IKON
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彼女はバッファローマンが超人だから、つまりは、自分自身に迷わないと知っているから、彼がどれほど世界の重要人物であっても自分が相手に求められている限り、隣に座る資格があると確信を持っていられる。
だから、今回のようなコトが今まで全くなかったわけではないし、過去の交際関係を邪推したことが全くないと云ったらウソになるけれど、つき合い始めたかなり早い時期にそれをやめた。
正しくはやめられた。
あの忘れ物の持ち主は、残された情報から察するに、自分よりもバッファローマンにふさわしい人物だったのではないかと思うのだ、たぶん。
だから今の自分と同じだけのものは差し出されていたハズなのに、なぜこの席を離れてしまったのだろう。
考えていたらあるイメージが浮かんできて、ポロリと口からそれがでた。
「……眠り爆弾」
え?とバッファローマンが問い返すと思い出すような顔で彼女は云った。
「何時間後、みたいな近い未来じゃなくて何年、何十年も先の、条件が揃った瞬間に作動するように仕かけられてる時限爆弾のこと、どっかでそう云ってた。爆弾の存在にはずっと誰も気が付かずに生活してて、ついにその時がきたら――ドカン」
何かが弾けるように握った手を開いてみせた。
「きっとあれは一番大事にしてたもので、出て行くときに引き出しの奥の方にそっと置いていったんじゃないかな」
「理解不能だ」
「……違うかも。ただ忘れちゃっただけかも。それにそうだったとしても私じゃなくてバッファに見つけてほしいって思ってたかもだし」
それほどまでに未練があるならなぜ関係修復の努力をしなかったのか。
真実望むことならば、全力でそれにしがみつけばいいのだ。
地を這い、土を掻き、その爪が剥がれようとも。
かつて自分が左の眼を自ら潰したときのように。
確かめるすべはもうない。
「いつかその時がきたら私もそうしよっかな。それであそこで暮らした人たちが出てく時の風習にしてくの」
そう云って彼女は試すようにこちらを見上げている。
答えあぐねてバッファローマンは少し拗ねたように彼女の右の頬をつまんで云った。
「出てくのかよ」
「ううん」
「……手、出してみろ」
差し出された掌に、ジーンズの尻ポケットから取り出したものをポトリと落とした。
銀色の鍵。頭の部分に空いた穴には真っ赤なリボンが通してあって、平たい面にはアルファベットで『IKON』と記されている。
「お家の鍵?」
「ああ、おまえのだ。ちょっと変わってて、簡単にスペアが作れないから無くすなよ?」
「うん!ありがと!!」
彼女は手渡されたそれをぎゅっと握りしめた。
彼の体温で温まっていたものをこれからは自分が温めていくことになるのだ。そう思ったら晴れやかな笑みが浮かんだ。そしてバファローマンもまた、同じような笑みを浮かべているのだった。
ふいに思いついた。
「ときに今日のぱんつは何色だ?」
白。
青い空に浮かんだ、柔らかい雲みたいな白。
だけど教えてあげないことにした。
その代わり
「エロちょーじーん」
ム、と眉根を寄せた相手に降りたいのだと両手を差し出せば、バッファローマンは彼女の両脇に腕を差し入れて優しく抱きあげる。
彼女は近づいた頬にそっと唇を寄せ、新緑の若葉がそこを撫でるように、柔らかいキスをした。
End
初出:PIXIV 2021.06.09
だから、今回のようなコトが今まで全くなかったわけではないし、過去の交際関係を邪推したことが全くないと云ったらウソになるけれど、つき合い始めたかなり早い時期にそれをやめた。
正しくはやめられた。
あの忘れ物の持ち主は、残された情報から察するに、自分よりもバッファローマンにふさわしい人物だったのではないかと思うのだ、たぶん。
だから今の自分と同じだけのものは差し出されていたハズなのに、なぜこの席を離れてしまったのだろう。
考えていたらあるイメージが浮かんできて、ポロリと口からそれがでた。
「……眠り爆弾」
え?とバッファローマンが問い返すと思い出すような顔で彼女は云った。
「何時間後、みたいな近い未来じゃなくて何年、何十年も先の、条件が揃った瞬間に作動するように仕かけられてる時限爆弾のこと、どっかでそう云ってた。爆弾の存在にはずっと誰も気が付かずに生活してて、ついにその時がきたら――ドカン」
何かが弾けるように握った手を開いてみせた。
「きっとあれは一番大事にしてたもので、出て行くときに引き出しの奥の方にそっと置いていったんじゃないかな」
「理解不能だ」
「……違うかも。ただ忘れちゃっただけかも。それにそうだったとしても私じゃなくてバッファに見つけてほしいって思ってたかもだし」
それほどまでに未練があるならなぜ関係修復の努力をしなかったのか。
真実望むことならば、全力でそれにしがみつけばいいのだ。
地を這い、土を掻き、その爪が剥がれようとも。
かつて自分が左の眼を自ら潰したときのように。
確かめるすべはもうない。
「いつかその時がきたら私もそうしよっかな。それであそこで暮らした人たちが出てく時の風習にしてくの」
そう云って彼女は試すようにこちらを見上げている。
答えあぐねてバッファローマンは少し拗ねたように彼女の右の頬をつまんで云った。
「出てくのかよ」
「ううん」
「……手、出してみろ」
差し出された掌に、ジーンズの尻ポケットから取り出したものをポトリと落とした。
銀色の鍵。頭の部分に空いた穴には真っ赤なリボンが通してあって、平たい面にはアルファベットで『IKON』と記されている。
「お家の鍵?」
「ああ、おまえのだ。ちょっと変わってて、簡単にスペアが作れないから無くすなよ?」
「うん!ありがと!!」
彼女は手渡されたそれをぎゅっと握りしめた。
彼の体温で温まっていたものをこれからは自分が温めていくことになるのだ。そう思ったら晴れやかな笑みが浮かんだ。そしてバファローマンもまた、同じような笑みを浮かべているのだった。
ふいに思いついた。
「ときに今日のぱんつは何色だ?」
白。
青い空に浮かんだ、柔らかい雲みたいな白。
だけど教えてあげないことにした。
その代わり
「エロちょーじーん」
ム、と眉根を寄せた相手に降りたいのだと両手を差し出せば、バッファローマンは彼女の両脇に腕を差し入れて優しく抱きあげる。
彼女は近づいた頬にそっと唇を寄せ、新緑の若葉がそこを撫でるように、柔らかいキスをした。
End
初出:PIXIV 2021.06.09
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