二人のビート(ステカセキング夢小説)
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ある街のある路地裏に、知る人ぞ知る、といった趣のレコードショップがある。
店には常にミュージックが流れていて、ドアを開けるとアナログ音源特有の柔らかく滑らかな音に心地よくつつまれる。
十坪ほどの狭い店内は中央にレコードラックがデンと置かれ、LP盤レコードがビッチリと差し込まれている。
ジャケットデザインがつぶさに眺められる一番手前はオススメのタイトルで、そのセレクトで店員の好みやセンスをうかがうことができた。
ご多分にもれず壁にも一面にレコードジャケットが飾られている。
欲しいものがなくても、いるだけで楽しく、あっという間に時間が過ぎてしまう、そんな好事家向けのショップだった。
平日の昼過ぎ、店内に客の姿はなくレジカウンターに一人の女性店員がいるだけだ。
その店員―― 彼女はうつ向いて熱心にペンを動かしているところだった。どうやら店内POPを描いているようで、丸っこい文字とカラフルなペンで商品の魅力を端的に伝えようと工夫をこらしている。
そこへ前触れもなく店のドアが開いた。
姿を現したのは人ではない、異様の超人だった。長方形の弁当箱のような顔にはまんまるい二つの目玉とハーモニカの吹き口みたいな格子の口。ポータブルカセットプレーヤーをそのまま大きくした胴体、ニュッと生えた棒状の手足。そして背中に背負ったランドセル。
言わずと知れた悪魔超人ステカセキングだ。
「ステカセ!」
その姿をみとめて彼女はパッと顔をほころばせる。ステカセキングは挨拶のように挙げた手をグーパーさせた。
「ゲンキー?」
「もちろん!ステカセは?」
「コッチもオールグリーン」
「インディーズ系のドゥワップがまとまって入ってきたよ!」
「お、じゃあサッソクー」
ステカセキングは嬉しそうに、でも狭い店内で何かを壊したりしないように身をちぢこめながら目当てのラックに近づいた。
二人が初めて出会ったのはもちろんこの店だ。彼も有名人ではあるから、彼女は目の前の客がかの超人であると最初から認識していたが、ステカセキングは小さな女性店員としてしか彼女を捉えていなかった。
そんなある日、極めて特殊なアルバムについて彼が彼女に訊ねたところ、意外にも明確な答えが返ってきた。ステカセキングが感心をあらわにすると
「一応プロです」
ニッコリとほほえまれ、そのキュートさに彼は一瞬で心を奪われたのだった。
それからは、いつかデートに誘うぞ、などど決意を秘めながら店に通う日々しばらく続き、それにつれて雑談のレパートリーも少しずつ増えていった。
そうしていつか、つい何かの拍子にステカセキングは
「キミはいつも楽しげで朗らかなビートだね」
ともらしてしまったのだ。
ビートのことは人間には話したことがない。理解されるとは思えなかったし、気味が悪いと思われたら面倒だったから。
なのに、よりにもよって彼女に告げてしまった。
「なあに?ビートって」
ワクワクと、さぞ楽しいコトなのだろうと好奇心をあらわにして聞き返され、さてどんな風にごまかそうかと、ステカセキングはしどろもどろになりながら答えた。
「まあビート…… は言葉のアヤでムード?フンイキ?大したことじゃないからあんまり気にしないで」
「もしかしてステカセさんもリズムみたいなのを感じるの?それで何となく相手の気分が判るの?」
覗きこむように下から問い返されて息をのんだ。
「…… キミも?」
彼女の顔に問題を正確に答えられた生徒のような明るい笑みがパッと浮かんだ。
「っていうか、自分以外でわかるヒトってステカセさんが初めてだよ!」
それを契機に二人がつき合い始めたのは当然の帰結だろう。
店には常にミュージックが流れていて、ドアを開けるとアナログ音源特有の柔らかく滑らかな音に心地よくつつまれる。
十坪ほどの狭い店内は中央にレコードラックがデンと置かれ、LP盤レコードがビッチリと差し込まれている。
ジャケットデザインがつぶさに眺められる一番手前はオススメのタイトルで、そのセレクトで店員の好みやセンスをうかがうことができた。
ご多分にもれず壁にも一面にレコードジャケットが飾られている。
欲しいものがなくても、いるだけで楽しく、あっという間に時間が過ぎてしまう、そんな好事家向けのショップだった。
平日の昼過ぎ、店内に客の姿はなくレジカウンターに一人の女性店員がいるだけだ。
その店員―― 彼女はうつ向いて熱心にペンを動かしているところだった。どうやら店内POPを描いているようで、丸っこい文字とカラフルなペンで商品の魅力を端的に伝えようと工夫をこらしている。
そこへ前触れもなく店のドアが開いた。
姿を現したのは人ではない、異様の超人だった。長方形の弁当箱のような顔にはまんまるい二つの目玉とハーモニカの吹き口みたいな格子の口。ポータブルカセットプレーヤーをそのまま大きくした胴体、ニュッと生えた棒状の手足。そして背中に背負ったランドセル。
言わずと知れた悪魔超人ステカセキングだ。
「ステカセ!」
その姿をみとめて彼女はパッと顔をほころばせる。ステカセキングは挨拶のように挙げた手をグーパーさせた。
「ゲンキー?」
「もちろん!ステカセは?」
「コッチもオールグリーン」
「インディーズ系のドゥワップがまとまって入ってきたよ!」
「お、じゃあサッソクー」
ステカセキングは嬉しそうに、でも狭い店内で何かを壊したりしないように身をちぢこめながら目当てのラックに近づいた。
二人が初めて出会ったのはもちろんこの店だ。彼も有名人ではあるから、彼女は目の前の客がかの超人であると最初から認識していたが、ステカセキングは小さな女性店員としてしか彼女を捉えていなかった。
そんなある日、極めて特殊なアルバムについて彼が彼女に訊ねたところ、意外にも明確な答えが返ってきた。ステカセキングが感心をあらわにすると
「一応プロです」
ニッコリとほほえまれ、そのキュートさに彼は一瞬で心を奪われたのだった。
それからは、いつかデートに誘うぞ、などど決意を秘めながら店に通う日々しばらく続き、それにつれて雑談のレパートリーも少しずつ増えていった。
そうしていつか、つい何かの拍子にステカセキングは
「キミはいつも楽しげで朗らかなビートだね」
ともらしてしまったのだ。
ビートのことは人間には話したことがない。理解されるとは思えなかったし、気味が悪いと思われたら面倒だったから。
なのに、よりにもよって彼女に告げてしまった。
「なあに?ビートって」
ワクワクと、さぞ楽しいコトなのだろうと好奇心をあらわにして聞き返され、さてどんな風にごまかそうかと、ステカセキングはしどろもどろになりながら答えた。
「まあビート…… は言葉のアヤでムード?フンイキ?大したことじゃないからあんまり気にしないで」
「もしかしてステカセさんもリズムみたいなのを感じるの?それで何となく相手の気分が判るの?」
覗きこむように下から問い返されて息をのんだ。
「…… キミも?」
彼女の顔に問題を正確に答えられた生徒のような明るい笑みがパッと浮かんだ。
「っていうか、自分以外でわかるヒトってステカセさんが初めてだよ!」
それを契機に二人がつき合い始めたのは当然の帰結だろう。