海神(わだつみ)
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あの海での事件から1週間たった。朝晩はいくらか過ごしやすくなったが昼間はまだまだ暑くて、家に辿りつくと安堵のため息が出てしまう。今も、夕飯の買い物から帰ってきてマンションのエントランスにはいったとたん、はあ、と口をついてでた。
集合ポストを覗くと、封書が1通入っていた。ポストを開けて手に取った封筒の表にはバッファローマンの名前が記されていた。何の気なしに裏返し、そこに書かれていた差出人の名前を見て彼女はハッと息をのんだ。そこには
林田 直樹・完樹
と記されていた。
部屋に戻ってリビングのテーブルの上にそっと置いた。
夜になって、玄関ドアの鍵が開くガチャリという音を聞くと、バッファローマンの帰りを首を長くして待っていた彼女は玄関まで小走りで迎えに出た。
「おかえりー!」
そう言っていつものように首元にしがみついてぶら下がる。
「おう、ただいま」
バッファローマンが彼女の髪をワシワシなでる。これもいつものことだ
「バッファにお手紙きてるよ!」
「誰から?」
「海の林田さん!」
「お、そうか」
しがみついていた首元から離れて、相手のビジネスバックを持ちながら話しかけた
「なんて書いてあるんだろ!?」
「メシのあとに二人で読もう」
「うん!」
ホテル キー・ラーゴに泊まった翌朝、晩に予定が入っていたバッファローマンは、朝食のあと、かなり早い時間にチェックアウトすることにした。あの後の林田直樹のことは気になっていたし、完樹とは直接会って言葉を交わしてみたいと思ったが、彼が無事に助かったことが判ったのでもう充分だ。
さすがに相良は出勤してきていて、二人はホテルのロビーで彼に別れを告げた。バッファローマンが止めても相変わらず彼は何度も頭を下げ、林田の不在を詫び、よろしく伝えてほしいというバッファローマンのメッセージを必ず伝えると承った。
「ぜひまたお越しください。今度はゆっくりと。観光のご案内もさせていただきますので。
少しお待ちください、駅まで車を出しますから」
「いや、気持ちだけもらっておくよ。この体格だからな、セダンは窮屈なんでね」
そう言われて相手を見上げた相良はなるほど、というように頷いた。マイクロバスの狭い通路とシートも恐らく不適だろう。
「それでは、玄関までお見送りさせてください。それと、これはお手荷物になってしまいますが、お土産を――当ホテルの焼き菓子などです。よろしければお持ちください」
「ありがとう、もらっていくよ」
受取りながらバッファローマンは彼女を見てよかったな、と言った。満面の笑みを返した彼女は、ふいに声をあげて、日傘を部屋に置き忘れてきたと言い出した。取りに行かせると言う相良を遮って、自分で取ってくる、と小走りに部屋へ行ってしまった。
「なんかいつも、ピョコピョコしててな」
後ろ姿を見やってバッファローマンは苦笑する。
「失礼ですが奥さまでいらっしゃいますか?」
「まあ…そうでもあるし、そうでもないかな、今のところ。きちんとした手続きはしてないんでね」
「そうですか」
相良は半歩バッファローマンに近づいて小声で語りかけた。
「当ホテルはブライダルも承っておりまして。その節は、ぜひご一考を。色々ご配慮させていただきますので」
「昨日から思ってたが、アンタ、けっこうやり手だろ?」
バッファローマンがニヤリと笑って相良を見下ろすと彼はプロのホテルマンらしくニッコリと笑った。
「ご連絡を心よりお待ち申し上げております」
食事をすませて、いつものように二人並んでソファに腰かけると、バッファローマンが手紙の封を開けた。そこには達筆な文字で過日の礼と、完樹の経過が記されていた。心配していた後遺症もまったくないらしい。元気で学校に(小学1年生だった)通っているそうだ。
「心配ねえな」
「ほんと!よかったね!」
便箋はもう1枚はいっていて、こちらは大きなつたない文字でやはり礼の言葉が綴られていた。
バッファローマンさん
たすけてくれてありがとうございました。
ちゃんとおれいがいえなくてごめんなさい。
おとうさんと、おじさんとしゃしんをとったのでおくります。
いつかバッファローマンさんにあいたいです。
ひろき
「かわいー」
「7歳でこんな立派な手紙が書けるのか。スゲエな」
「バッファより上手かもね」
「ナマイキだなチンクちゃん」
「チンクって呼んだら返事しないってゆった」
「ほら、写真」
封筒に入っていた写真を取り出す。そこには手紙に書かれていた通り、林田親子と相良が写っていた。
3人は立てた両の人差し指をコメカミのわきにあて、それを角に見立てて、並んで立っていた。
みんな満面の笑みを浮かべている。
それを見たバッファローマンの顔にも同じ笑顔が浮かんだ。
「よかったね」
のぞき込んだ彼女の顔にもまた笑顔が浮かんでいる。
「また、いつか行こうな」
