往還(バッファローマン夢小説)
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夕方に彼女が帰宅すると、連れ立って保育園にソラを迎えに行った。
園の門をくぐると小さな姿がまろび出て、パタパタと駆け寄ってきた。
塀よりも高い身の丈のバッファローマンが来ると室内にいてもすぐ判るらしい。
「おとさん!」
そのままバッファローマンの足にガッシリしがみつく。
こちらを見上げた顔は嬉しさではち切れそうになっている。
連れ立って家路をたどる。
その後は週に一度のお楽しみである銭湯に行く。
自宅の風呂に父と息子が一度に入るのはサイズ的にかなりきついのだ。
おぼつかないながらも小さな服を脱がせてやり、次いで自分も衣服を脱ぎ捨て、あらわになったバッファローマンCの肉体を見てハッとした。
傷が。
痕が、ない。
今では表皮に覆われ、よくよく眼を近づけて確かめないと認めることの出来ないそれは、彼と半生を共にしてきた者たちだった。
もう一生、しぬまで別たれることなどないと思っていた。
この世界ではアレは起こらなかったのだという実感がヒシヒシとこみ上げてきた。
浴場にはいりソラを洗ってやれば、その小さな背中にも当たり前のことだが傷一つない。
かわりばんこ、そう申し出たソラに背中を洗ってもらった。くすぐったい運び。けれど、もしもそこにあれらの傷を認めたらソラはどう感じるだろうか。
翌朝、恐るおそる目を覚ますと昨日と同じせんべい布団に横たわっていた。
落胆の色を隠せないバッファローマン。
彼女は『コチラの世界のハロウィーンの夜にまた何か起きるかもしれない』と口にした。
気休め半分、けれどもそれに期待する以外に元の肉体に戻れそうな手段が思いつかない。
「取りあえず、その身体に入ってる間は持ち主にメイワクをかけないように過ごしてちょうだい」
気を引き立てるようにつとめて明るく彼女は言った。
そう、今日からこの世界でのバッファローマンの社会生活に馴染まないとならない。
夕べはレクチャーを受けて各所の人間関係や職務内容などをアタマに叩きこんだ。
午前中はジム、つまり超人レスリングメインのトレーニングジムだ。ごく少数の人間もいるが殆どが超人で、本格的なファイター養成機関のようなものだから朝から活気に満ちている。しかし、ウォームアップをすませスパーリングのためにリングインしたバッファローマンはバッファローマンCの身体能力の低さに愕然とした。
瞬発力がまずない。対戦相手が技をかけてきた瞬間、知覚と動作がリンクせずリアクションが一拍遅れる。結果、避けきれずに面白いように極められてしまう。
こちらから技をかける場合はその逆だ。
何度もマットに組み伏せられて気が付いた。恐らく体幹が整っていないのだ。
悲しいかな生活に追われ、肉体のビルドアップのために費やす時間や金銭的余裕はないのだろう。
せめても問題点の洗い出しと必要部位のトレーニングぐらいはしていくことにしよう。
これからずっとこの身体で過ごすこともあり得るのだから。
午後の仕事は全く問題なかった。むしろ慣れれば楽しむ余裕も出てきそうな気がした。有り体に言えば力仕事、軽作業の契約社員。
超人レスリングを続けながら働くならこういう選択肢くらいしかないだろう。かつての仲間のように空間を操れるとか特殊能力があればもっと違う職種に就けていたのかしれない。
数日経つとまずまず普通の超人として社会に溶け込んで暮らすのは、肩の力が抜けて妙に居心地がいいことに気が付いた。
正義と悪魔の狭間で闘い続け、イレギュラーとして存在していた自分にとって、自己とは『バッファローマン』という単語のなかにのみ存在するものだった。
強さを求めて全てを捧げてしまったあの日、世界の摂理から外れてしまったのだろう、恐らくは。
大多数を包括するコミュニティのなかに組み込まれた自分を認識するというのは珍しく、妙な心持ちのするものだった。
「あした、おとさんお休みの日ね!」
水色の縞模様のパジャマを着せてもらいながらソラはご機嫌でバッファローマンに話しかけた。
「そうだな」
「またせんとういくよね!?」
「うん、行こう。風呂から出たらジュース飲もうな」
「ボク、いちごぎゅうにゅう!!」
笑いかけてやり、つとめて明るく答えようと心がけたが、内心はこれから眠りの時間を迎えることに戦々恐々としていた。
明日、正確にはあと数時間でこちらの世界のハロウィーンが訪れる。
すっかり慣れっこになってしまったせんべい蒲団に身を横たえた。
真ん中にソラを挟んで、三人川の字になる。
幾らもしないうちにバッファローマンと彼女の間から小さな寝息が聞こえ始めた。
「明日の朝は起きて、隣にいるのが誰なのか確認しないといけないなんて何だか不思議な気分だわ」
ふざけているような物言いに不安が募る
――もしまたこの部屋で目覚めたなら。
「大丈夫よ、朝起きたらきっとすっかり元通りになってるわ」
心中を察したのか慰撫するような口調で彼女は言った。
相手の心遣いに気付き、別れを惜しむより己のことばかり考えていた自分を恥じた。
「――なあ」
「ん?」
「蒲団、買い換えようぜ?こう薄っぺらくちゃ背中が痛くて仕方ない」
彼女は一瞬面食らったあと、嬉しそうに微笑んだ。
「そうね、ええ、そうね」
