文豪ストレイドッグス
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⚠ネタバレ 汚い グロ表現
「食べないのですか?」
血色の悪い顔がにんまりと笑って問う。
パンとスープ、小ぶりの薄いステーキが皿の上で待っている。
フェージャのもとにはないそれは、不思議な香りがした。牛でも豚でもましてや鶏でもない。ラムやジビエのような獣臭さもないのにどこか鼻にねっとりまとわりつくような匂い。
「私だけは食べにくいですよ。フェージャは食べないんですか?」
「ぼくは食べきれないのでいりません。遠慮せずさあ、どうぞ」
「はぁ…、じゃあ、いただきます」
手始めにステーキからいただこう。
ソースはかかってないから塩味かもしれない。ナイフで一口サイズに切り分けていく。細い繊維がぶつぶつと切れていく感覚がナイフ越しに伝わる。しっかりと焼かれた断面からはうっすらと肉汁が滲む。
あまり好きではない香りに顔を顰めそうになるのを抑え口に運ぶ。食べなれた肉よりジューシーさはなく、すかすかとしていて圧縮したスポンジのような食感。ほんのり塩味と、鉄臭さと後味の悪い脂。噛む事に不愉快な味が広がり、咀嚼ができない。水で流し込みなんとか飲み込むことができた。
ここまで美味しくないステーキは初めてだ。
「その反応だと、お気に召さなかったみたいですね」
「ぐ…。ぅぇ…、これ、なんの肉ですか?」
「なんだと思います?」
「私が聞いてるんですけど…、ジビエとか?それか蛙?」
自分で言い出したのに、皮を剥がれた蛙を想像して更にげんなりした。あれを初めて見たとき、伸びきった足が人間みたいで怖かったのを思い出したから。でも蛙は確か、淡白で鶏肉に近い味で美味しいと聞いたことがあるし大きさ的にどうなのだろう。なら、考えたくはないが犬猫だろうか。どこかの国では食用にしていると、聞いたことがある。日本でも戦争時代は食肉として扱っていたとか。
……考えるとますます気持ち悪くなってしまう。
目の前で優雅に紅茶を飲む彼は、ふふと笑う一方で答える気はないらしい。
「ちょっと、食欲が」
「とても貴重なものですから、味わって全て、食べてくださいな」
ないからいらないです。そう言いたかったのにフェージャに遮られてしまう。
渋々二口目を口に運ぶが、ぐにゃりと噛んだ瞬間、反射的に嘔吐く。
「…あの、匂いがだめかも。気持ち悪くて」
「おや?それは残念だ。あんなに好きと言ってくれたのに」
「え?」
なんの事だ?私はこんな匂い一度も嗅いだことはないし、ましてや好きでもない。
「以前ぼくの匂いが好きだと、そう言ったではありませんか」
いつだったか。確かに、言ったことがある。ご機嫌取りのためでもあったが、フェージャは案外いい匂いがする。汗が少ないのか嫌な体臭はせず微かに石鹸と甘いような匂い。鼠は綺麗好きなんですよ。彼の言った言葉を思い出す。
鼠。鼠。…鼠?
鼠は彼。彼は鼠。これは鼠?鼠はこんなに大きくない。でもこれは鼠。
途端に言いようのない気持ち悪さと吐き気が襲う。まさか。まさか。まさか。
全身から血の気が引いて、呼吸が荒くなる。
視界が点滅して息が苦しい。
「ねえなまえさんぼくは美味しかったですか?」
「ゔ…」
おえ。
フェージャの言葉がとどめだった。涙が零れ、汚い音を立てて吐瀉物が皿を。机を汚していく。出すものがなくなってもなお胃の痙攣は収まらず吐き出そうともがいている。フェージャだったものが、吐瀉物に汚れていく。
「おや大変だ。大丈夫ですか?」
こちらに近づき顔を覗きこむ。
心配する言葉とは反対に何処吹く風な顔。
誰のせいだと思っているんだ。
どうして。
「ひどい」
「なにがです?」
「どうしてこんなことするの」
「愛してるからです」
「…愛してるなら、こんな事しない」
「愛しているから、ですよ。カニバリズムは人間のとる最も強い愛情表現という説もありますし、動物も母親が我が子の死を悲しみ、そして愛して食べます」
ふざけた答えに再び吐きげがしてくる。
この人は狂っている。私達は動物ではないし、人である以上食人行為はあってはならないことだ。
「ぼくもなまえさんを食べたかったのですが、そうしたら怯えてもう口を聞いて貰えないでしょうからぼくを、正しくはぼくだったものを食べて貰おうと思いましてね」
名案だと言わんばかりの彼に体が震える。
「人の体は約4年で細胞が入れ替わるという説がありますから、また4年後にぼくを食べて、貴女の一部にしてください」
冷たい手がそっと涙を拭った。
肉はすっかり冷めきっている。
この手みたいに。
どうしてこんなことをするのかって?ただ愛する人と一つになりたいだけですよ
