Stay Perfect(ネプチューンマン夢小説)
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「来るな」
ネプチューンマンはピシリと言った。
掌をこちらに向けてつきだしたそのポーズは、完璧超人の肩書きそのままに完璧な制止だった。
あるいは拒絶。
今日の試合の健闘をたたえようと、相手に向かって伸ばしかけた手をとめて、彼女は鼻白んだ。
試合の終始は(ネプチューンマンが彼女のために用意してくれた特別席で)見届けた。恋人の力量は熟知しているから、怪我こそ心配したものの彼の勝利は想定内だった。
試合のあとはたいてい会見やら祝勝会が待っている。だからこんな時、彼女はいつも一人で先に家に戻り、あれやこれや整えて、疲れて帰ってきたネプチューンマンが充分に身体を休められるようにしておくのだ。
だけど、今朝は「試合が終わったら私の控え室に行って待っていろ」と言われ、「これを持っていけ」と観覧チケットとは別にスタッフパスも渡された。試合がある日はナーバスになっている。無駄に刺激して悪い影響を与えたくなかったので、いぶかしみながらも彼女は素直にそれを受けとった。
そんなふうにこの控室へ呼びつけておいて一体なぜ。
彼女のとまどいを知ってか知らずか、不可解な制止のあとで、やおらネプチューンマンはリングコスチュームのベストを脱ぎすてた。分厚い皮膚のように、常に彼の上半身を覆っているそれは鮮やかに赤く、まるでこの超人の強さへの飽くなき執念――もはや情念と呼び変えても差し支えないだろう――が結実したようにみえる。前身頃の左右に三本、合計六本嵌めこまれているクロームメッキの極太のスパイクは、何者をも寄せつけまいとする、彼の孤高の魂の現れであり「無冠の帝王」の証しでもあった。
自身のアイデンティティをネプチューンマンは丁寧な手つきでハンガーにかけると、壁のラックに吊るした。試合のあとでバンプアップした筋肉には、大河のように蛇行する血管が浮きあがっている。彼の身体に流れる熱い河の流れ、そして毎夜のごとく自分のなかに注ぎこまれる、これもまた熱いものを思いだし、彼女の奥底がじんわり熱をおびた。
次いでネプチューンマンはタオルで体表に浮いた汗を拭い、分厚いタオル地のバスローブに袖を通す。
それからやっと、彼は彼女に触れた。大きな掌が柔らかな頬をやさしくなでる。
「アレでおまえを傷つけたら大変だ」
巨木のような腕がゆっくり、そっと、彼女を引きよせ――ついに抱きしめた。
息がつまるような抱擁に、その立ちこめる男のにおいに、先ほど熱をおびた部分が溶けてゆく。
そのことを悟られたくなくて彼女は聞いた。
「今日は……どうして?」
「なんのことだ?」
完璧超人の指はゆっくりと相手の髪をまさぐっている。
「控え室へ、なんて初めてだわ」
「家で待っていてくれるのはありがたい。しかし、本当のことを言えばいつも試合のあとはすぐにでもおまえが欲しくてたまらなくなるのだ」
「そんな……」
「こちらをみろ」
おずおずと顔をあげれば、これもまた赤いスティールのマスクがこちらをじっと見下ろしている。身体だけでなく心までガッチリと捕らえられ、ぞくりと肌があわだった。
ひととき見つめ合い、口づけを交そうと顔を近づけたネプチューンマン。彼女はそれをそっと押しとどめてささやいた。
「マスク、とってほしいわ」
「……ふむ」
しぶしぶといった様子で、完璧超人は己の顔を半ばまで覆っているそれを、そっと外した。仮面にかくされていた瞳は、試合の後のたかぶりでいつもの青よりもほんの少し濃い色を帯びていた。
キッチリとていねいに切りそろえた口髭、美しい金色の髪、男らしく整った顔立ち。スティールのマスクを取りさってもなお彼は完璧だった。
「これで、いいか」
「ええ、完璧よ」
彼女はにっこりとほほ笑むと恋人の首もとに両腕をまわして、自ら唇を重ねあわせた。
end
