――あんなカオするんだ。
パタンと小さくドアをしめたあと、忍び笑いをもらした。
公の場では『向かうところ敵なし』といった風情で超然としているのに。さっきだって平静を装ってはいたけど、内心慌てているのが手に取るように判った。
面白い。カワイイとか反省してるのかなとか、情にほだされてるのではなく、ただただ純粋に面白い。

大体、これが初めてだと思うところが浅はかなのだ。
さすがに下着ほど直截なアイテムはなかったが、見る人が見れば丸わかりだった。
ベランダの枯れたゼラニウムの鉢植え。
食器棚の、元は二客一組だったであろうティーカップとソーサー。
使いかけでとっくに賞味期限の切れたハーブやスパイス。
絶対に元悪魔超人が選ばないようなフェミニンなデザインのバスタオル。
頭隠して尻隠さずどころではない、ロングホーン以外まるきり見えている。
判っていないのはきっと本人だけ。
けれども判らないのは執着がないからなのだと思う。
バッファローマンはそういうタイプだ。
大切なものはきちんと手元に置いて慈しむし、そうできないと感じたなら手放す。
そしてそれでおしまい。
だから彼が忖度していない事どもはもう終わったことなのだ。

頭を動かしながら手も動かす。
幸いあの『ステキなぱんつ』以外にダイイングメッセージはなく、持ってきた少ない荷物はあっという間に収納空間に姿を消した。
ウォークインクロゼットだけでも彼女の住んでいたアパートのキッチンより広い。そうしろと云われたらこの中でだって寝られそうだ。
――こんなにスペースが余るなら、もう少し本も持ってきたかったな。
借りていた部屋を引き払う前に、お気に入りの本をずいぶん処分した。誰かの住まいに転がり込むのに生活必需品以外の荷物ばかりを運び込むのは何だか気が引けた。
でも、これからまた新しく増やせるだろう。収納場所に余裕があるなら、今まで我慢することが多かった大判の美術書に手を出してもいいかもしれない。
そう考えたらちょっと気分が浮き立った。
キッチンもそうだ。
部屋が広いからきっと段取りしやすい。天ぷらとか唐揚げとか他にもバッファローマンの好きなものをたくさん作りたい。