モヒート(バッファローマン夢小説)
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夏の始めの、まだ日の高い時分。
爽やかな風がバッファローマンの顔をなでていく。
「イイ風だ」
そう呟いてうっとりと目を閉じた。
リビングの大きな掃き出し窓のところで、後ろ手をつきながら足を大きく広げて座っている。
……真っ裸で。
そこへ彼女がキッチンからやって来た。
「あっ、またそんなカッコで窓際にいる」
「ファンサービスだ」
しばらく前に出先から戻ってきたバッファローマンは「暑い暑い」と言いながらスネクタイを緩め、スーツを脱ぎ、アンダーシャツを脱ぎながらバスルームに消えた。
と、思ったらヒョッコリ顔を出して
「モヒートを作っておいてくれ」
と彼女に告げた。
すぐにシャワーの水音がし始めて、彼女はそれを聞きながらベランダに向かった。
陽当たりの良いそこにはプランターが幾つかあって、そのなかの一つに手を伸ばす。
ワサワサと緑色の葉が繁茂しているそれはスペアミントだ。
茎の上の方の若く瑞々しい葉をプチプチ摘み、それが片手からこぼれる位の量になるとキッチンに戻った。
やがてシャワーで汗を流したバッファローマンがリビングに姿を現し、冒頭のくだりとなった。
彼女はバッファローマンの放漫な様子をたしなめたあと、手にしていたタンブラーの一つを「はい、モヒート」とバッファローマンに手渡した。
氷がたっぷりと満たされたグラスは、表面に汗をかいている。
なかに沈んだミントの鮮やかな緑と、沸き立つ炭酸の泡の粒がいかにも涼しげだ。
バッファローマンは手渡されたそれをグイ、と大きくあおった。
ゴクリという音とともに液体が喉を滑り落ち、大きな喉仏が上下する。
「あーウマい。夏はコレだな」
しみじみとした感想を聞きながら、彼女も薄めに作った自分の分に口をつけた。
このカクテルのレシピはいたってシンプルで、グラスいっぱいにミントを入れ、そこにライムを絞る。次にラム(バッファローマンの好みはバカルディだ)、砂糖の順にグラスに入れ、ミントを潰す。最後に氷をたっぷり詰め、上からソーダを注げば完成だ。
一口飲むとまず感じるのはミントの爽快な香り。そしてレモンの酸味やラムの苦味めいた独特な味を、砂糖の甘味が上手に和らげつつまとめている。
「モヒート(mojito)」という言葉ははスペイン語で、だから発祥もスペインかというと違っていて、南米のキューバだったりする。キューバの公用語がスペイン語なのだ。それでもスペイン出身のこの超人は、夏場になるとしばしばこれを飲む。
彼はビールも好きだけれど「夏は全部汗とションベンになっちまう」と言い、代わりに出張ってくるのがモヒートなのだった。
「おまえの作るモヒートは絶妙だな」
「誰が作ってもあんま変わらないと思うよ」
その言葉にバッファローマンは首を振った。
「昔オレが作ったヤツは不味かった」
「思うんだけど、ミントを潰すときに力を入れすぎたんじゃないのかな」
「本を見たら力一杯潰せってあったぞ」
「それって多分、人間の力一杯を指してるんだと思う」
「あ、そうか」
それきり二人は静かにグラスをかたむけた。
「あの時のミントがこんなに役に立つなんて思わなかったよ」
「そうだな」
付き合い始めた頃、二人でバーに行ったことがあった。バッファローマンが選んだのはオーセンティックな雰囲気のバーで、一度たりとしてそんな場所に足を踏み入れたことのなかった彼女は、思い出のつもりでカクテルに添えられていた小さなミントの葉をハンカチに忍ばせて持ち帰った。
試しに土に挿したところ運良く根がついて徐々に増え、立派な株に成長した。
それからずい分経ったあと、バッファローマンに「おまえもココで暮らせよ」と言われた彼女は、そのミントを連れて引っ越してきたのだった。
