往還(バッファローマン夢小説)
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相手のそれがフェイクであった場合に備えて、用心しながらバッファローマンは相手に近づいた。
「決着、ついた気がするんだが」
「ええ、私もそんな気がします」
顔も上げられないほどダメージを負ったのか、サイコマンもうつ向いたままボソボソつぶやく。
「他に、ねえのかよ。元の身体に戻る方法」
「ありません」
よいしょ、とサイコマンはリングロープに身をもたせかけ、大儀そうにヨロヨロと立ち上がった。
コーナーポストに背を預けると、己の白装束の胸元を両手で割り開いた。
「貴方が元の世界に戻りたければ、私をころすしかありません」
身じろぎもせず、いや、できず、バッファローマンは立ち尽くす。
七日間。
たった七日間暮らしただけだ。
未練だとか、そんなものは微塵もない。
だけど。
――ソラ。
一族は、自分以外にはもういないのだと、ずっとそう思って生きてきた。
この世界では自分は『最後の一人』ではないのだ。
ソラはしょっちゅう抱っこをせがんだ。
驚くほど軽いその身体を胸元まで抱きあげてやれば、こぼれるような笑顔がすぐ目の前にあって、そんな時は何となく自分も同じように笑っている気がした。
ソラは可愛い。
いや、いとおしい。
こちらの彼女も心配だ。
二人を支えていってやりたいが、その役目はきっとバッファローマンCのものだ。
自分にかけがえのない者がいることだって忘れていない。
それに、己の過去もその事によって手に入れた強さも、その後の生き方も少しも悔いてなどいない。
だから、帰る。
再びサイコマンに据えられた視線は決意と確信に満ちて、もう一片の迷いも認められなかった。
「ウォォッ!」
バッファローマンは咆哮すると頭を低く下げサイコマンに向かって突進した。
フィニッシュホールド「ハリケーンミキサー」を使うことのできない今、それはロングホーンの先端を凶器に変えるためだけの純粋な推進力だった。
そしてその瞬間がきた。
ゾブリ、と
ロングホーンが、
バッファローマンの頭上の凶器が、
ついに相手の肉にめり込む。
真芯を貫いたと確信した。
かつて幾度も経験した呪わしい感触。
ごぶごぶとくぐもった音のあと、熱いなにかが背中に浴びせられた。
それがサイコマンの口から吐き出された鮮血であることは確かめなくても知っていた。
「こって牛さんにしては……上出来です」
言葉を継ぐ間にもゴボゴボと溺れているような音が口から漏れ出ている。
「ああ、いたい
あのときよりもいたい」
「動くな、今抜いてやる」
「やめて、ください……ぬくときに……また、痛いおもいを、しないと……いけないでしょう」
ロングホーンから肉に埋もれている感触がフッと消えた。
のしかかっていた気配も。
そのことに気がつき顔を上げたバッファローマンを、半ば透明な姿になったサイコマンが見おろしていた。
「ゲーム終了、結構楽しめました」
言を受けておもむろに立ち上がると、逆に相手を見下ろす側になった。
「散々振り回しやがって」
「おかげさまで、来年はご厄介にならなくても済みそうです」
そうしてその姿は数度点滅すると音もなくかき消えて、双角巨躯の男はただひとり取り残された。
けれども最後の声だけは確かに耳に届いた。
「ごきげんよう、バッファローマン。感謝します」
再びめまい、
そして暗転。
始まった時と同じように気がつけば終わっていた。
眼を開けると朝陽のさしこむ明るい室内、見慣れた天井、柔らかな寝床。
ベッドのサイドボードの置時計は11月1日の朝だった。
傍らにはすうすうと安らかな寝息がある。
いつもの彼女だ。
戻ったのだ、自分が存在する本来の世界に。
「……ただいま」
自分のためだけにそう呟いた。
起こさないよう気遣いながら、彼女の額にそっと口づけた。
「決着、ついた気がするんだが」
「ええ、私もそんな気がします」
顔も上げられないほどダメージを負ったのか、サイコマンもうつ向いたままボソボソつぶやく。
「他に、ねえのかよ。元の身体に戻る方法」
「ありません」
よいしょ、とサイコマンはリングロープに身をもたせかけ、大儀そうにヨロヨロと立ち上がった。
コーナーポストに背を預けると、己の白装束の胸元を両手で割り開いた。
「貴方が元の世界に戻りたければ、私をころすしかありません」
身じろぎもせず、いや、できず、バッファローマンは立ち尽くす。
七日間。
たった七日間暮らしただけだ。
未練だとか、そんなものは微塵もない。
だけど。
――ソラ。
一族は、自分以外にはもういないのだと、ずっとそう思って生きてきた。
この世界では自分は『最後の一人』ではないのだ。
ソラはしょっちゅう抱っこをせがんだ。
驚くほど軽いその身体を胸元まで抱きあげてやれば、こぼれるような笑顔がすぐ目の前にあって、そんな時は何となく自分も同じように笑っている気がした。
ソラは可愛い。
いや、いとおしい。
こちらの彼女も心配だ。
二人を支えていってやりたいが、その役目はきっとバッファローマンCのものだ。
自分にかけがえのない者がいることだって忘れていない。
それに、己の過去もその事によって手に入れた強さも、その後の生き方も少しも悔いてなどいない。
だから、帰る。
再びサイコマンに据えられた視線は決意と確信に満ちて、もう一片の迷いも認められなかった。
「ウォォッ!」
バッファローマンは咆哮すると頭を低く下げサイコマンに向かって突進した。
フィニッシュホールド「ハリケーンミキサー」を使うことのできない今、それはロングホーンの先端を凶器に変えるためだけの純粋な推進力だった。
そしてその瞬間がきた。
ゾブリ、と
ロングホーンが、
バッファローマンの頭上の凶器が、
ついに相手の肉にめり込む。
真芯を貫いたと確信した。
かつて幾度も経験した呪わしい感触。
ごぶごぶとくぐもった音のあと、熱いなにかが背中に浴びせられた。
それがサイコマンの口から吐き出された鮮血であることは確かめなくても知っていた。
「こって牛さんにしては……上出来です」
言葉を継ぐ間にもゴボゴボと溺れているような音が口から漏れ出ている。
「ああ、いたい
あのときよりもいたい」
「動くな、今抜いてやる」
「やめて、ください……ぬくときに……また、痛いおもいを、しないと……いけないでしょう」
ロングホーンから肉に埋もれている感触がフッと消えた。
のしかかっていた気配も。
そのことに気がつき顔を上げたバッファローマンを、半ば透明な姿になったサイコマンが見おろしていた。
「ゲーム終了、結構楽しめました」
言を受けておもむろに立ち上がると、逆に相手を見下ろす側になった。
「散々振り回しやがって」
「おかげさまで、来年はご厄介にならなくても済みそうです」
そうしてその姿は数度点滅すると音もなくかき消えて、双角巨躯の男はただひとり取り残された。
けれども最後の声だけは確かに耳に届いた。
「ごきげんよう、バッファローマン。感謝します」
再びめまい、
そして暗転。
始まった時と同じように気がつけば終わっていた。
眼を開けると朝陽のさしこむ明るい室内、見慣れた天井、柔らかな寝床。
ベッドのサイドボードの置時計は11月1日の朝だった。
傍らにはすうすうと安らかな寝息がある。
いつもの彼女だ。
戻ったのだ、自分が存在する本来の世界に。
「……ただいま」
自分のためだけにそう呟いた。
起こさないよう気遣いながら、彼女の額にそっと口づけた。