往還(バッファローマン夢小説)
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『逢魔が時』という言葉がある。
まさにそんな頃合いだった。
気がつけばどこか知らない場所にいた。
パステルカラーの淡いトーンで青からピンクに変わっていくその空は教会の天井に描かれたフレスコ画のように完璧な優美さを備えていた。
夢の中にいるのだと気がついたのは過去と現在の風景が微妙に入り交じっていたからだ。つい先頃自宅の近くに建った分譲マンションの隣に、とっくの昔に無くなった公衆電話のボックスがある。
街には全く人気がなかった。奇妙にシンと静まりかえり虚ろな雰囲気を漂わせている。
ここから抜け出したほうがいいのだろうか、バッファローマンがそう思案し始めた頃、ポツ、と手前から奥へと順に街路灯に明かりがともった。
そのおかげてやっと人影をひとつ見つけることが出来た。
手前から数えて三番目の街路灯の下に、何者かがポツンと立っている。
遠目にも白と判る装束を身にまとった人物は、前触れもなく面をあげてバッファローマンをひたと見据えた。
一見すると男性にも女性にも見えるその姿はこの場にひどく不似合いな気がしたが、超人であることは雰囲気ですぐに判った。
スラリとした体躯。
鍔のある丸帽子をかぶり、スタンドカラーとくるぶし丈の外套をまとっている。全て白い布地で、複雑な模様を施した豪奢な金の縁取りが施されていま。そして黒色のヘッドギア、アンダーシャツに肘丈の白い手袋。
ご多分に漏れず顔面も白く塗り立てられており、口元は紅で彩られていた。両頬には一本、墨で引いたような真っ直ぐな線がある。
他人を外見で判断してはいけないというのは結局のところ建前だ。
たいていの場合、なまっちろくて痩せているからケンカはからきしだろうとか、そんな風に相手を見定める。
その論法でいけば目の前のコイツは十把一絡げのオカマ野郎ということになるが、こと超人レスラーにおいては話が別だ。
面に塗られた白粉も口紅もある種マスクマンのマスクと同じ意味をもつ。
彼らにとって己を飾りたてることは自らを鼓舞し、その存在を世界に向かって高らかに宣言するファンファーレなのだ。
ナヨナヨした仕草や細く整った顔立ちは、相手の油断を誘う立派な戦略のひとつ。
もっと危険なのはそれが天性として身に付いているタイプだ。
そんな肉体で超人レスリングの様々な技を可能にする膂力について一瞬でもいいから想像してみてほしい。
結論としていえばファイターとしての本能がコイツはヤバいとバッファローマンに告げていた。
バッファローマンが自分に近づいてくると、その超人は相手に向かって艶やかに微笑んだ。
「お久しぶりですねぇバッファローマン」
「人違いじゃねえのか」
「いいえ、あなたはバッファローマン。間違いありません」
「アンタみたいなヤツ、一度でも戦ってれば忘れない」
「そうでしょう、貴方は『私と戦ったことのないバッファローマン』ですから」
会話の合間に挟まれるニャガニャガという独特の笑い声が妙に気に障る。
「あいにくだがバッファローマンってのは世界中でオレひとりだ」
「貴方のいる世界ではね」
言葉の意味が全く理解でぎず、もしかしてアタマのネジが弛んでいるのではないかとバッファローマンが訝しむと、彼はやれやれという風に嘆息した。
「そうですねえ……いきなり小難しい話で恐縮なんですが理論物理学って興味あります?あ、全くないみたいですねその表情。それじゃガンマンさんでも理解できるように説明しましょう。『パラレルワールド』って聞いたことがあると思うんですけど、まず貴方が存在している世界をAとします。そこにいるバッファローマンは当然ですけれど一人だけ。だから貴方は『バッファローマンA』。
私はAとは違う世界から来ました。そこを仮にBとしましょうか。世界Bにもバッファローマンがいます、彼は『バッファローマンB』。
私がかつて戦ったのはバッファローマンBです。それから申し遅れましたが私はサイコマンと申します。またの名を完璧超人始祖拾式パーフェクトオリジンテンス」
――完璧超人だと。
バッファローマンの耳は確かにその言葉を聞いた。それはかつてトーナメントマウンテンで彼とモンゴルマンとを完膚なきまでに叩きのめしたネプチューンキングやネプチューンマンたちと同じ属性だ。
一体今さら自分に何の用があるというのだ。
バッファローマンの懸念を余所にサイコマンの一人語りは続く。
「要するに貴方は『私が存在しない時間線のバッファローマン』って事なんですが……取りあえずそれは今どうでもいいんです。
ねえ、バッファローマン
Trick or Treat?」
白装束の男は何かを要求するように彼に手のひらを差し出してきた
「何のマネだ」
「イヤだ、知らないんですか?ハロウィーン」
「……知ってるが」
「今夜ですよ、ハロウィーンは。だから私はこうやって苦労して貴方のところに伺ったんじゃありませんか」
「生憎だがな、お前とオレは一っ欠片の面識もない。それをいきなり『菓子をくれ』だなんてココは大丈夫か?」
太い人差し指で自らの側頭部をツンツンと突いた。
揶揄するような仕草に白い男は柳眉をひそめる。
「――それじゃお菓子はいただけないって事ですか?」
「当たり前だ。縁もゆかりもないヤツに無条件で親切にしてやるほどオレはお人よしじゃない」
「さっき申し上げたようにあるんですけどね、うっすらとは。予想はしてたけど仕方ありませんね」
それじゃ、と言って目深にかぶっていた丸帽子をフワリと取り、まるでマジシャンのようにお辞儀をした。