「食べないのですか?」
血色の悪い顔がにんまりと笑って問う。
パンとスープ、小ぶりの薄いステーキが皿の上で待っている。
フェージャのもとにはないそれは、不思議な香りがした。牛でも豚でもましてや鶏でもない。ラムやジビエのような獣臭さもないのにどこか鼻にねっとりまとわりつくような匂い。
「私だけは食べにくいですよ。フェージャは食べないんですか?」
「ぼくは食べきれないのでいりません。遠慮せずさあ、どうぞ」
「はぁ…、じゃあ、いただきます」
手始めにステーキからいただこう。
ソースはかかってないから塩味かもしれない。ナイフで一口サイズに切り分けていく。細い繊維がぶつぶつと切れていく感覚がナイフ越しに伝わる。しっかりと焼かれた断面からはうっすらと肉汁が滲む。
あまり好きではない香りに顔を顰めそうになるのを抑え口に運ぶ。食べなれた肉よりジューシーさはなく、すかすかとしていて圧縮したスポンジのような食感。ほんのり塩味と、鉄臭さと後味の悪い脂。噛む事に不愉快な味が広がり、咀嚼ができない。水で流し込みなんとか飲み込むことができた。
ここまで美味しくないステーキは初めてだ。
「その反応だと、お気に召さなかったみたいですね」
「ぐ…。ぅぇ…、これ、なんの肉ですか?」
「なんだと思います?」
「私が聞いてるんですけど…、ジビエとか?それか蛙?」
自分で言い出したのに、皮を剥がれた蛙を想像して更にげんなりした。あれを初めて見たとき、伸びきった足が人間みたいで怖かったのを思い出したから。でも蛙は確か、淡白で鶏肉に近い味で美味しいと聞いたことがあるし大きさ的にどうなのだろう。なら、考えたくはないが犬猫だろうか。どこかの国では食用にしていると、聞いたことがある。日本でも戦争時代は食肉として扱っていたとか。
……考えるとますます気持ち悪くなってしまう。
目の前で優雅に紅茶を飲む彼は、ふふと笑う一方で答える気はないらしい。
「ちょっと、食欲が」
「とても貴重なものですから、味わって全て、食べてくださいな」
ないからいらないです。そう言いたかったのにフェージャに遮られてしまう。
渋々二口目を口に運ぶが、ぐにゃりと噛んだ瞬間、反射的に嘔吐く。
「…あの、匂いがだめかも。気持ち悪くて」
「おや?それは残念だ。あんなに好きと言ってくれたのに」
「え?」
なんの事だ?私はこんな匂い一度も嗅いだことはないし、ましてや好きでもない。
「以前ぼくの匂いが好きだと、そう言ったではありませんか」
いつだったか。確かに、言ったことがある。ご機嫌取りのためでもあったが、フェージャは案外いい匂いがする。汗が少ないのか嫌な体臭はせず微かに石鹸と甘いような匂い。鼠は綺麗好きなんですよ。彼の言った言葉を思い出す。
鼠。鼠。…鼠?
鼠は彼。彼は鼠。これは鼠?鼠はこんなに大きくない。でもこれは鼠。
途端に言いようのない気持ち悪さと吐き気が襲う。まさか。まさか。まさか。
全身から血の気が引いて、呼吸が荒くなる。
視界が点滅して息が苦しい。
「ねえなまえさんぼくは美味しかったですか?」
「ゔ…」
おえ。
フェージャの言葉がとどめだった。涙が零れ、汚い音を立てて吐瀉物が皿を。机を汚していく。出すものがなくなってもなお胃の痙攣は収まらず吐き出そうともがいている。フェージャだったものが、吐瀉物に汚れていく。
「おや大変だ。大丈夫ですか?」
こちらに近づき顔を覗きこむ。
心配する言葉とは反対に何処吹く風な顔。
誰のせいだと思っているんだ。
どうして。
「ひどい」
「なにがです?」
「どうしてこんなことするの」
「愛してるからです」
「…愛してるなら、こんな事しない」
「愛しているから、ですよ。カニバリズムは人間のとる最も強い愛情表現という説もありますし、動物も母親が我が子の死を悲しみ、そして愛して食べます」
ふざけた答えに再び吐きげがしてくる。
この人は狂っている。私達は動物ではないし、人である以上食人行為はあってはならないことだ。
「ぼくもなまえさんを食べたかったのですが、そうしたら怯えてもう口を聞いて貰えないでしょうからぼくを、正しくはぼくだったものを食べて貰おうと思いましてね」
名案だと言わんばかりの彼に体が震える。
「人の体は約4年で細胞が入れ替わるという説がありますから、また4年後にぼくを食べて、貴女の一部にしてください」
冷たい手がそっと涙を拭った。
肉はすっかり冷めきっている。
この手みたいに。
どうしてこんなことをするのかって?ただ愛する人と一つになりたいだけですよ
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