SIZE(バッファローマン夢小説)
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Number one in space
テキサスブロンコと呼ばれる、熱いハートを持ったあの男の下で少しの間暮らしたことがある。
その間アメリカ式の――丁寧にトリミングした赤身肉を分厚く切って、ミディアムレアに焼いたものを熱いうちに勢いよく食べる――ステーキが毎晩食卓に上った。肉ばかりでよく飽きないものだと思っていたが、食べつけるに従って気がついた。
単調に思えていた赤身肉には簡素だけれどもきちんと滋味があり、簡素だからこそ毎日食べても飽きがこないのだと。
以降バッファローマンはアメリカ人(アメリカ出身の超人も含めて)の舌もなかなかのものだと認識を新たにしたのだった。
そんな経験をてらいなく話して聞かせると彼女はこう言った。
「バッファは世界の色んなところに行ったことがあるし、美味しいものをたくさん知ってるから凄いなっていつも思ってるの」
彼は肩をすくめた。
「今はな。昔は、若い頃は喰うや喰わずの時期が長かった。旨いものなんて少しも知らなかったし、テーブルマナーなんざ知ったこっちゃねえって感じだった」
「……そっか」
「こういうのは――バッファローマンは豪奢な店内を見渡して言葉を続けた――
紆余曲折あって正義超人になったあと、イギリスでロビンに仕込まれたんだ、徹底的に」
リングにあっても騎士道精神を忘れない古い一族の後継者はバッファローマンにこう言ったのだ。
「マナーは相手に恥をかかせないためにある。正義超人の仲間入りをしたのなら、お前がゲストのときだけでなくホストになったときのためにもこういう世界で生きていくことも覚えろ」と。
「そんなワケでオレはヤツのところでしばらくやっかいになったんだ」
バッファローマンは軽く肩をすくめて話を続けた。
「ところが言ってるコトはマトモなんだが教え方は少しもマトモじゃなかった。同じミスを繰り返すとあの変態野郎、人の手の甲をムチで叩きやがる――ああ、オレとヤツの名誉のために言っておくが、そういうムチじゃないぞ?昔の寄宿学校で使ってたような小枝みたいなもんだ」
「ムチはひどいけど、お世話になった人を変態って言うのよくないと思う」
チッチッチ、と立てた人差し指を左右に振って彼女の言を否定する。
「いーや、アイツは変態だ。正真正銘の変態紳士で仮面の奇行士だ――まあ、だが、悪いヤツじゃねえな」
バッファローマンは何かを思い出すような眼差しでグラスを軽く2~3回まわし、ワインを口に含む。
「今となってはいい思い出だ」
デセールと濃くて熱いコーヒーまでフルコースを堪能した二人は、ホテルの最上階にあるバーで食後酒を楽しんでいた。
「美味かったな」
「すっごく美味しかった。とっても楽しかったし、嬉しかった。連れてきてくれてありがとう」
「また来よう」
「うん」
バッファローマンが掌にブランデーグラスを収め、レミーマルタンの馥郁とした香りと甘く喉を焼く味わいを楽しんでいる様は、古いヨーロッパ映画のワンシーンのようだ。
グラスホッパーを、ミントアイスクリームを溶かしたようなとろりと甘いカクテルを味わいながら、どうしてこの人はこんなに素敵なんだろうと彼女は彼を眺めてしみじみ思う。
バッファローマンは上質のソファに深く身を沈めてゆったりとくつろいでいる。シトリンの色をした瞳とそれに色を合わせたシャツが、ムーディーな照明の下で淡く輝く。スーツは身体のラインにピシリと合っている。もちろん彼の体躯に合うレディメイドのスーツなどまず存在しない。必然的にオーダーメイドになるけれども、それだって超人レスラーとして鍛え上げられた体型のせいで、パターンメイドでは作ることが出来ず、プロ中のプロとされるテイラーが仕立てるのだ。
「どうした?」
陶然と自分を見つめている彼女に問う。
「なに?」
「呆けてる」
「……バッファがとっても格好いいなぁ、って思ってたの。初めて会ったときも、そのあとも、今夜も。世界で、ううん、宇宙で一番素敵」
「……酔ってんのか」
「酔ってない。いっつもそう思ってるの。恥ずかしいから言わないだけ」
ならば言ってしまおうか。
バッファローマンは一瞬そう思った。
本当のことを云えば、記念日ではあるのだ。
小雨降るあの日の今日。
春とは名ばかりのとても寒い夜だった。
街路灯に透けて銀色に輝く雨粒がとても綺麗で、ボンバージャケットの片脇に彼女の温もりがあるのが嬉しかった。
そしてこちらを見上げて浮かべた笑顔を見て
ああ、自分はいま幸せなのだな
と思ったのだ。
窓の向こうの夜景を眺めながら彼は問う。
「明日は何か予定入ってるのか?」
「ううん。仕事も休み」
彼女の返事を聞くとバッファローマンは控えめに片手を挙げ、バー・ウェイターを呼び寄せて何事かを告げた。
その場を離れたウェイターは程無くして彼のもとに戻ってきて、耳打ちをする。
向き直って彼女に告げた。
「部屋とったから泊まってくか」
「どしたの?急に」
「違うシチュエーションで盛り上がるのもいいだろ?」
「……エロうし」
ム、と彼は軽く眉をしかめた。
「さっきとずいぶん違うな」
「じゃ宇宙で一番素敵なエロうし」
「いいさ、どっちでも」
バッファローマンは肩をすくめて笑った。
end
