たとえていえば其れは(バッファローマン夢小説)
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まるきり誰かの家のような雰囲気の一軒家だが、先ほど目にとめたスタンドがここは飲食店なのだと来訪者に告げていた。
サンドイッチ板には白いチョークでメニューが記されている。
本日のランチ
マグロカツレツのスパイスカレー
チキンのマンゴチャツネ煮込み
スパイスカフェ プラクリティ
「見るからに美味しそう!」
「文字だけだぞ」
「お腹すいたでしょ!?」
「どっちにしてもココでランチってもう決めてんだろ?」
「バレたかー!」
エヘヘ、と嬉しそうに笑う。
この経緯で判らないのは宇宙人と陸式くらいだろうな、と思った。
扉を開けると中年のふくよかな女性が中から姿を現した。
アタマにカレー皿を載せたヨガの行者のような超人が出てきたらどうしようとバッファローマンが一瞬だけ思ってしまったのはここだけのハナシだ。
テーブル席が店内に4つあるほか庭にも席があるという。希望してテラス席に案内してもらった。今日は二人が一番のりらしい。
ミントの葉を沈めたミネラルウォーターを運んできたその女性に「マグロカツレツのスパイスカレー」を二人分オーダーした。
「マグロのカレーって初めて!」
「シーフードは食ったことあるけどな」
期待で顔がゆるんでいる彼女と、それを愉快そうに眺めるバッファローマン。
しばしの後、待ちかねた料理が運ばれてきた。
白釉の丸皿にサフランライス、傍らに素揚げの野菜。ライスの上には五切れにカットされたくだんのマグロのカツレツがのっている。
その隣には木製のスープボウルに満たしたカレースープ。液面に浮いた粒と刺激的な芳香でスパイスがふんだんに使われていることが判る。
刺身のように小片にカットされたカツレツの衣は、通常のトンカツやコロッケのような厚いものではなく、地が見えるくらいうっすらとしたもので、体裁も調理の仕方もコートレットに近い。
「はー、おいしそー」
「この香りが食欲を刺激するな」
「ちょっとあげる」
彼女は料理に箸をつける前に自分の皿のマグロのカツレツを二切れ、バッファローマンの皿にのせた。
彼の好みそうなものをその皿にのせることがまれにある。誰かの分をもらうほど腹が減っているのなら追加をオーダーすると、いつも言うのだが。
まあいい、肩をすくめてスプーンを手にした。
まずカレースープを口に運ぶ。
予想に違わずペッパー、カルダモン、クミン、ナツメグ、様々な香りが鼻から抜けていった。初めに感じた刺すような刺激はカイエンペッパーのものか。次いで痺れるようなペッパーの辛みが舌を刺激する。
それからスパイスの甘味や香味、そしてマグロの骨や頭を煮込んでとったエキスの旨味も感じられ、口中で渾然一体となったハーモニーが奏でられた。
次はマグロのカツレツだ。
使われている赤身は骨や筋肉に近い部位で、刺身にはやや硬く、血合の風味が強い。けれどもこのような料理には適している。歯応えはあるもののパサつくことはなく、火を通したことで血の生臭さは消え、かえって腰の据わった魅力的な野性味にその印象を変えていた。
ほどほどにクリスピーな衣と油のコクがしっとりとした赤身肉と馴染んでゆく。
刺激的なカレースープと濃い味のマグロのカツレツとの合間に素揚げした野菜で舌を休ませる。レンコンは軽快な歯応えとでんぷん質の甘み、ニンジンにはまた別の濃い甘さがあり、オクラはネットリとして、ナスは揚げる前より色鮮やかに、油を吸って甘くとろけるようだ。
「マグロがこんなにカレーに合うなんて知らなかった。お醤油味じゃなくてもバッチリ美味しいね!」
いたくご満悦な様子の彼女にバッファローマンは言った。
「オレに寄越したぶんのカツも自分で食えば良かっただろうに」
「バッファは特別なの。だからいいの。他の人にはあげたりしないんだからね?」
たわいもない事を声を低めて重大事のように告げてくるので、つい吹き出した。
下膳とミネラルウォーターを継ぎ足しにきた女性に食後茶としてチャイをたのんだ。
料理の出来映えを問われ、マグロのカツレツの味にとりわけ感心したことを伝えると、衣のなかに風味づけとしてカラスミパウダーを入れているのだという。絶妙な塩加減と旨味の正体はそこにあったのだ。
「カラスミかー。そんなの思いつきもしないよね?スゴいなー美味しい料理を作れる人って偉大だなー」
女性が去ったあともウンウンと感じ入っている。
「ホント、おまえはちっさい犬みたいだな」
「いぬ?ナニそれ??」
「なんかチョコマカしてるし考えてることは手に取るように判るし、とくにおまえが機嫌いい時は何ていうか――」バッファローマンは話の途中でクックッと笑いだした。
「――嬉しくてシッポをピコピコ振ってるヨークシャーテリアそのものだ」
そう言うと彼女の姿を見ながら、甘くて濃いチャイをゆっくりと口に含んだ。
「……前にもそんなコト言われた気がする」
「じゃ、その通りなんだろ、きっと」
「大宇宙の真理?」
「そうそう」
怒ったらいいのか喜んだらいいのか判断つかねる表情を浮かべて彼女は言った。
「愛犬は飼い主が責任もって最後まで可愛がってください」
「よし、お手」
バッファローマンがヒトデのお化けみたいな大きな掌を差し出すと、彼女はチョコンと自分の手をのせ、冗漫めかして「ワン!」と小さく鳴いた。
「よし、お利口さんはご褒美に今夜も可愛がってやろう」
