢揃いしている。
「何か欲しくないのか?」
「今日はいい。次のときに買ってほしい」
「ならまた来ないといけないな」
「パンダがおっきくなるまえに来られたらいいね」
「そうだな」
「明日?」
「明日はムリだろ」
バッファローマンは苦笑して、彼女の額を軽くこづいた
End
初出:PIXIV 2020.03.29
バッファローマンの瞳には瞳孔がない。虹彩もない。綺麗なシトリンの色をした眼球がそこにあるだけだ。どこを見て何を考えているのか、視線を追ってもいまいち判らないときがある。
けれども、いま考えていることは察しがついた。ここはいつまでも忘れられない場所。
物思いにふける彼の邪魔をしないよう、彼女はかそけく座っている。
立ち枯れた去年の蓮の茎の間から、今年の蓮が緑色の茎を伸ばしている。
遠い昔の同じような季節に彼の「かつての仲間」と「今の仲間」がここで闘った。
ギョロリと飛び出た紅い瞳、指の間には薄い皮膜。前かがみな身体の体表は鱗に覆われ、少しの湿り気とざらつきがある。それが、かつての彼の仲間。
何者にも恥じることなく、真っ直ぐに背筋を伸ばし、蒼い鋼鉄の鎧と高潔さとを身にまとった騎士。それが、今の彼の仲間。
紅い眼はとても狡猾で、蒼い騎士は信義を大切にしすぎた。それが最後に勝負を分けた。
――蒼は紅に負けた。
全てが終わったあとでバッファローマンが選択しようとした未来は、ある意味で究極の自己否定だった。
制裁の槍に身体を貫かれたとき、つまりは選択の機会が奪われたとき、そこにはほんの少しの安堵もありはしなかったのか。
夕陽が半分ほど沈み、空が紅と蒼のグラデーションに変わっていく。
「腹へったな」
「うん!」
「何か旨いもんでも食いにいくか」
フレンチではなく、昔ながらの洋食を出す老舗のレストランに行った。
テラスの席を選んで、夜の匂いを感じながら食事を楽しむ。
ハヤシライス三人前、カレーライスとエビフライ二人前ずつを悠々と平らげるバッファローマンに軽く呆れながら、彼女はビーフシチュー食べた後、デザートのプリンアラモードを口に運んでいる。
プリン、プリンと生クリーム、プリン、フルーツ、順番に味を楽しんでいると、当たり前だけど減っていく。惜しいけど、食べる。
「うまいか?」
「すっごく美味しい。バッファもちょっと食べる?」
「食わなくたってツラ見てりゃ判るよ」
バッファローマンは、椅子の背もたれに背中を押し付けるように座って、彼女を眺めている。
視線を感じて、美味しく食べていたデザートの味が急に判らなくなった。
それを悟られたくなくて、少し冷めたコーヒーを飲み干した。
帰りにスーベニールショップの前を通った。パンダのぬいぐるみが、大きいものから小さいものまで勢揃いしている。
「何か欲しくないのか?」
「今日はいい。次のときに買ってほしい」
「ならまた来ないといけないな」
「パンダがおっきくなるまえに来られたらいいね」
「そうだな」
「明日?」
「明日はムリだろ」
バッファローマンは苦笑して、彼女の額を軽くこづいた
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初出:PIXIV 2020.03.29
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