心とかすような(バッファローマン夢小説)
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バッファローマンがランチに選んだ店は、坂の途中にある、まるで海に突きだしたようにみえる古い喫茶店だった。こじんまりとした外観とは裏腹に、店内はビックリするほど広くて、歳月を経て飴色になった床板やクラシックなつくりの家具が、レトロモダンな雰囲気を作り上げていた。
「なんでも好きなものを食ってくれ」そう言われるまま、開いたメニューは、これもまた懐かしさをおぼえる料理の名前がズラリとならんでいた。
彼女はナポリタンとエビグラタン、どちらにするか迷って後者をえらんだ。麺の取り扱いに四苦八苦したり、ソースのはねを気にして会話がお留守になるのは避けたかったから。
たいしてバッファローマンはカレーピラフにハンバーグとクレソンのサラダ。もちろんどれも二人前ずつだ。彼女はそれを見てやっぱり超人はたくさん食べるのだと内心ひどく感心した。
食後にはクリームソーダとコーヒーをそれぞれ頼んで、腰を落ちつけて会話を楽しんだ。彼女はポップな緑色の炭酸水につかって端が溶け固まったアイスをストローでつつきながら、窓の外に停めてあるバッファローマンのトリノをうっとりと見やった。
「あのクルマ、とってもロマンチックですね」
「サンキュー。さっきの話に付けくわえると、実際は選択の余地がなかっただけなんだけどな」
「と、いうと?」
「コレさ」
バッファローマンは太い指で己の双角を指し示した。
天井にむかってそそり立つロングホーンは、勇猛さがそのまま形になったように見えた。
「コイツのせいでルーフのあるクルマを自分で運転するのは難しいんだ。おまけにこの図体だろ?大概の車種は窮屈でな。長年検討した結果、このマシンに落ち着いた」
「カッコいいだけじゃないんですね」
「まあ、見た目も気に入ってるが」
「カッコいいのは……クルマもですけど、あの、あなたのロングホーンがって意味で」
「ああ、サンキュー」
さも当然のようにサラリと受け止められ、拍子抜けすると共に、この類いの称賛は彼にとって日常茶飯事なのだと気がついた。やはり特別な存在なのだ。
「……あ」
「ん?」
「サンルーフつきのクルマなら、大丈夫かもしれません」
「なるほど」
二人のあいだに静けさが訪れたのはその様子をそれぞれ思い浮かべたのだろう。再び口を開いたのはバッファローマンだった。
「でもなあ、天井から角が飛び出してるクルマなんてなあ」
「ちょっと……ヘンですね」
「反対側の車線からそんなクルマが来たらどうする?」
「笑います」
「だろ?」
ひとりしきり笑いあったあと「そろそろ行こうか」とバッファローマンは立ちあがった。もちろん手には伝票を持って。スマートに会計をすませる彼に、彼女は自分のぶんは支払うと申し出たが「オレにいいカッコをさせてくれよ」といわれ、ありがたく好意に甘えることにした。
「ここはよく来るんですか?」
「ああ。コイツでもストレスのないルートだし、近いから。天気が下り坂になってもすぐ帰れる」
「幌はないんですか?」
「あるよ」
「じゃあそれを……って、もしかしてロングホーンのせいで使えないんですか?」
「そういうコト。だからどうしようもなく降っちまったら、屋根のあるところに入るしかないな、ホテルとか」
不意打ちのような生々しい単語にドギマギしながらバッファローマンを見つめると、さもおかしそうにニヤニヤ笑いを浮かべている。
「まあ、デートで男がよく使う手だ」
「本当に下心のある人はわざわざ言いません」
「そうか」
再び車中の人になるべく、彼女がドアノブにそっと手をかけると「なあ」と呼びかけられた。
バッファローマンは彼女の肩に手をまわし、そっと引き寄せ、もう片方の手で小さなあごをクイと持ち上げ。
やさしく――とてもやさしくキスをした。
彼の身体はとても大きいから、そんな風でないと相手は「取って食われるのではないか」と勘違いしてビックリしてしまうのだ。
