呼び声(バッファローマン夢小説)
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その日はいつもと比べ、二人の会話が少ないことにバッファローマンはふと気がついた。
人気のない電車内、座席はあちこち空いているけれど、彼らが座ることはない。
だって人並み外れた巨軀を有するこの伝説超人(レジェンド)がデン、とシートに腰かけていたら、誰だって気後れしてその並びに座ることをためらってしまうだろう。
彼女は彼女で、二人で出かけるのが大好きだし、電車に乗っているバッファローマンを見るのはさらに好きなので、一人だけ離れて座席に座るなんて考えられないことだった。
250センチの長身は日本の鉄道車両の規格からは明らかに外れている。おまけに車内には吊り広告や吊革などがアチコチあるものだから、いきおい彼の身は縮こまりがちになる。
その姿はまるで居心地の悪いクマのぬいぐるみのようで、たまらなく可愛らしいと彼女はいつも思っているのだが、さすがに当人には言っていない。
そんなわけで乗車した時から並んで立っているのに、いっかな彼女がバッファローマンに話しかけてこず、気になって見下ろせばその目は車窓に向けられ、心ここにあらずな様子だった。
「どうした?」
「――え?」
「具合でも悪いのか?」
ちがう、と彼女は慌てて首をふった。
「ゴメンね、ボーッとしてて」
「いや、別に」
特に問題がなければそれでいい。たまには過ぎて行く風景を眺めてゆっくり物思いにふけるのもいいだろう。
「――あのね?」
彼女はバッファローマンの顔を下から覗きこむようにして話しかけた。
「ん?」
「今日みたいな『夏!』ってカンジの日って、何だかすごく気持ちがフワフワして、それで今すぐ海に行かなきゃ!って気になるの。
毎年夏が来る度に『今年はイヤってほど海水浴行くぞ!縁日と花火も見るぞ!スイカをお腹壊すまで食べるぞ!』って決心するんだ」
指を折って数えるように、節をつけてやりたいことを列挙するとクスクス笑った。
「でも、いざ本格的に暑くなると一日をやりくりするだけで精一杯になっちゃって、やろうとしてたことを達成できたためしなんてなくて、今年もそうなるのかなって、ちょっと思ってたところ」
肩をすくめた彼女の、その小さな白い額が日にやけてほんのり赤くなったところが急に見てみたくなった。
「なあ、今日は予定を変えて、これから海に行かないか?」
「ホント!?」
「天気も申し分ないし、世間様より先に海開きといこう」
「ビール飲む?」
「当たり前だろ。イカ焼きも食おうぜ」
「エンペラわたしにちょうだい!」
「おう、いいぞ」
「東の海?それとも南の海?」
「――そうだな、取りあえずこのまま乗って東京駅に出て、そこで決めよう」
彼女は音に出さずに歓声をあげて、バッファローマンの丸太のような腕に手をかけキャッキャッとはしゃいだ。
列車は進む。
レールの継ぎ目が、夏へ向かって規則正しいリズムを刻んでいた。
End
初出:PIXIV 2021.07
人気のない電車内、座席はあちこち空いているけれど、彼らが座ることはない。
だって人並み外れた巨軀を有するこの伝説超人(レジェンド)がデン、とシートに腰かけていたら、誰だって気後れしてその並びに座ることをためらってしまうだろう。
彼女は彼女で、二人で出かけるのが大好きだし、電車に乗っているバッファローマンを見るのはさらに好きなので、一人だけ離れて座席に座るなんて考えられないことだった。
250センチの長身は日本の鉄道車両の規格からは明らかに外れている。おまけに車内には吊り広告や吊革などがアチコチあるものだから、いきおい彼の身は縮こまりがちになる。
その姿はまるで居心地の悪いクマのぬいぐるみのようで、たまらなく可愛らしいと彼女はいつも思っているのだが、さすがに当人には言っていない。
そんなわけで乗車した時から並んで立っているのに、いっかな彼女がバッファローマンに話しかけてこず、気になって見下ろせばその目は車窓に向けられ、心ここにあらずな様子だった。
「どうした?」
「――え?」
「具合でも悪いのか?」
ちがう、と彼女は慌てて首をふった。
「ゴメンね、ボーッとしてて」
「いや、別に」
特に問題がなければそれでいい。たまには過ぎて行く風景を眺めてゆっくり物思いにふけるのもいいだろう。
「――あのね?」
彼女はバッファローマンの顔を下から覗きこむようにして話しかけた。
「ん?」
「今日みたいな『夏!』ってカンジの日って、何だかすごく気持ちがフワフワして、それで今すぐ海に行かなきゃ!って気になるの。
毎年夏が来る度に『今年はイヤってほど海水浴行くぞ!縁日と花火も見るぞ!スイカをお腹壊すまで食べるぞ!』って決心するんだ」
指を折って数えるように、節をつけてやりたいことを列挙するとクスクス笑った。
「でも、いざ本格的に暑くなると一日をやりくりするだけで精一杯になっちゃって、やろうとしてたことを達成できたためしなんてなくて、今年もそうなるのかなって、ちょっと思ってたところ」
肩をすくめた彼女の、その小さな白い額が日にやけてほんのり赤くなったところが急に見てみたくなった。
「なあ、今日は予定を変えて、これから海に行かないか?」
「ホント!?」
「天気も申し分ないし、世間様より先に海開きといこう」
「ビール飲む?」
「当たり前だろ。イカ焼きも食おうぜ」
「エンペラわたしにちょうだい!」
「おう、いいぞ」
「東の海?それとも南の海?」
「――そうだな、取りあえずこのまま乗って東京駅に出て、そこで決めよう」
彼女は音に出さずに歓声をあげて、バッファローマンの丸太のような腕に手をかけキャッキャッとはしゃいだ。
列車は進む。
レールの継ぎ目が、夏へ向かって規則正しいリズムを刻んでいた。
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初出:PIXIV 2021.07
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