「ヘボ牛さん、Trick をどうぞ」
グラリ、と大地が揺れた。
めまい、
そして暗転。
まさにそんな頃合いだった。
気がつけばどこか知らない場所にいた。
パステルカラーの淡いトーンで青からピンクに変わっていくその空は教会の天井に描かれたフレスコ画のように完璧な優美さを備えていた。
夢の中にいるのだと気がついたのは過去と現在の風景が微妙に入り交じっていたからだ。つい先頃自宅の近くに建った分譲マンションの隣に、とっくの昔に無くなった公衆電話のボックスがある。
街には全く人気がなかった。奇妙にシンと静まりかえり虚ろな雰囲気を漂わせている。
ここから抜け出したほうがいいのだろうか、バッファローマンがそう思案し始めた頃、ポツ、と手前から奥へと順に街路灯に明かりがともった。
そのおかげてやっと人影をひとつ見つけることが出来た。
手前から数えて三番目の街路灯の下に、何者かがポツンと立っている。
遠目にも白と判る装束を身にまとった人物は、前触れもなく面をあげてバッファローマンをひたと見据えた。
一見すると男性にも女性にも見えるその姿はこの場にひどく不似合いな気がしたが、超人であることは雰囲気ですぐに判った。
スラリとした体躯。
鍔のある丸帽子をかぶり、スタンドカラーとくるぶし丈の外套をまとっている。全て白い布地で、複雑な模様を施した豪奢な金の縁取りが施されていま。そして黒色のヘッドギア、アンダーシャツに肘丈の白い手袋。
ご多分に漏れず顔面も白く塗り立てられており、口元は紅で彩られていた。両頬には一本、墨で引いたような真っ直ぐな線がある。
他人を外見で判断してはいけないというのは結局のところ建前だ。
たいていの場合、なまっちろくて痩せているからケンカはからきしだろうとか、そんな風に相手を見定める。
その論法でいけば目の前のコイツは十把一絡げのオカマ野郎ということになるが、こと超人レスラーにおいては話が別だ。
面に塗られた白粉も口紅もある種マスクマンのマスクと同じ意味をもつ。
彼らにとって己を飾りたてることは自らを鼓舞し、その存在を世界に向かって高らかに宣言するファンファーレなのだ。
ナヨナヨした仕草や細く整った顔立ちは、相手の油断を誘う立派な戦略のひとつ。
もっと危険なのはそれが天性として身に付いているタイプだ。
そんな肉体で超人レスリングの様々な技を可能にする膂力について一瞬でもいいから想像してみてほしい。
結論としていえばファイターとしての本能がコイツはヤバいとバッファローマンに告げていた。
バッファローマンが自分に近づいてくると、その超人は相手に向かって艶やかに微笑んだ。
「お久しぶりですねぇバッファローマン」
「人違いじゃねえのか」
「いいえ、あなたはバッファローマン。間違いありません」
「アンタみたいなヤツ、一度でも戦ってれば忘れない」
「そうでしょう、貴方は『私と戦ったことのないバッファローマン』ですから」
会話の合間に挟まれるニャガニャガという独特の笑い声が妙に気に障る。
「あいにくだがバッファローマンってのは世界中でオレひとりだ」
「貴方のいる世界ではね」
言葉の意味が全く理解でぎず、もしかしてアタマのネジが弛んでいるのではないかとバッファローマンが訝しむと、彼はやれやれという風に嘆息した。
「そうですねえ……いきなり小難しい話で恐縮なんですが理論物理学って興味あります?あ、全くないみたいですねその表情。それじゃガンマンさんでも理解できるように説明しましょう。『パラレルワールド』って聞いたことがあると思うんですけど、まず貴方が存在している世界をAとします。そこにいるバッファローマンは当然ですけれど一人だけ。だから貴方は『バッファローマンA』。
私はAとは違う世界から来ました。そこを仮にBとしましょうか。世界Bにもバッファローマンがいます、彼は『バッファローマンB』。
私がかつて戦ったのはバッファローマンBです。それから申し遅れましたが私はサイコマンと申します。またの名を完璧超人始祖拾式パーフェクトオリジンテンス」
――完璧超人だと。
バッファローマンの耳は確かにその言葉を聞いた。それはかつてトーナメントマウンテンで彼とモンゴルマンとを完膚なきまでに叩きのめしたネプチューンキングやネプチューンマンたちと同じ属性だ。
一体今さら自分に何の用があるというのだ。
バッファローマンの懸念を余所にサイコマンの一人語りは続く。
「要するに貴方は『私が存在しない時間線のバッファローマン』って事なんですが……取りあえずそれは今どうでもいいんです。
ねえ、バッファローマン
Trick or Treat?」
白装束の男は何かを要求するように彼に手のひらを差し出してきた
「何のマネだ」
「イヤだ、知らないんですか?ハロウィーン」
「……知ってるが」
「今夜ですよ、ハロウィーンは。だから私はこうやって苦労して貴方のところに伺ったんじゃありませんか」
「生憎だがな、お前とオレは一っ欠片の面識もない。それをいきなり『菓子をくれ』だなんてココは大丈夫か?」
太い人差し指で自らの側頭部をツンツンと突いた。
揶揄するような仕草に白い男は柳眉をひそめる。
「――それじゃお菓子はいただけないって事ですか?」
「当たり前だ。縁もゆかりもないヤツに無条件で親切にしてやるほどオレはお人よしじゃない」
「さっき申し上げたようにあるんですけどね、うっすらとは。予想はしてたけど仕方ありませんね」
それじゃ、と言って目深にかぶっていた丸帽子をフワリと取り、まるでマジシャンのようにお辞儀をした。
「ヘボ牛さん、Trick をどうぞ」
グラリ、と大地が揺れた。
めまい、
そして暗転。