心とかすような(バッファローマン夢小説)
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――愁嘆場はゴメンだ。
バッファローマンはまずそう思った。そして「じゃあ、オレは帰る」といって二人をおいてあっさりと立ち去った。彼が宣言した瞬間、彼女はなにかを言おうとしていたが、聞く耳ももたずに。
一人の女をとり合って他の男とすったもんだするのは性にあわない。自分は選ぶほうで、選ばれるほうではない。女などより取り見取りだったし、そのなかから一番好みに合う相手とつき合ってきた。ハッキリいえば体格も膂力も超人にはるかに劣る人間と、同じ俎上にのせられるのは興ざめだ。
あれから十日がたった。いつもなら一度くらいはバッファローマンは店に来てくれるはずなのに、姿を現さない。もしかして、いや、間違いなくあのときの場面が誤解をまねいたのだろう。
あの夜、キッチンカーの隣で待っていたのはかつての職場の上司だった。人員不足のために戻ってきてほしいと先ごろから連絡をうけ、都度に断っていたのだが、らちが明かないと思ったのか、直接会って交渉しようと、相手は職場、つまりキッチンカーを出店しているこの公園まで出向いてきたのだった。
知り合いか、と聞かれた瞬間に「前の職場の上司です」と即答しておけばよかった。正直にいえば相手から交際を申しこまれ、断ったら仕事がしにくくなった故の退職だった。そういういきさつをバッファローマンの目の前で口にされたらどうしようか、と迷ったのがよくなかった。
仕事をしながら、ついついキッチンカーのカウンターごしにあの双角巨躯の姿を探してしまう。電話番号も住んでいる場所も知らない。断られたときのことをおそれためらっていたが、ドライブのときにでも聞いておけばよかった。
ランチタイムもとうに過ぎ、公園はすっかり静まりかえっている。彼女はポツンと停まったワーゲンバスのなかで帳簿をつけながら、今日も会えないのだろうか、とちょっぴり沈んでいた。
そのとき、初めてバッファローマンの姿を見つけたときと同じように、彼の姿が目にとびこんできた。
彼女はあわてて反対側のスライドアを開けて飛びだし、彼に向かってまろぶように走った。
「バッファローマンさん!」
聞き覚えのある声で、自分の名を呼ばれたバッファローマンがふり返ると、彼女がこちらに駆けてくるところだった。あわやぶつける寸前で立ち止まり、ゼイゼイと息を切らせている。
「どうした、あわてて」
「だって、ぜんぜん、来て、くださらないから、怒っている、のかと、おもって」息つぎの合間にしゃべるものだから、ポツリポツリとした雨だれみたいな口調になってしまう。
「オレが腹を立てる理由はなにもないだろう」
「そうなんですけど!実際ないんですけど!でもそれを説明したかったのに、フイって帰ってしまうから……」
「アイツにはあったように見えるがな」
その瞬間、バッファローマンは自分が少しばかりヤキモチを焼いていたことに気がついてしまい、愕然とした。あまりにも縁遠い感情だったため、いままで気がつかなかったのだ。
「彼のことはちっとも!なんとも!思ってません!!バッファローマンさん、私はあなたが好きなんです!」
「知ってる」
バッファローマンは毒気をぬかれたようにポツリといった。
本当はその言葉は自分が先に言うべきだった。
「……自信家なんですね」
「それもあるが、アンタいつも『好きでたまらない』って目でオレをみてるからな」
「そ、そんなこと」
「あるだろ?」
「……はい」
なんだか自分と彼ではあまりにも色々なものが違い過ぎる。だけど考えもしなかったかたちではあったが、誤解がとけた安堵から、彼女はポロポロと涙をこぼし始めた。
「笑ってくれよ、泣かせるために言わせたんじゃない」
「返事、きかせてもらえたら、笑います」
小さくてかわいくて、ちっぽけで。なのにまさか、こんなふうに告白させられてしまうとは思ってもみなかった。
「オレはアンタが好きだ」
それからバッファローマンは彼女にキスをした。このあいだのような優しいキスではなく、情熱的な、心とかすようなキスを。
彼はこれから何度もそれをするつもりだ。
そうして、彼女をすっかり自分の虜にしてやろうと思っている。
それが二人の物語のはじまりだった。
end