そう言ってバッファローマンは彼女を抱き寄せると、小さな額にいつものようにキスをした。
end
初出PIXIV 2020.09.05
集合ポストを覗くと、封書が1通入っていた。ポストを開けて手に取った封筒の表にはバッファローマンの名前が記されていた。何の気なしに裏返し、そこに書かれていた差出人の名前を見て彼女はハッと息をのんだ。そこには
林田 直樹・完樹
と記されていた。
部屋に戻ってリビングのテーブルの上にそっと置いた。
夜になって、玄関ドアの鍵が開くガチャリという音を聞くと、バッファローマンの帰りを首を長くして待っていた彼女は玄関まで小走りで迎えに出た。
「おかえりー!」
そう言っていつものように首元にしがみついてぶら下がる。
「おう、ただいま」
バッファローマンが彼女の髪をワシワシなでる。これもいつものことだ
「バッファにお手紙きてるよ!」
「誰から?」
「海の林田さん!」
「お、そうか」
しがみついていた首元から離れて、相手のビジネスバックを持ちながら話しかけた
「なんて書いてあるんだろ!?」
「メシのあとに二人で読もう」
「うん!」
ホテル キー・ラーゴに泊まった翌朝、晩に予定が入っていたバッファローマンは、朝食のあと、かなり早い時間にチェックアウトすることにした。あの後の林田直樹のことは気になっていたし、完樹とは直接会って言葉を交わしてみたいと思ったが、彼が無事に助かったことが判ったのでもう充分だ。
さすがに相良は出勤してきていて、二人はホテルのロビーで彼に別れを告げた。バッファローマンが止めても相変わらず彼は何度も頭を下げ、林田の不在を詫び、よろしく伝えてほしいというバッファローマンのメッセージを必ず伝えると承った。
「ぜひまたお越しください。今度はゆっくりと。観光のご案内もさせていただきますので。
少しお待ちください、駅まで車を出しますから」
「いや、気持ちだけもらっておくよ。この体格だからな、セダンは窮屈なんでね」
そう言われて相手を見上げた相良はなるほど、というように頷いた。マイクロバスの狭い通路とシートも恐らく不適だろう。
「それでは、玄関までお見送りさせてください。それと、これはお手荷物になってしまいますが、お土産を――当ホテルの焼き菓子などです。よろしければお持ちください」
「ありがとう、もらっていくよ」
受取りながらバッファローマンは彼女を見てよかったな、と言った。満面の笑みを返した彼女は、ふいに声をあげて、日傘を部屋に置き忘れてきたと言い出した。取りに行かせると言う相良を遮って、自分で取ってくる、と小走りに部屋へ行ってしまった。
「なんかいつも、ピョコピョコしててな」
後ろ姿を見やってバッファローマンは苦笑する。
「失礼ですが奥さまでいらっしゃいますか?」
「まあ…そうでもあるし、そうでもないかな、今のところ。きちんとした手続きはしてないんでね」
「そうですか」
相良は半歩バッファローマンに近づいて小声で語りかけた。
「当ホテルはブライダルも承っておりまして。その節は、ぜひご一考を。色々ご配慮させていただきますので」
「昨日から思ってたが、アンタ、けっこうやり手だろ?」
バッファローマンがニヤリと笑って相良を見下ろすと彼はプロのホテルマンらしくニッコリと笑った。
「ご連絡を心よりお待ち申し上げております」
食事をすませて、いつものように二人並んでソファに腰かけると、バッファローマンが手紙の封を開けた。そこには達筆な文字で過日の礼と、完樹の経過が記されていた。心配していた後遺症もまったくないらしい。元気で学校に(小学1年生だった)通っているそうだ。
「心配ねえな」
「ほんと!よかったね!」
便箋はもう1枚はいっていて、こちらは大きなつたない文字でやはり礼の言葉が綴られていた。
バッファローマンさん
たすけてくれてありがとうございました。
ちゃんとおれいがいえなくてごめんなさい。
おとうさんと、おじさんとしゃしんをとったのでおくります。
いつかバッファローマンさんにあいたいです。
ひろき
「かわいー」
「7歳でこんな立派な手紙が書けるのか。スゲエな」
「バッファより上手かもね」
「ナマイキだなチンクちゃん」
「チンクって呼んだら返事しないってゆった」
「ほら、写真」
封筒に入っていた写真を取り出す。そこには手紙に書かれていた通り、林田親子と相良が写っていた。
3人は立てた両の人差し指をコメカミのわきにあて、それを角に見立てて、並んで立っていた。
みんな満面の笑みを浮かべている。
それを見たバッファローマンの顔にも同じ笑顔が浮かんだ。
「よかったね」
のぞき込んだ彼女の顔にもまた笑顔が浮かんでいる。
「また、いつか行こうな」
そう言ってバッファローマンは彼女を抱き寄せると、小さな額にいつものようにキスをした。
end
初出PIXIV 2020.09.05
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