往還(バッファローマン夢小説)
名前を変える
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
朝食の膳でそれとなくカマをかけてみても、昨晩までにバッファローマンが経験した怪異については全く預かり知らぬようで、だから全てを胸中にしまっておくことにした。
おっきな、丼といっても差し支えないサイズの飯茶碗には白飯が山盛りになっている。
ギチギチにかき混ぜて半白色の泡をたてた納豆はいつものメーカー。
それを白飯にのせながらバッファローマンは彼女に言った。
「どっかドライブに行こうぜ」
「ほわいふ!(ドライブ!)」
口いっぱいにほお張った、水気たっぷりの梨のせいで返答はモゴモゴとした発音になった。
「行きたいとこ、あるか?」
彼女はドライブが好きだ。とりわけウイークデイの、皆が仕事や勉強のことで頭がいっぱいになってる時に出かける、秘密めいたドライブが。
彼女のことは忘れていなかったし、バッファローマン自身が望んで招いたことでは決してないが、あちらで過ごしていた間、アタマの大部分を占めていたのはあの二人だった。それに対する埋め合わせというわけではないが、運のよいことに予定もない。
晩秋の青空のもと、テープのように真っ直ぐにアスファルトが果てまでも続いている。その上をバッファローマンと彼女を乗せたフォードトリノコンバーチブルが駈けていく。
何とはなしに、彼はポツリと問いかけた。
「ソラって、いいと思うんだ」
「うん、今日はとりわけキレイ」
「空じゃなくてソラ。名前だよ、子どもの」
「どこの子?」
「……まあ、オレとおまえのかな」
「私たちの!?」
「ああ」
――何と答えたらいいのだろう。
もうずっとバースコントロールは一切していない。
超人と人間のカップルが子供をもうけることは極めて難しいのだ。
『地球出身の超人と人間のカップル』においてごくまれに産まれるケースがあるが、バッファローマンのような純粋に地球外種族の超人とホモ・サピエンス・サピエンスである原生人類とでは果たして幾つの例があるか。
「……あのね?」
「うん」
「ずっと伝えておこうと思ってたの。きっと、一族の女の人とだったら子ども、できるんじゃないかと思うのね。だからもし見つかったら、その女の人と、一緒になったほうがいいと思う。そうなったらその時は私のことは気にしなくていいからね」
「何だよ、ソレ」
「だからバッファロー一族の女の」
「今度同じことを言ってみろ。死ぬまで牢屋に閉じ込めるぞ」
「なんで?」
「『オレから逃げられないように』だよ」
「別にどこもいかないよ」
「おまえは本当にオレのこと判ってないのな」
「判ってるよ?判ってるから、だから。でも名前まで考えるほど思いつめてたとは知らなかったから、ちゃんと伝えておこうと思って」
「そうじゃない、そういうコトじゃないんだ」
バッファローマンは片手でハンドルを握りながら、もう片方の腕で彼女をグイと引き寄せた。
「……おまえじゃなきゃダメなんだ。他の女じゃ、意味ないんだ」
「でも」
「ソラは、オレとおまえの子どものための名前なんだ」
判るか?そう問いかけながら小さな額にそっと口づける。
「ずっとダメかも。今までだって」
「そうしたらそれでいい」
少しの間、トリノの低いエンジン音と、タイヤが路面を食む音だけが辺りに響いていた。
「それで、牢屋に入れられちゃうの?わたし」
「またその話をしたらな」
「そこに入ってもご飯はもらえるのかな?」
「安心しろ、三食昼寝つきだ」
「おやつは?」
「それくらいは出そう」
「本とかマンガがないと退屈する」
「言えば買ってきてやる」
「ずっとひとりなの?」
「一日に一回は必ず顔を見せてやるよ」
「そしたらちゃんと清潔にしておきたい。たまには湯船にもつかりたい」
「シャワーにバスタブもか?」
「じゃ、せっかくだからサウナも!」
「あのなあ」
示しあわせたように二人は笑いだした。
「こうやって一生おまえのワガママを聞くんだろうな、オレは」
その唇が彼女の柔らかい髪を優しく食んだ。
温かく湿った息を地肌に感じながら、トリノがベンチシートでよかったな、などと彼女はボンヤリ考える。
