ゲームブック ドスくん落ち
夢小説設定
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身の回りで嫌な事が続き、気分転換に立ち寄った神社から何故か文豪ストレイドッグスの世界に来てしまった。あの神社には異能力者がいてヨコハマに繋がっていたらしい、なんちゃって。一体何年前の夢小説設定なのだとぼやきたくもなる。
幼い頃は確かに二次元の世界に行きたいなどと本気で思っていたが、大人になるにつれて願望は薄れていった。きっと、それが正しい成長なのだ。慌ただしく過ぎていく社会人生活のなかで時折癒しとして二次創作を楽しむ。それくらいで良かったのだ。
だと言うのに、この世界に来てからもうすぐ1年が経つ。
幸い、といっていいのか分からないが、ある人に拾われて衣食住に困ることもなく、この物騒な世界でも比較的平穏に暮らせていた。
けれど、近頃毎晩のように元の世界の夢を見る。家族、今まで自分と関わった人達、築き上げてきたもの。様々な未練が悪夢となって忘れないでくれと、私を追い詰める。大好きな漫画の中に行けたと喜べたのは最初のうちだけだった。
それに、最近恋人の様子が可笑しいのも理由の一つだった。
もともと束縛の激しい人だったが監視をつけたり同じアジトにいるにも関わらずGPSをつけたり。一人での外出は一切禁じられ、明らかに度を超えている。ほぼ軟禁状態だ。
引きこもり生活の方が向いていると昔は思っていたがこれは間違いだった。
ここで頼れるのは彼しかおらず、彼が居ない間は世話役が面倒を見てくれるがお世辞にも親しいとは言えない。ここの人達は基本彼以外最低限しか言葉を交わしてくれないのだ。
この静かで薄暗い部屋にいると退屈で、退屈だと余計な事ばかり考えてしまう。人は太陽を浴びないと鬱になりやすいと聞いた覚えがある。あまり信じていなかったが、今ならそうかもしれないと素直に信じられる気がする。
なぜ彼はあれ程までに私を愛するのだろう。
私は彼を一人の登場人物としては非常に愛していた。不気味でありながら美しい容姿とカリスマ性。たまに描かれるギャップもラスボスとしてはあまりにも完璧なのだ。これで虚弱設定とか萌えない人は居ないだろうと断言出来るほど。
しかもフョードル・ドストエフスキーは愛こそ重すぎるものの、浮気もせず一途な男だった。外国人だからなのかスキンシップが激しいが慣れれば悪い気もしなかった。むしろ彼に会えない日は不安で気が変になりそうになる。彼と同じ部屋に居ないと今みたいに満足に眠ることさえできない。
なぜ?なぜ彼のような人が私を愛するの?
自分は何も無い。本当に何も無いのだ。悲しいことにトリップあるあるの特別な力があるだとか、容姿がいいだとか実は天才だとか。泣きたくなるほど一切何も無いのだ。
そんな自分を病的なまで愛する彼はおかしい。もしやこれは随分昔好んで見ていた、いわゆる愛されとやらだろうか。そうでなければ彼が私の様なつまらぬ凡人にあれほどの愛を向ける筈がないのだ。どうせなら恐ろしい魔人に愛されるより私も異能力が欲しかった。そんな馬鹿げた事を考えるくらいには気が滅入っていたのかもしれない。
いつからだったか、元の生活が思い出せなくなってきていた。家族の名前は覚えている。でもどんな顔だっただろうか。
初めて上司に褒められた時の喜びは今でも覚えているがどんな声で、何を言われたのかもう思い出せないのだ。記憶の大半が、フョードルさんで塗り替えられていく。
なんとかこの世界の知識だけでも覚えていたかったが、この生活では書き記すこともできない。彼に見つかったらどうなることか。
ゆっくりと確実に私はこの世界の事すら忘れていく。その事実がひたすらに恐ろしかった。
分からないことは、怖い。
私は、ここに居るべきでは無い。
元の世界に帰らなくては行けない。
彼が飽きたら、きっと私はいとも簡単に殺されてしまうだろう。そうでなくとも、このまま重すぎる愛に私が潰されてしまうのではないか。愛してはいるけども彼は正真正銘、この世界の悪そのものでありいずれ武装探偵社に敗れる運命で破滅しかない。考えてもキリのない不安が常に付き纏う。
今ならまだなんとかなるんじゃないか。
ふと、そんな考えが頭を過ぎる。未来の展開は正直、あまり覚えてはいないが少なくとも今彼に唯一匹敵するあの人が生きている。
私はフョードルさんに、
知られぬよう出ていこう
「大切な話があるの」
やっぱり、だめだ
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