当時ミントの出自を聞かされたバッファローマンはひどく驚いていた。飲み食いの時に(ミントに限らず)さまざまなハーブを口にしているはずだが、彼にとってそれらはおしなべて「食べられる草」程度にしか認識されていない。ましてや挿し芽で増やすなどという知識など欠片も持ち合わせていなかったからだ。
「素敵なお店だったけど、緊張した」
「最初だから格好つけようと思ったんだ」
実際のところ、バッファローマンの体躯で普通のバーに行くどうにも狭苦しい感じになる。カウンターのスツールにはどうしたって座れないから、幾らか余裕のある作りの店を選んだというのが真相だった。
お互いをよく知るようになって選択肢の幅が広がると、スタンディングバーでカウボーイよろしく肩肘をつきながらおしゃべりしたり、そういう肩のこらない場所を選ぶようになっていった。
「最後に行ってからもうずい分になるね」
「そうだな」
何かのパーティーの帰りに、一息つくために立ち寄ったのが最後だった。
時刻はもう終電に近く、すでにアルコールも幾らか飲んでいたから、彼女はその時もスッキリとしたモヒートを選んだ。
グラスの中のミントがゆらゆらと揺蕩う様を楽しみながら飲む真夜中のモヒートは、どことなく場違いな明朗さがあって、そこがこのカクテルの魅力なのではないかと思ったのを今でも覚えている。
「これから行ってみないか?」
「フルチンだと捕まるよ」
「服ぐらい着るに決まってんだろ、バカ」
「バカって言うほうがバカなんだよ」
「行くのか?行かないのか?」
「もちろん行きますよ!こんな素敵な超人さんにエスコートしてもらえるんだもの」
「今夜はめかし込んだおまえを見ながら、ゆっくり酒を楽しむとするか」
真っ裸で立ち上がったバッファローマンの引き締まった尻を見ながら、自分はつくづく果報者だと彼女は思う。
そして彼の期待に応えるべく、気合いの入ったメイクをするためにリビングをあとにした。
end
初出:PIXIV 2022.05.24
爽やかな風がバッファローマンの顔をなでていく。
「イイ風だ」
そう呟いてうっとりと目を閉じた。
リビングの大きな掃き出し窓のところで、後ろ手をつきながら足を大きく広げて座っている。
……真っ裸で。
そこへ彼女がキッチンからやって来た。
「あっ、またそんなカッコで窓際にいる」
「ファンサービスだ」
しばらく前に出先から戻ってきたバッファローマンは「暑い暑い」と言いながらスネクタイを緩め、スーツを脱ぎ、アンダーシャツを脱ぎながらバスルームに消えた。
と、思ったらヒョッコリ顔を出して
「モヒートを作っておいてくれ」
と彼女に告げた。
すぐにシャワーの水音がし始めて、彼女はそれを聞きながらベランダに向かった。
陽当たりの良いそこにはプランターが幾つかあって、そのなかの一つに手を伸ばす。
ワサワサと緑色の葉が繁茂しているそれはスペアミントだ。
茎の上の方の若く瑞々しい葉をプチプチ摘み、それが片手からこぼれる位の量になるとキッチンに戻った。
やがてシャワーで汗を流したバッファローマンがリビングに姿を現し、冒頭のくだりとなった。
彼女はバッファローマンの放漫な様子をたしなめたあと、手にしていたタンブラーの一つを「はい、モヒート」とバッファローマンに手渡した。
氷がたっぷりと満たされたグラスは、表面に汗をかいている。
なかに沈んだミントの鮮やかな緑と、沸き立つ炭酸の泡の粒がいかにも涼しげだ。
バッファローマンは手渡されたそれをグイ、と大きくあおった。
ゴクリという音とともに液体が喉を滑り落ち、大きな喉仏が上下する。
「あーウマい。夏はコレだな」
しみじみとした感想を聞きながら、彼女も薄めに作った自分の分に口をつけた。
このカクテルのレシピはいたってシンプルで、グラスいっぱいにミントを入れ、そこにライムを絞る。次にラム(バッファローマンの好みはバカルディだ)、砂糖の順にグラスに入れ、ミントを潰す。最後に氷をたっぷり詰め、上からソーダを注げば完成だ。