初出:PIXIV 2023.01.23
ネプチューンマンはピシリと言った。
掌をこちらに向けてつきだしたそのポーズは、完璧超人の肩書きそのままに完璧な制止だった。
あるいは拒絶。
今日の試合の健闘をたたえようと、相手に向かって伸ばしかけた手をとめて、彼女は鼻白んだ。
試合の終始は(ネプチューンマンが彼女のために用意してくれた特別席で)見届けた。恋人の力量は熟知しているから、怪我こそ心配したものの彼の勝利は想定内だった。
試合のあとはたいてい会見やら祝勝会が待っている。だからこんな時、彼女はいつも一人で先に家に戻り、あれやこれや整えて、疲れて帰ってきたネプチューンマンが充分に身体を休められるようにしておくのだ。
だけど、今朝は「試合が終わったら私の控え室に行って待っていろ」と言われ、「これを持っていけ」と観覧チケットとは別にスタッフパスも渡された。試合がある日はナーバスになっている。無駄に刺激して悪い影響を与えたくなかったので、いぶかしみながらも彼女は素直にそれを受けとった。
そんなふうにこの控室へ呼びつけておいて一体なぜ。
彼女のとまどいを知ってか知らずか、不可解な制止のあとで、やおらネプチューンマンはリングコスチュームのベストを脱ぎすてた。分厚い皮膚のように、常に彼の上半身を覆っているそれは鮮やかに赤く、まるでこの超人の強さへの飽くなき執念――もはや情念と呼び変えても差し支えないだろう――が結実したようにみえる。前身頃の左右に三本、合計六本嵌めこまれているクロームメッキの極太のスパイクは、何者をも寄せつけまいとする、彼の孤高の魂の現れであり「無冠の帝王」の証しでもあった。
自身のアイデンティティをネプチューンマンは丁寧な手つきでハンガーにかけると、壁のラックに吊るした。試合のあとでバンプアップした筋肉には、大河のように蛇行する血管が浮きあがっている。彼の身体に流れる熱い河の流れ、そして毎夜のごとく自分のなかに注ぎこまれる、これもまた熱いものを思いだし、彼女の奥底がじんわり熱をおびた。
次いでネプチューンマンはタオルで体表に浮いた汗を拭い、分厚いタオル地のバスローブに袖を通す。
それからやっと、彼は彼女に触れた。大きな掌が柔らかな頬をやさしくなでる。
「アレでおまえを傷つけたら大変だ」
巨木のような腕がゆっくり、そっと、彼女を引きよせ――ついに抱きしめた。
息がつまるような抱擁に、その立ちこめる男のにおいに、先ほど熱をおびた部分が溶けてゆく。
そのことを悟られたくなくて彼女は聞いた。
「今日は……どうして?」
「なんのことだ?」
完璧超人の指はゆっくりと相手の髪をまさぐっている。
「控え室へ、なんて初めてだわ」
「家で待っていてくれるのはありがたい。しかし、本当のことを言えばいつも試合のあとはすぐにでもおまえが欲しくてたまらなくなるのだ」
「そんな……」
「こちらをみろ」
おずおずと顔をあげれば、これもまた赤いスティールのマスクがこちらをじっと見下ろしている。身体だけでなく心までガッチリと捕らえられ、ぞくりと肌があわだった。
ひととき見つめ合い、口づけを交そうと顔を近づけたネプチューンマン。彼女はそれをそっと押しとどめてささやいた。
「マスク、とってほしいわ」
「……ふむ」
しぶしぶといった様子で、完璧超人は己の顔を半ばまで覆っているそれを、そっと外した。仮面にかくされていた瞳は、試合の後のたかぶりでいつもの青よりもほんの少し濃い色を帯びていた。
キッチリとていねいに切りそろえた口髭、美しい金色の髪、男らしく整った顔立ち。スティールのマスクを取りさってもなお彼は完璧だった。
「これで、いいか」
「ええ、完璧よ」
彼女はにっこりとほほ笑むと恋人の首もとに両腕をまわして、自ら唇を重ねあわせた。
end
初出:PIXIV 2023.01.23
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