「わあ、やらしい!」と顔を赤くして恥じらう彼女の姿を見ながらバッファローマンは少しばかり夜が来るのが楽しみだった。
サンドイッチ板には白いチョークでメニューが記されている。
本日のランチ
マグロカツレツのスパイスカレー
チキンのマンゴチャツネ煮込み
スパイスカフェ プラクリティ
「見るからに美味しそう!」
「文字だけだぞ」
「お腹すいたでしょ!?」
「どっちにしてもココでランチってもう決めてんだろ?」
「バレたかー!」
エヘヘ、と嬉しそうに笑う。
この経緯で判らないのは宇宙人と陸式くらいだろうな、と思った。
扉を開けると中年のふくよかな女性が中から姿を現した。
アタマにカレー皿を載せたヨガの行者のような超人が出てきたらどうしようとバッファローマンが一瞬だけ思ってしまったのはここだけのハナシだ。
テーブル席が店内に4つあるほか庭にも席があるという。希望してテラス席に案内してもらった。今日は二人が一番のりらしい。
ミントの葉を沈めたミネラルウォーターを運んできたその女性に「マグロカツレツのスパイスカレー」を二人分オーダーした。
「マグロのカレーって初めて!」
「シーフードは食ったことあるけどな」
期待で顔がゆるんでいる彼女と、それを愉快そうに眺めるバッファローマン。
しばしの後、待ちかねた料理が運ばれてきた。
白釉の丸皿にサフランライス、傍らに素揚げの野菜。ライスの上には五切れにカットされたくだんのマグロのカツレツがのっている。
その隣には木製のスープボウルに満たしたカレースープ。液面に浮いた粒と刺激的な芳香でスパイスがふんだんに使われていることが判る。
刺身のように小片にカットされたカツレツの衣は、通常のトンカツやコロッケのような厚いものではなく、地が見えるくらいうっすらとしたもので、体裁も調理の仕方もコートレットに近い。
「はー、おいしそー」
「この香りが食欲を刺激するな」
「ちょっとあげる」
彼女は料理に箸をつける前に自分の皿のマグロのカツレツを二切れ、バッファローマンの皿にのせた。
彼の好みそうなものをその皿にのせることがまれにある。誰かの分をもらうほど腹が減っているのなら追加をオーダーすると、いつも言うのだが。
まあいい、肩をすくめてスプーンを手にした。
まずカレースープを口に運ぶ。
予想に違わずペッパー、カルダモン、クミン、ナツメグ、様々な香りが鼻から抜けていった。初めに感じた刺すような刺激はカイエンペッパーのものか。次いで痺れるようなペッパーの辛みが舌を刺激する。
それからスパイスの甘味や香味、そしてマグロの骨や頭を煮込んでとったエキスの旨味も感じられ、口中で渾然一体となったハーモニーが奏でられた。
次はマグロのカツレツだ。
使われている赤身は骨や筋肉に近い部位で、刺身にはやや硬く、血合の風味が強い。けれどもこのような料理には適している。歯応えはあるもののパサつくことはなく、火を通したことで血の生臭さは消え、かえって腰の据わった魅力的な野性味にその印象を変えていた。
ほどほどにクリスピーな衣と油のコクがしっとりとした赤身肉と馴染んでゆく。
刺激的なカレースープと濃い味のマグロのカツレツとの合間に素揚げした野菜で舌を休ませる。レンコンは軽快な歯応えとでんぷん質の甘み、ニンジンにはまた別の濃い甘さがあり、オクラはネットリとして、ナスは揚げる前より色鮮やかに、油を吸って甘くとろけるようだ。
「マグロがこんなにカレーに合うなんて知らなかった。お醤油味じゃなくてもバッチリ美味しいね!」
いたくご満悦な様子の彼女にバッファローマンは言った。
「オレに寄越したぶんのカツも自分で食えば良かっただろうに」
「バッファは特別なの。だからいいの。他の人にはあげたりしないんだからね?」
たわいもない事を声を低めて重大事のように告げてくるので、つい吹き出した。
下膳とミネラルウォーターを継ぎ足しにきた女性に食後茶としてチャイをたのんだ。
料理の出来映えを問われ、マグロのカツレツの味にとりわけ感心したことを伝えると、衣のなかに風味づけとしてカラスミパウダーを入れているのだという。絶妙な塩加減と旨味の正体はそこにあったのだ。
「カラスミかー。そんなの思いつきもしないよね?スゴいなー美味しい料理を作れる人って偉大だなー」
女性が去ったあともウンウンと感じ入っている。
「ホント、おまえはちっさい犬みたいだな」
「いぬ?ナニそれ??」
「なんかチョコマカしてるし考えてることは手に取るように判るし、とくにおまえが機嫌いい時は何ていうか――」バッファローマンは話の途中でクックッと笑いだした。
「――嬉しくてシッポをピコピコ振ってるヨークシャーテリアそのものだ」
そう言うと彼女の姿を見ながら、甘くて濃いチャイをゆっくりと口に含んだ。
「……前にもそんなコト言われた気がする」
「じゃ、その通りなんだろ、きっと」
「大宇宙の真理?」
「そうそう」
怒ったらいいのか喜んだらいいのか判断つかねる表情を浮かべて彼女は言った。
「愛犬は飼い主が責任もって最後まで可愛がってください」
「よし、お手」
バッファローマンがヒトデのお化けみたいな大きな掌を差し出すと、彼女はチョコンと自分の手をのせ、冗漫めかして「ワン!」と小さく鳴いた。
「よし、お利口さんはご褒美に今夜も可愛がってやろう」
「わあ、やらしい!」と顔を赤くして恥じらう彼女の姿を見ながらバッファローマンは少しばかり夜が来るのが楽しみだった。