初出PIXIV 2023.03.09
バッファローマンはまずそう思った。そして「じゃあ、オレは帰る」といって二人をおいてあっさりと立ち去った。彼が宣言した瞬間、彼女はなにかを言おうとしていたが、聞く耳ももたずに。
一人の女をとり合って他の男とすったもんだするのは性にあわない。自分は選ぶほうで、選ばれるほうではない。女などより取り見取りだったし、そのなかから一番好みに合う相手とつき合ってきた。ハッキリいえば体格も膂力も超人にはるかに劣る人間と、同じ俎上にのせられるのは興ざめだ。
あれから十日がたった。いつもなら一度くらいはバッファローマンは店に来てくれるはずなのに、姿を現さない。もしかして、いや、間違いなくあのときの場面が誤解をまねいたのだろう。
あの夜、キッチンカーの隣で待っていたのはかつての職場の上司だった。人員不足のために戻ってきてほしいと先ごろから連絡をうけ、都度に断っていたのだが、らちが明かないと思ったのか、直接会って交渉しようと、相手は職場、つまりキッチンカーを出店しているこの公園まで出向いてきたのだった。
知り合いか、と聞かれた瞬間に「前の職場の上司です」と即答しておけばよかった。正直にいえば相手から交際を申しこまれ、断ったら仕事がしにくくなった故の退職だった。そういういきさつをバッファローマンの目の前で口にされたらどうしようか、と迷ったのがよくなかった。
仕事をしながら、ついついキッチンカーのカウンターごしにあの双角巨躯の姿を探してしまう。電話番号も住んでいる場所も知らない。断られたときのことをおそれためらっていたが、ドライブのときにでも聞いておけばよかった。
ランチタイムもとうに過ぎ、公園はすっかり静まりかえっている。彼女はポツンと停まったワーゲンバスのなかで帳簿をつけながら、今日も会えないのだろうか、とちょっぴり沈んでいた。
そのとき、初めてバッファローマンの姿を見つけたときと同じように、彼の姿が目にとびこんできた。
彼女はあわてて反対側のスライドアを開けて飛びだし、彼に向かってまろぶように走った。
「バッファローマンさん!」
聞き覚えのある声で、自分の名を呼ばれたバッファローマンがふり返ると、彼女がこちらに駆けてくるところだった。あわやぶつける寸前で立ち止まり、ゼイゼイと息を切らせている。
「どうした、あわてて」
「だって、ぜんぜん、来て、くださらないから、怒っている、のかと、おもって」息つぎの合間にしゃべるものだから、ポツリポツリとした雨だれみたいな口調になってしまう。
「オレが腹を立てる理由はなにもないだろう」
「そうなんですけど!実際ないんですけど!でもそれを説明したかったのに、フイって帰ってしまうから……」
「アイツにはあったように見えるがな」
その瞬間、バッファローマンは自分が少しばかりヤキモチを焼いていたことに気がついてしまい、愕然とした。あまりにも縁遠い感情だったため、いままで気がつかなかったのだ。
「彼のことはちっとも!なんとも!思ってません!!バッファローマンさん、私はあなたが好きなんです!」
「知ってる」
バッファローマンは毒気をぬかれたようにポツリといった。
本当はその言葉は自分が先に言うべきだった。
「……自信家なんですね」
「それもあるが、アンタいつも『好きでたまらない』って目でオレをみてるからな」
「そ、そんなこと」
「あるだろ?」
「……はい」
なんだか自分と彼ではあまりにも色々なものが違い過ぎる。だけど考えもしなかったかたちではあったが、誤解がとけた安堵から、彼女はポロポロと涙をこぼし始めた。
「笑ってくれよ、泣かせるために言わせたんじゃない」
「返事、きかせてもらえたら、笑います」
小さくてかわいくて、ちっぽけで。なのにまさか、こんなふうに告白させられてしまうとは思ってもみなかった。
「オレはアンタが好きだ」
それからバッファローマンは彼女にキスをした。このあいだのような優しいキスではなく、情熱的な、心とかすようなキスを。
彼はこれから何度もそれをするつもりだ。
そうして、彼女をすっかり自分の虜にしてやろうと思っている。
それが二人の物語のはじまりだった。
end
初出PIXIV 2023.03.09
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