彼女はとっさの出来事で頭のなかがパニックになりながらも「ああ、超人も唇はやわらかいのだな」と見当ちがいなことを考えていた。
キスのあと、バッファローマンは彼女の顔をのぞきこみ、イタズラめいた口調でこう言った。
「下心がなかったらデートなんて誘わねえよ」
「なんでも好きなものを食ってくれ」そう言われるまま、開いたメニューは、これもまた懐かしさをおぼえる料理の名前がズラリとならんでいた。
彼女はナポリタンとエビグラタン、どちらにするか迷って後者をえらんだ。麺の取り扱いに四苦八苦したり、ソースのはねを気にして会話がお留守になるのは避けたかったから。
たいしてバッファローマンはカレーピラフにハンバーグとクレソンのサラダ。もちろんどれも二人前ずつだ。彼女はそれを見てやっぱり超人はたくさん食べるのだと内心ひどく感心した。
食後にはクリームソーダとコーヒーをそれぞれ頼んで、腰を落ちつけて会話を楽しんだ。彼女はポップな緑色の炭酸水につかって端が溶け固まったアイスをストローでつつきながら、窓の外に停めてあるバッファローマンのトリノをうっとりと見やった。
「あのクルマ、とってもロマンチックですね」
「サンキュー。さっきの話に付けくわえると、実際は選択の余地がなかっただけなんだけどな」
「と、いうと?」
「コレさ」
バッファローマンは太い指で己の双角を指し示した。
天井にむかってそそり立つロングホーンは、勇猛さがそのまま形になったように見えた。
「コイツのせいでルーフのあるクルマを自分で運転するのは難しいんだ。おまけにこの図体だろ?大概の車種は窮屈でな。長年検討した結果、このマシンに落ち着いた」
「カッコいいだけじゃないんですね」
「まあ、見た目も気に入ってるが」
「カッコいいのは……クルマもですけど、あの、あなたのロングホーンがって意味で」
「ああ、サンキュー」
さも当然のようにサラリと受け止められ、拍子抜けすると共に、この類いの称賛は彼にとって日常茶飯事なのだと気がついた。やはり特別な存在なのだ。
「……あ」
「ん?」
「サンルーフつきのクルマなら、大丈夫かもしれません」
「なるほど」
二人のあいだに静けさが訪れたのはその様子をそれぞれ思い浮かべたのだろう。再び口を開いたのはバッファローマンだった。
「でもなあ、天井から角が飛び出してるクルマなんてなあ」
「ちょっと……ヘンですね」
「反対側の車線からそんなクルマが来たらどうする?」
「笑います」
「だろ?」
ひとりしきり笑いあったあと「そろそろ行こうか」とバッファローマンは立ちあがった。もちろん手には伝票を持って。スマートに会計をすませる彼に、彼女は自分のぶんは支払うと申し出たが「オレにいいカッコをさせてくれよ」といわれ、ありがたく好意に甘えることにした。
「ここはよく来るんですか?」
「ああ。コイツでもストレスのないルートだし、近いから。天気が下り坂になってもすぐ帰れる」
「幌はないんですか?」
「あるよ」
「じゃあそれを……って、もしかしてロングホーンのせいで使えないんですか?」
「そういうコト。だからどうしようもなく降っちまったら、屋根のあるところに入るしかないな、ホテルとか」
不意打ちのような生々しい単語にドギマギしながらバッファローマンを見つめると、さもおかしそうにニヤニヤ笑いを浮かべている。
「まあ、デートで男がよく使う手だ」
「本当に下心のある人はわざわざ言いません」
「そうか」
再び車中の人になるべく、彼女がドアノブにそっと手をかけると「なあ」と呼びかけられた。
バッファローマンは彼女の肩に手をまわし、そっと引き寄せ、もう片方の手で小さなあごをクイと持ち上げ。
やさしく――とてもやさしくキスをした。
彼の身体はとても大きいから、そんな風でないと相手は「取って食われるのではないか」と勘違いしてビックリしてしまうのだ。
彼女はとっさの出来事で頭のなかがパニックになりながらも「ああ、超人も唇はやわらかいのだな」と見当ちがいなことを考えていた。
キスのあと、バッファローマンは彼女の顔をのぞきこみ、イタズラめいた口調でこう言った。
「下心がなかったらデートなんて誘わねえよ」