いつか、真ん中にもう一人座っている日が来るかもしれない。
どうか神さま。
いつまでも二人の行く先がひとつであり続けますように。
end
初出:PIXIV 2021.11.01
おっきな、丼といっても差し支えないサイズの飯茶碗には白飯が山盛りになっている。
ギチギチにかき混ぜて半白色の泡をたてた納豆はいつものメーカー。
それを白飯にのせながらバッファローマンは彼女に言った。
「どっかドライブに行こうぜ」
「ほわいふ!(ドライブ!)」
口いっぱいにほお張った、水気たっぷりの梨のせいで返答はモゴモゴとした発音になった。
「行きたいとこ、あるか?」
彼女はドライブが好きだ。とりわけウイークデイの、皆が仕事や勉強のことで頭がいっぱいになってる時に出かける、秘密めいたドライブが。
彼女のことは忘れていなかったし、バッファローマン自身が望んで招いたことでは決してないが、あちらで過ごしていた間、アタマの大部分を占めていたのはあの二人だった。それに対する埋め合わせというわけではないが、運のよいことに予定もない。
晩秋の青空のもと、テープのように真っ直ぐにアスファルトが果てまでも続いている。その上をバッファローマンと彼女を乗せたフォードトリノコンバーチブルが駈けていく。
何とはなしに、彼はポツリと問いかけた。
「ソラって、いいと思うんだ」
「うん、今日はとりわけキレイ」
「空じゃなくてソラ。名前だよ、子どもの」
「どこの子?」
「……まあ、オレとおまえのかな」
「私たちの!?」
「ああ」
――何と答えたらいいのだろう。
もうずっとバースコントロールは一切していない。
超人と人間のカップルが子供をもうけることは極めて難しいのだ。
『地球出身の超人と人間のカップル』においてごくまれに産まれるケースがあるが、バッファローマンのような純粋に地球外種族の超人とホモ・サピエンス・サピエンスである原生人類とでは果たして幾つの例があるか。
「……あのね?」
「うん」
「ずっと伝えておこうと思ってたの。きっと、一族の女の人とだったら子ども、できるんじゃないかと思うのね。だからもし見つかったら、その女の人と、一緒になったほうがいいと思う。そうなったらその時は私のことは気にしなくていいからね」
「何だよ、ソレ」
「だからバッファロー一族の女の」
「今度同じことを言ってみろ。死ぬまで牢屋に閉じ込めるぞ」
「なんで?」
「『オレから逃げられないように』だよ」
「別にどこもいかないよ」
「おまえは本当にオレのこと判ってないのな」
「判ってるよ?判ってるから、だから。でも名前まで考えるほど思いつめてたとは知らなかったから、ちゃんと伝えておこうと思って」
「そうじゃない、そういうコトじゃないんだ」
バッファローマンは片手でハンドルを握りながら、もう片方の腕で彼女をグイと引き寄せた。
「……おまえじゃなきゃダメなんだ。他の女じゃ、意味ないんだ」
「でも」
「ソラは、オレとおまえの子どものための名前なんだ」
判るか?そう問いかけながら小さな額にそっと口づける。
「ずっとダメかも。今までだって」
「そうしたらそれでいい」
少しの間、トリノの低いエンジン音と、タイヤが路面を食む音だけが辺りに響いていた。
「それで、牢屋に入れられちゃうの?わたし」
「またその話をしたらな」
「そこに入ってもご飯はもらえるのかな?」
「安心しろ、三食昼寝つきだ」
「おやつは?」
「それくらいは出そう」
「本とかマンガがないと退屈する」
「言えば買ってきてやる」
「ずっとひとりなの?」
「一日に一回は必ず顔を見せてやるよ」
「そしたらちゃんと清潔にしておきたい。たまには湯船にもつかりたい」
「シャワーにバスタブもか?」
「じゃ、せっかくだからサウナも!」
「あのなあ」
示しあわせたように二人は笑いだした。
「こうやって一生おまえのワガママを聞くんだろうな、オレは」
その唇が彼女の柔らかい髪を優しく食んだ。
温かく湿った息を地肌に感じながら、トリノがベンチシートでよかったな、などと彼女はボンヤリ考える。
いつか、真ん中にもう一人座っている日が来るかもしれない。
どうか神さま。
いつまでも二人の行く先がひとつであり続けますように。
end
初出:PIXIV 2021.11.01
9/9ページ