ソラの小さな寝息に続いてその隣から細い寝息が聞こえ始めた。
彼女も眠ったらしい。
次は自分だ。
園の門をくぐると小さな姿がまろび出て、パタパタと駆け寄ってきた。
塀よりも高い身の丈のバッファローマンが来ると室内にいてもすぐ判るらしい。
「おとさん!」
そのままバッファローマンの足にガッシリしがみつく。
こちらを見上げた顔は嬉しさではち切れそうになっている。
連れ立って家路をたどる。
その後は週に一度のお楽しみである銭湯に行く。
自宅の風呂に父と息子が一度に入るのはサイズ的にかなりきついのだ。
おぼつかないながらも小さな服を脱がせてやり、次いで自分も衣服を脱ぎ捨て、あらわになったバッファローマンCの肉体を見てハッとした。
傷が。
痕が、ない。
今では表皮に覆われ、よくよく眼を近づけて確かめないと認めることの出来ないそれは、彼と半生を共にしてきた者たちだった。
もう一生、しぬまで別たれることなどないと思っていた。
この世界ではアレは起こらなかったのだという実感がヒシヒシとこみ上げてきた。
浴場にはいりソラを洗ってやれば、その小さな背中にも当たり前のことだが傷一つない。
かわりばんこ、そう申し出たソラに背中を洗ってもらった。くすぐったい運び。けれど、もしもそこにあれらの傷を認めたらソラはどう感じるだろうか。
翌朝、恐るおそる目を覚ますと昨日と同じせんべい布団に横たわっていた。
落胆の色を隠せないバッファローマン。
彼女は『コチラの世界のハロウィーンの夜にまた何か起きるかもしれない』と口にした。
気休め半分、けれどもそれに期待する以外に元の肉体に戻れそうな手段が思いつかない。
「取りあえず、その身体に入ってる間は持ち主にメイワクをかけないように過ごしてちょうだい」
気を引き立てるようにつとめて明るく彼女は言った。
そう、今日からこの世界でのバッファローマンの社会生活に馴染まないとならない。
夕べはレクチャーを受けて各所の人間関係や職務内容などをアタマに叩きこんだ。
午前中はジム、つまり超人レスリングメインのトレーニングジムだ。ごく少数の人間もいるが殆どが超人で、本格的なファイター養成機関のようなものだから朝から活気に満ちている。しかし、ウォームアップをすませスパーリングのためにリングインしたバッファローマンはバッファローマンCの身体能力の低さに愕然とした。
瞬発力がまずない。対戦相手が技をかけてきた瞬間、知覚と動作がリンクせずリアクションが一拍遅れる。結果、避けきれずに面白いように極められてしまう。
こちらから技をかける場合はその逆だ。
何度もマットに組み伏せられて気が付いた。恐らく体幹が整っていないのだ。
悲しいかな生活に追われ、肉体のビルドアップのために費やす時間や金銭的余裕はないのだろう。
せめても問題点の洗い出しと必要部位のトレーニングぐらいはしていくことにしよう。
これからずっとこの身体で過ごすこともあり得るのだから。
午後の仕事は全く問題なかった。むしろ慣れれば楽しむ余裕も出てきそうな気がした。有り体に言えば力仕事、軽作業の契約社員。
超人レスリングを続けながら働くならこういう選択肢くらいしかないだろう。かつての仲間のように空間を操れるとか特殊能力があればもっと違う職種に就けていたのかしれない。
数日経つとまずまず普通の超人として社会に溶け込んで暮らすのは、肩の力が抜けて妙に居心地がいいことに気が付いた。
正義と悪魔の狭間で闘い続け、イレギュラーとして存在していた自分にとって、自己とは『バッファローマン』という単語のなかにのみ存在するものだった。
強さを求めて全てを捧げてしまったあの日、世界の摂理から外れてしまったのだろう、恐らくは。
大多数を包括するコミュニティのなかに組み込まれた自分を認識するというのは珍しく、妙な心持ちのするものだった。
「あした、おとさんお休みの日ね!」
水色の縞模様のパジャマを着せてもらいながらソラはご機嫌でバッファローマンに話しかけた。
「そうだな」
「またせんとういくよね!?」
「うん、行こう。風呂から出たらジュース飲もうな」
「ボク、いちごぎゅうにゅう!!」
笑いかけてやり、つとめて明るく答えようと心がけたが、内心はこれから眠りの時間を迎えることに戦々恐々としていた。
明日、正確にはあと数時間でこちらの世界のハロウィーンが訪れる。
すっかり慣れっこになってしまったせんべい蒲団に身を横たえた。
真ん中にソラを挟んで、三人川の字になる。
幾らもしないうちにバッファローマンと彼女の間から小さな寝息が聞こえ始めた。
「明日の朝は起きて、隣にいるのが誰なのか確認しないといけないなんて何だか不思議な気分だわ」
ふざけているような物言いに不安が募る
――もしまたこの部屋で目覚めたなら。
「大丈夫よ、朝起きたらきっとすっかり元通りになってるわ」
心中を察したのか慰撫するような口調で彼女は言った。
相手の心遣いに気付き、別れを惜しむより己のことばかり考えていた自分を恥じた。
「――なあ」
「ん?」
「蒲団、買い換えようぜ?こう薄っぺらくちゃ背中が痛くて仕方ない」
彼女は一瞬面食らったあと、嬉しそうに微笑んだ。
「そうね、ええ、そうね」
ソラの小さな寝息に続いてその隣から細い寝息が聞こえ始めた。
彼女も眠ったらしい。
次は自分だ。