くしゃみ(バッファローマン夢小説)
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「春は名のみの風の寒さや」
1913年 吉丸一昌:作詞、中田章:作曲『早春賦』
暦の上では立春は過ぎたが、まだまだ寒さが続いている。夜も10時を少しまわったこの時刻、空気は昼よりなお冷たく、吐く息はほわりと白い。
人通りの絶えた夜道を人間の女が一人歩いている。
やがて、ダンジョンの入り口のような、地下へ続く階段を降り、とあるバーのドアを開けた。
間接照明だけのほの暗い店内には、ウォールナットの一枚板でできたカウンター。
そこに求める姿があった。
膂力を感じさせる巨躯、シトリン色の瞳、頭の左右から生える、牛のそれに似た角。
彼の姿は文字どおり、「偉容」で「異様」だった。
レジェンド・バッファローマン
「―――バッファ」
彼女はこぼれるような笑みを浮かべてその超人に近づく。
バッファローマンは、裏地にムートンボアを使ったダークブラウンのボンバージャケット、ベージュ系のチノパン、足元はブラウンのポストマンシューズといった出で立ちだ。
彼はバーカウンターに肘をつき、バーボンの入ったショットグラスを手にしている。
彼女の姿を認めると、よお、と言うように片手を上げた。
「遅くなってごめんなさい。仕事、長引いちゃって」
「気にすんな。メシ食ったのか?」
「うん。休憩中に済ませた」
「じゃ、何か飲めよ」
彼女はテキーラサンライズをオーダーした。
グラスを傾けながら、二人は顔を寄せあって、他愛のないおしゃべりでもしているのか。たまにクスクス笑いあったりしている。
やがて、三杯のバーボンと、テキーラサンライズ、サイドカー、三杯目にオーダーしたブラッド・アンド・サンドが無くなろうかという頃、バッファローマンは覆い被さるように隣の彼女に身を寄せ、その耳元に
「今夜も、来るだろ?部屋」
と、囁いた。
「……うん」
恥ずかしそうにうつ向く彼女の顔は少し赤らんでいる。
「あ、雨ふってる」
店の外に出ると、小糠雨が降り始めていた。小さな雨粒は街路灯の光に透けて、キラキラと銀色に輝いている。
「寒ぃなあ」
「……雪になるかな?」
「どうだろうな」
彼女が小さなくしゃみをひとつする。
バッファローマンはボンバージャケットの片脇を開け、ほら、と言って彼女を招き入れた。
「早く帰ってあったまろうぜ」
「うん」
超人の男と人間の女が二人ならんで家路へと向かう。
end
初出:PIXIV 2020.03.09
1913年 吉丸一昌:作詞、中田章:作曲『早春賦』
暦の上では立春は過ぎたが、まだまだ寒さが続いている。夜も10時を少しまわったこの時刻、空気は昼よりなお冷たく、吐く息はほわりと白い。
人通りの絶えた夜道を人間の女が一人歩いている。
やがて、ダンジョンの入り口のような、地下へ続く階段を降り、とあるバーのドアを開けた。
間接照明だけのほの暗い店内には、ウォールナットの一枚板でできたカウンター。
そこに求める姿があった。
膂力を感じさせる巨躯、シトリン色の瞳、頭の左右から生える、牛のそれに似た角。
彼の姿は文字どおり、「偉容」で「異様」だった。
レジェンド・バッファローマン
「―――バッファ」
彼女はこぼれるような笑みを浮かべてその超人に近づく。
バッファローマンは、裏地にムートンボアを使ったダークブラウンのボンバージャケット、ベージュ系のチノパン、足元はブラウンのポストマンシューズといった出で立ちだ。
彼はバーカウンターに肘をつき、バーボンの入ったショットグラスを手にしている。
彼女の姿を認めると、よお、と言うように片手を上げた。
「遅くなってごめんなさい。仕事、長引いちゃって」
「気にすんな。メシ食ったのか?」
「うん。休憩中に済ませた」
「じゃ、何か飲めよ」
彼女はテキーラサンライズをオーダーした。
グラスを傾けながら、二人は顔を寄せあって、他愛のないおしゃべりでもしているのか。たまにクスクス笑いあったりしている。
やがて、三杯のバーボンと、テキーラサンライズ、サイドカー、三杯目にオーダーしたブラッド・アンド・サンドが無くなろうかという頃、バッファローマンは覆い被さるように隣の彼女に身を寄せ、その耳元に
「今夜も、来るだろ?部屋」
と、囁いた。
「……うん」
恥ずかしそうにうつ向く彼女の顔は少し赤らんでいる。
「あ、雨ふってる」
店の外に出ると、小糠雨が降り始めていた。小さな雨粒は街路灯の光に透けて、キラキラと銀色に輝いている。
「寒ぃなあ」
「……雪になるかな?」
「どうだろうな」
彼女が小さなくしゃみをひとつする。
バッファローマンはボンバージャケットの片脇を開け、ほら、と言って彼女を招き入れた。
「早く帰ってあったまろうぜ」
「うん」
超人の男と人間の女が二人ならんで家路へと向かう。
end
初出:PIXIV 2020.03.09
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