初出PIXIV 2021.03.09
テキサスブロンコと呼ばれる、熱いハートを持ったあの男の下で少しの間暮らしたことがある。
その間アメリカ式の――丁寧にトリミングした赤身肉を分厚く切って、ミディアムレアに焼いたものを熱いうちに勢いよく食べる――ステーキが毎晩食卓に上った。肉ばかりでよく飽きないものだと思っていたが、食べつけるに従って気がついた。
単調に思えていた赤身肉には簡素だけれどもきちんと滋味があり、簡素だからこそ毎日食べても飽きがこないのだと。
以降バッファローマンはアメリカ人(アメリカ出身の超人も含めて)の舌もなかなかのものだと認識を新たにしたのだった。
そんな経験をてらいなく話して聞かせると彼女はこう言った。
「バッファは世界の色んなところに行ったことがあるし、美味しいものをたくさん知ってるから凄いなっていつも思ってるの」
彼は肩をすくめた。
「今はな。昔は、若い頃は喰うや喰わずの時期が長かった。旨いものなんて少しも知らなかったし、テーブルマナーなんざ知ったこっちゃねえって感じだった」
「……そっか」
「こういうのは――バッファローマンは豪奢な店内を見渡して言葉を続けた――
紆余曲折あって正義超人になったあと、イギリスでロビンに仕込まれたんだ、徹底的に」
リングにあっても騎士道精神を忘れない古い一族の後継者はバッファローマンにこう言ったのだ。
「マナーは相手に恥をかかせないためにある。正義超人の仲間入りをしたのなら、お前がゲストのときだけでなくホストになったときのためにもこういう世界で生きていくことも覚えろ」と。
「そんなワケでオレはヤツのところでしばらくやっかいになったんだ」
バッファローマンは軽く肩をすくめて話を続けた。
「ところが言ってるコトはマトモなんだが教え方は少しもマトモじゃなかった。同じミスを繰り返すとあの変態野郎、人の手の甲をムチで叩きやがる――ああ、オレとヤツの名誉のために言っておくが、そういうムチじゃないぞ?昔の寄宿学校で使ってたような小枝みたいなもんだ」
「ムチはひどいけど、お世話になった人を変態って言うのよくないと思う」
チッチッチ、と立てた人差し指を左右に振って彼女の言を否定する。
「いーや、アイツは変態だ。正真正銘の変態紳士で仮面の奇行士だ――まあ、だが、悪いヤツじゃねえな」
バッファローマンは何かを思い出すような眼差しでグラスを軽く2~3回まわし、ワインを口に含む。
「今となってはいい思い出だ」
デセールと濃くて熱いコーヒーまでフルコースを堪能した二人は、ホテルの最上階にあるバーで食後酒を楽しんでいた。
「美味かったな」
「すっごく美味しかった。とっても楽しかったし、嬉しかった。連れてきてくれてありがとう」
「また来よう」
「うん」
バッファローマンが掌にブランデーグラスを収め、レミーマルタンの馥郁とした香りと甘く喉を焼く味わいを楽しんでいる様は、古いヨーロッパ映画のワンシーンのようだ。
グラスホッパーを、ミントアイスクリームを溶かしたようなとろりと甘いカクテルを味わいながら、どうしてこの人はこんなに素敵なんだろうと彼女は彼を眺めてしみじみ思う。
バッファローマンは上質のソファに深く身を沈めてゆったりとくつろいでいる。シトリンの色をした瞳とそれに色を合わせたシャツが、ムーディーな照明の下で淡く輝く。スーツは身体のラインにピシリと合っている。もちろん彼の体躯に合うレディメイドのスーツなどまず存在しない。必然的にオーダーメイドになるけれども、それだって超人レスラーとして鍛え上げられた体型のせいで、パターンメイドでは作ることが出来ず、プロ中のプロとされるテイラーが仕立てるのだ。
「どうした?」
陶然と自分を見つめている彼女に問う。
「なに?」
「呆けてる」
「……バッファがとっても格好いいなぁ、って思ってたの。初めて会ったときも、そのあとも、今夜も。世界で、ううん、宇宙で一番素敵」
「……酔ってんのか」
「酔ってない。いっつもそう思ってるの。恥ずかしいから言わないだけ」
ならば言ってしまおうか。
バッファローマンは一瞬そう思った。
本当のことを云えば、記念日ではあるのだ。
小雨降るあの日の今日。
春とは名ばかりのとても寒い夜だった。
街路灯に透けて銀色に輝く雨粒がとても綺麗で、ボンバージャケットの片脇に彼女の温もりがあるのが嬉しかった。
そしてこちらを見上げて浮かべた笑顔を見て
ああ、自分はいま幸せなのだな
と思ったのだ。
窓の向こうの夜景を眺めながら彼は問う。
「明日は何か予定入ってるのか?」
「ううん。仕事も休み」
彼女の返事を聞くとバッファローマンは控えめに片手を挙げ、バー・ウェイターを呼び寄せて何事かを告げた。
その場を離れたウェイターは程無くして彼のもとに戻ってきて、耳打ちをする。
向き直って彼女に告げた。
「部屋とったから泊まってくか」
「どしたの?急に」
「違うシチュエーションで盛り上がるのもいいだろ?」
「……エロうし」
ム、と彼は軽く眉をしかめた。
「さっきとずいぶん違うな」
「じゃ宇宙で一番素敵なエロうし」
「いいさ、どっちでも」
バッファローマンは肩をすくめて笑った。
end
初出PIXIV 2021.03.09
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