文豪ストレイドッグス
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この世界にきてから面倒事に巻き込まれたり死にかけたりなにかと波乱万丈な人生を送るはめになってしまったが、一番の予想外は何故かあの魔人フョードル・ドストエフスキーの恋人になってしまったことだ。
恋人…と、言っていいのか現状正直分からないが。鉄格子付きの窓とベッドと机、最低限の家具しかない部屋に閉じ込められ外出は禁止、生活は全て彼が管理。娯楽といえば本か、フョードルさんと会話くらいしかない。
時間も曜日感覚もとうに狂ってしまった。
恋人よりも愛玩動物の方が合っているのではないか。
画面越しでは確かにこんな風に病んでれな彼に愛されてみたいと胸を踊らせていたが、いざその立場になると彼の愛はあまりにも強烈すぎる。
それから正直、魔人の名に恥じぬ(?)殺人やら拷問やらをするから普通にめちゃくちゃ怖い。
あの人のご機嫌を損ねたら、なにをされるか分かったものではない。
ああ、いやだなぁ。そう考えていると、たいてい見計らったように彼が部屋にくる。今日も例外ではないみたいだ。
椅子は一人分しかないのでベッドに腰掛けて並ぶ。
「随分と真剣に、なにを考えていたのです?」
「フョードルさんのことを、今日はいつきてくれるのかなって」
こう言えばご機嫌取りの嘘だと知っていても彼は喜ぶ。
「ふふ、いい子ですね。ぼくに会えて嬉しい?」
「とっても」
「従順な子は好きですよ」
美しい顔が近づいて唇同士が触れる。
薄い唇は血色が悪くかさついてすこし痛い。
「ねえ、いい加減フェージャと呼んでくれませんか、いつまでも他人行儀でなんだか寂しいじゃあないですか」
「え、いやぁ…」
それはちょっと、
「 い や ?」
「嫌じゃないです恥ずかしかっただけですフェージャだいすき」
「はい、ぼくも愛してますよ」
今のは危なかった。顔は微笑んでいるのに目は笑っていないんだもの。背中を嫌な汗が伝う。気をよくしたのか何度も唇を触れ合わせ始めた。
興奮ではなく、恐怖で息が荒くなるのを必死に抑えながらそっと背中に手を回して抱きつく。
「そうだ、いい子のなまえさんにはなにかご褒美をあげましょう。なにがいいですか?」
「えっ」
もしや、これはチャンスではないか?
好意を示して油断…は、さすがにないか。
けれど、物は試しだ。そっと細い腕にもたれ掛かりできる限りの甘い声で囁いてみる。
「フェージャとデート行きたいです。水族館とか、観覧車とか」
逸らすことなくじっと目を見つめる。
ああ、緊張で心臓が煩い。どうか伝わらないで。
「いいですね」
「っ、本当?」
「はい。ですがまだ当分先ですね。外はまだ危険なのでだめです」
「そう、ですか…」
一瞬、期待してしまった。上げてから落とされるのはショックだがここは大人しく引き下がらなくては。
「あっという間ですよ。その間に行きたいところ考えておいてくださいな」
「はい、」
彼の言う、あっという間とは、どういう意味なのだろう。探偵社を壊滅させた日?それとも本でこの世界を書き換えた日なのか。気分が沈むのは、彼らの事も大好きだったから。こちらを見つめる彼は話を本題に戻すようだ。
「それで今、なにか欲しいものはありますか?」
「そうですね…パソコンとかテレビ、とか?」
「電波の関係で無理ですね。ただのモニターでもいいなら構いませんよ」
「ああ…、じゃあいらないです」
やっぱり、無理だよね。なら他になにかバレずに役に立ちそうなもの。なにか、なにかと考えて思いついたのが一つ。
「あ、時計とか?」
言葉にした瞬間、フョードルさんは無表情になり、途端に部屋の温度が下がったかのように悪寒がする。
「え、あの、フョ、フェージャ?どうし、」
「いいですかなまえさん、ぼくの故郷では恋人に時計を贈るのは別れを意味します」
「あ、そ、そうなんですね、ごめんなさい」
「ええ。ええ、なまえさんが知るはずないのですから、仕方のないことです。日本では恋人が時計を贈り合うのは一般的みたいですから。ですがぼく、少し傷つきました」
彼の冷たく細い指が顔の輪郭を撫でる。顎から頬へ、頬から目元へとゆっくり触れる。このまま目玉を抉られるのではないかと気が気では無いが今顔を逸らせば間違いなく目を失うだろう。
長いまつ毛が伏せられ瞳に影を落とす。
同情を誘うような悲しげな表情に居た堪れない。
私は何も悪いことなどしていない、むしろ被害者だと言うのになぜこんな申し訳ない気になるのか。
「ごめんなさい、フェージャの言う通り知らなくて、別れたいとかじゃないですから」
「本当?ぼくのこと、愛してますか?」
「、もちろん。フェージャさえいてくれれば他には何もいりません」
とにかく今は彼をこれ以上刺激しないように。頭にはそれしかなかった。
「本当に?ぼく、貴女を監禁してるんですよ?そんな酷い男を本当に愛するんですか?」
悪いと分かってるなら監禁なんてやめて。喉まででかかったその言葉を必死に抑え込む。まだ、まだだ。今はまだその時じゃない。
「フェージャなら、なにされてもいいです。愛してるから」
その言葉を聞いた瞬間、ひどく嬉しそうに笑うから、私でも理解した。
あの質問は初めからこう答えて欲しかったのだと。
「なまえさん、今どうしようもなく貴女が欲しい。いいですか?」
口調こそ訪ねているものの、拒否権などあるわけが無い。言葉のかわりに口付けて背中に手を回すとベッドに倒れ込む。
この人の事も好きだった。ああ、せめてもう少し自由にしてくれたら、本当に愛せるのに。
嗚呼、なんて愚かで可哀想なぼくの可愛い人
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