残照(スプリングマン夢小説)
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「そこのアンタ、ハンカチ落としたぞ」
そんなふうに背後から声をかけられたのはちょうど日没の頃合いだった。
彼女が声の主に向き直ると、螺旋を描く金属質の身体をもった超人が立っていて、まさにその瞬間、彼――スプリングマンを夕陽がさっと照らし出した。
一瞬で彼の全身は銅色(あかがね)に染まり、キラリとするどい輝きを返した。
そんな美しい瞬間に立ち会うのは彼女の生涯でも初めてのことで、考えるより先にその両眼からはポロリと涙の粒がこぼれた。
後年その時のことを二人はしばしば笑い話として持ち出したりするが、この時点ではどちらもそんな余裕は一切なく、スプリングマンにしてみたら親切で声をかけたのに自分の顔を見た瞬間相手は泣き出すし、彼女ときたら何の気なしにふり向いた結果、今までに類を見ないほど美しい瞬間に立ち会ってしまったわけで、どちらもなす術もなく無言のまましばし立ち尽くしてしまったのだった。
その場をまずスプリングマンが取りなしたのは亀の甲より年の劫といったところか。
だてに4000年も生きていない。
「アンタもしかして具合悪いのか?」
「――え、いいえ、どこも悪くないわ」
「それなら腹が減ってるのか?」
「お腹も……へってない。私、何ともない、大丈夫よ」
「じゃあ、あったかい飲み物でもどうだ?落ち着くぞ」
「う、うん」
スプリングマンは視界の隅でとらえた飲料類の自動販売機で温かい缶コーヒーとミルクティーを買った。
どっちがいい?と差し出された二つのうちのミルクティーを彼女は選び、ペキ、とプルタブを開け「いただきます」と礼をのべたあと甘い香りの白茶色の飲み物に口をつけた。
同じくスプリングマンも自分の缶コーヒーを傾ける。
この時はもう彼のボディはいつもの色、缶飲料と同じ銀の色に戻っていた。
「ほら、コレ」
ずっと手にしたままだったギンガムチェックのハンカチを持ち主である彼女に返し、やれやれと彼は苦笑した。
「顔をみた瞬間泣かれたのは初めてだ」
「本当に失礼しました……すみません」
「まあ、見とれるようなご面相じゃないが」
とんでもない、と彼女は強く首を振った。
「違うわ、そうじゃないの。振り返ったらあなたがいて、その瞬間夕陽がさっと射して、あなたの身体は銅(あかがね)で出来ているみたいで」
「ビックリしたってワケか」
「驚いたっていうか、まるであの本の表紙の色そのものだったから。だからもしかしたらあなたも扉なんじゃないかしらって、そういうことが頭に思い浮かんだの」
スプリングマンは困惑した。いや、最初に抱いた困惑がさらにつのった。
声をかけたらいきなり泣くし、理由を聞けば説明はチンプンカンプンだし。
「名前も知らない相手にいきなりこんなこと言ったら失礼だが、アンタ変わってるな」
彼女は非礼を詫びて慌てて名乗ったが、変わり者だという彼の指摘は訂正しなかった。
そんなふうに背後から声をかけられたのはちょうど日没の頃合いだった。
彼女が声の主に向き直ると、螺旋を描く金属質の身体をもった超人が立っていて、まさにその瞬間、彼――スプリングマンを夕陽がさっと照らし出した。
一瞬で彼の全身は銅色(あかがね)に染まり、キラリとするどい輝きを返した。
そんな美しい瞬間に立ち会うのは彼女の生涯でも初めてのことで、考えるより先にその両眼からはポロリと涙の粒がこぼれた。
後年その時のことを二人はしばしば笑い話として持ち出したりするが、この時点ではどちらもそんな余裕は一切なく、スプリングマンにしてみたら親切で声をかけたのに自分の顔を見た瞬間相手は泣き出すし、彼女ときたら何の気なしにふり向いた結果、今までに類を見ないほど美しい瞬間に立ち会ってしまったわけで、どちらもなす術もなく無言のまましばし立ち尽くしてしまったのだった。
その場をまずスプリングマンが取りなしたのは亀の甲より年の劫といったところか。
だてに4000年も生きていない。
「アンタもしかして具合悪いのか?」
「――え、いいえ、どこも悪くないわ」
「それなら腹が減ってるのか?」
「お腹も……へってない。私、何ともない、大丈夫よ」
「じゃあ、あったかい飲み物でもどうだ?落ち着くぞ」
「う、うん」
スプリングマンは視界の隅でとらえた飲料類の自動販売機で温かい缶コーヒーとミルクティーを買った。
どっちがいい?と差し出された二つのうちのミルクティーを彼女は選び、ペキ、とプルタブを開け「いただきます」と礼をのべたあと甘い香りの白茶色の飲み物に口をつけた。
同じくスプリングマンも自分の缶コーヒーを傾ける。
この時はもう彼のボディはいつもの色、缶飲料と同じ銀の色に戻っていた。
「ほら、コレ」
ずっと手にしたままだったギンガムチェックのハンカチを持ち主である彼女に返し、やれやれと彼は苦笑した。
「顔をみた瞬間泣かれたのは初めてだ」
「本当に失礼しました……すみません」
「まあ、見とれるようなご面相じゃないが」
とんでもない、と彼女は強く首を振った。
「違うわ、そうじゃないの。振り返ったらあなたがいて、その瞬間夕陽がさっと射して、あなたの身体は銅(あかがね)で出来ているみたいで」
「ビックリしたってワケか」
「驚いたっていうか、まるであの本の表紙の色そのものだったから。だからもしかしたらあなたも扉なんじゃないかしらって、そういうことが頭に思い浮かんだの」
スプリングマンは困惑した。いや、最初に抱いた困惑がさらにつのった。
声をかけたらいきなり泣くし、理由を聞けば説明はチンプンカンプンだし。
「名前も知らない相手にいきなりこんなこと言ったら失礼だが、アンタ変わってるな」
彼女は非礼を詫びて慌てて名乗ったが、変わり者だという彼の指摘は訂正しなかった。
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