The museum(バッファローマン夢小説)
名前を変える
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
会場を出たあと彼女がパウダールームに姿を消し、再び姿を現すと、バッファローマンはロビーのソファに一人腰かけていた。
両肘を両脚に乗せ、手を組合せ、前屈みで足元に眼を落としている。
彼女がそっと歩みより、お待たせ、と言うとそちらを見上げ、おう、といつものように応えた。
「なにか考えてた?」
つん、と人差し指でバッファローマンの額に触れる。
相手の頭のなかが手に取るように判ってしまう、誰かの術を使うように。
問いかけられた彼は相手の手を柔らかくとって苦笑する。
「昔のことだ。くだらねえ、大昔の」
「昔のこと、あんま聞いたことないや」
バッファローマンは肩をすくめた。
「話すほどのことなんか幾らもねえのさ。
腹が減ってどうしようもなくて――そんな自分が嫌で仕方なかった。それだけだ」
――自分が嫌だから。だから捧げてしまったのだろうか。
ロングホーンを見下ろしながらそんなことを考えた。
「自分が嫌になる」
誰にでも山ほどあることだ。彼だけではない。
だから「あれは仕方のないこと」だったのだ。
そう言ってやりたかったがその言葉はあまりにも軽すぎて、バッファローマンに対してひどく失礼な気がした。
世界中の人が彼がしたことをキレイに忘れてくれたらいいのに。
彼女は彼のロングホーンにそっと手を伸ばす。
羽根のように、ふわりとそれに触れる。
「昔のぶんも、美味しいもの沢山食べよう?」
バッファローマンは再び笑った。今度は正真正銘、幸福の笑みだった。
「毎日たらふく食ってる、心配すんな」
「そっか」
彼はもう片方の手で、自分のアイデンティティーに触れている彼女の手をとる。
「おまえもナニか思い出したか?」
「うーん。夜中にクルマで走ってた時のこと……かな。ドライブよりちょっと真剣に」
深夜の峠道
ドリフト
テールの滑る感触
傾ぐ身体
立て直しを試みて踏み込むアクセル
パズルをはめ込むようなシフトチェンジの音
エンジンの唸り
世界はヘッドライトの切り取った部分にしか存在せず、宇宙を駆けているような心地。
ただひたすら速さだけを求めていた。
聞いているうちにバッファローマンの眉根が少し寄せられた。
「――昔のオトコか」
ぶっきらぼう口調に彼女は小首を傾げる。
「どうしてすぐそういう風に結びつけるかな?自分で運転してたの」
「……マジか?」
「そういう可能性だってあるでしょ?」
バッファローマンは「ぐぬぬ」と唸り、腕を組んで考え始めた。
「『オトコの隣に座ってた過去』と『走り屋だった過去』……ドッチがいいか」
ブツブツと呟く姿を見て彼女は小さく笑いながら館内の一郭を指さした。
「続きはあそこのティールームで考えない?」
壁の一面がガラス張りで中庭を望むことができ、手入れのゆきとどいた芝生が美しい。
「そうだな、一服するか」
バッファローマンは立ち上がった。
「ドリンクと、パフェも頼んでいい?」
「ああ、食え食え。おまえが食ってる間に、オレはドッチがいいか考えるから」
そう言いながら、いつものように彼女のアタマをくしゃくしゃと撫でた。
「じゃあ、なるべくゆっくり食べるね」
「ありがてえな、そうしてくれると」
陽のあたる場所で一息つくために、二人は並んで歩きだした。
End
初出:PIXIV 2020.07.19
両肘を両脚に乗せ、手を組合せ、前屈みで足元に眼を落としている。
彼女がそっと歩みより、お待たせ、と言うとそちらを見上げ、おう、といつものように応えた。
「なにか考えてた?」
つん、と人差し指でバッファローマンの額に触れる。
相手の頭のなかが手に取るように判ってしまう、誰かの術を使うように。
問いかけられた彼は相手の手を柔らかくとって苦笑する。
「昔のことだ。くだらねえ、大昔の」
「昔のこと、あんま聞いたことないや」
バッファローマンは肩をすくめた。
「話すほどのことなんか幾らもねえのさ。
腹が減ってどうしようもなくて――そんな自分が嫌で仕方なかった。それだけだ」
――自分が嫌だから。だから捧げてしまったのだろうか。
ロングホーンを見下ろしながらそんなことを考えた。
「自分が嫌になる」
誰にでも山ほどあることだ。彼だけではない。
だから「あれは仕方のないこと」だったのだ。
そう言ってやりたかったがその言葉はあまりにも軽すぎて、バッファローマンに対してひどく失礼な気がした。
世界中の人が彼がしたことをキレイに忘れてくれたらいいのに。
彼女は彼のロングホーンにそっと手を伸ばす。
羽根のように、ふわりとそれに触れる。
「昔のぶんも、美味しいもの沢山食べよう?」
バッファローマンは再び笑った。今度は正真正銘、幸福の笑みだった。
「毎日たらふく食ってる、心配すんな」
「そっか」
彼はもう片方の手で、自分のアイデンティティーに触れている彼女の手をとる。
「おまえもナニか思い出したか?」
「うーん。夜中にクルマで走ってた時のこと……かな。ドライブよりちょっと真剣に」
深夜の峠道
ドリフト
テールの滑る感触
傾ぐ身体
立て直しを試みて踏み込むアクセル
パズルをはめ込むようなシフトチェンジの音
エンジンの唸り
世界はヘッドライトの切り取った部分にしか存在せず、宇宙を駆けているような心地。
ただひたすら速さだけを求めていた。
聞いているうちにバッファローマンの眉根が少し寄せられた。
「――昔のオトコか」
ぶっきらぼう口調に彼女は小首を傾げる。
「どうしてすぐそういう風に結びつけるかな?自分で運転してたの」
「……マジか?」
「そういう可能性だってあるでしょ?」
バッファローマンは「ぐぬぬ」と唸り、腕を組んで考え始めた。
「『オトコの隣に座ってた過去』と『走り屋だった過去』……ドッチがいいか」
ブツブツと呟く姿を見て彼女は小さく笑いながら館内の一郭を指さした。
「続きはあそこのティールームで考えない?」
壁の一面がガラス張りで中庭を望むことができ、手入れのゆきとどいた芝生が美しい。
「そうだな、一服するか」
バッファローマンは立ち上がった。
「ドリンクと、パフェも頼んでいい?」
「ああ、食え食え。おまえが食ってる間に、オレはドッチがいいか考えるから」
そう言いながら、いつものように彼女のアタマをくしゃくしゃと撫でた。
「じゃあ、なるべくゆっくり食べるね」
「ありがてえな、そうしてくれると」
陽のあたる場所で一息つくために、二人は並んで歩きだした。
End
初出:PIXIV 2020.07.19
2/2ページ