一口飲むとまず感じるのはミントの爽快な香り。そしてレモンの酸味やラムの苦味めいた独特な味を、砂糖の甘味が上手に和らげつつまとめている。
「モヒート(mojito)」という言葉ははスペイン語で、だから発祥もスペインかというと違っていて、南米のキューバだったりする。キューバの公用語がスペイン語なのだ。それでもスペイン出身のこの超人は、夏場になるとしばしばこれを飲む。
彼はビールも好きだけれど「夏は全部汗とションベンになっちまう」と言い、代わりに出張ってくるのがモヒートなのだった。
「おまえの作るモヒートは絶妙だな」
「誰が作ってもあんま変わらないと思うよ」
その言葉にバッファローマンは首を振った。
「昔オレが作ったヤツは不味かった」
「思うんだけど、ミントを潰すときに力を入れすぎたんじゃないのかな」
「本を見たら力一杯潰せってあったぞ」
「それって多分、人間の力一杯を指してるんだと思う」
「あ、そうか」
それきり二人は静かにグラスをかたむけた。
「あの時のミントがこんなに役に立つなんて思わなかったよ」
「そうだな」
付き合い始めた頃、二人でバーに行ったことがあった。バッファローマンが選んだのはオーセンティックな雰囲気のバーで、一度たりとしてそんな場所に足を踏み入れたことのなかった彼女は、思い出のつもりでカクテルに添えられていた小さなミントの葉をハンカチに忍ばせて持ち帰った。
試しに土に挿したところ運良く根がついて徐々に増え、立派な株に成長した。
それからずい分経ったあと、バッファローマンに「おまえもココで暮らせよ」と言われた彼女は、そのミントを連れて引っ越してきたのだった。
当時ミントの出自を聞かされたバッファローマンはひどく驚いていた。飲み食いの時に(ミントに限らず)さまざまなハーブを口にしているはずだが、彼にとってそれらはおしなべて「食べられる草」程度にしか認識されていない。ましてや挿し芽で増やすなどという知識など欠片も持ち合わせていなかったからだ。
「素敵なお店だったけど、緊張した」
「最初だから格好つけようと思ったんだ」
実際のところ、バッファローマンの体躯で普通のバーに行くどうにも狭苦しい感じになる。カウンターのスツールにはどうしたって座れないから、幾らか余裕のある作りの店を選んだというのが真相だった。
お互いをよく知るようになって選択肢の幅が広がると、スタンディングバーでカウボーイよろしく肩肘をつきながらおしゃべりしたり、そういう肩のこらない場所を選ぶようになっていった。
「最後に行ってからもうずい分になるね」
「そうだな」
何かのパーティーの帰りに、一息つくために立ち寄ったのが最後だった。
時刻はもう終電に近く、すでにアルコールも幾らか飲んでいたから、彼女はその時もスッキリとしたモヒートを選んだ。
グラスの中のミントがゆらゆらと揺蕩う様を楽しみながら飲む真夜中のモヒートは、どことなく場違いな明朗さがあって、そこがこのカクテルの魅力なのではないかと思ったのを今でも覚えている。
「これから行ってみないか?」
「フルチンだと捕まるよ」
「服ぐらい着るに決まってんだろ、バカ」
「バカって言うほうがバカなんだよ」
「行くのか?行かないのか?」
「もちろん行きますよ!こんな素敵な超人さんにエスコートしてもらえるんだもの」
「今夜はめかし込んだおまえを見ながら、ゆっくり酒を楽しむとするか」
真っ裸で立ち上がったバッファローマンの引き締まった尻を見ながら、自分はつくづく果報者だと彼女は思う。
そして彼の期待に応えるべく、気合いの入ったメイクをするためにリビングをあとにした。
end
初出:PIXIV 2022.05.24
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