Dear Saiyans 5話・閉ざされた心

しばらくすると、ドアをノックする音がした。農家のおじさんの知り合いの医者だった。その医者は、とても若く優しい顔をした男性医師だった。
「こんにちは、君が宇宙からやって来たクリス君だね」
「は、はい。はじめまして、クリスです。そして、こちらがラディッツさんです」
クリスは少し固まりながらも、ラディッツを紹介し、これまでの事を全て話した。

「なるほど…。君もまだ子供なのに医者になっていたとは…。でも、よく頑張ったね」
医師はクリスの頭を撫でて言った。
クリスは生まれてから頭を撫でられたことも、誉められたことも一度もなかった為、涙が止まらなかった。

医師はラディッツの横に立つと、聴診器や心電図を使ってラディッツの心臓と肺の音を確かめた。
その後も、脳波を調べたり、採血をして血液検査も試したりもした。
今のクリスには、怖くてできなかった検査だ。
そして、すぐに結果が出た。幸いどこも異常はなく、全身麻酔によるものではないことが分かった。
ただ、気がかりなのは、すぐに目を覚まさないことだけだ。
そこで医師は、眠っているラディッツにこんな質問を試みた。
「あなたには仲間はいますか?イエスなら1回、ノーなら2回尻尾を振って下さい」
すると、ラディッツの尻尾の先が動き出した。そして、2回振った。
医師は続けた。
「では、誰も自分を助けてくれる人はいないのですか?」
今度は1回だけ、尻尾を振った。イエスのサインだった。
ラディッツが眠ったまま意識を取り戻さない理由…。それはベジータ達に今の自分を見られるのが怖い。実の弟・孫悟空こと、カカロットが死んだにも関わらず、自分だけが助かったという罪悪感。
さらに、多くの異星人の命を奪い、星を制圧したことへの後悔。ベジータやフリーザが怖くて生きたくないという恐怖心。
ラディッツは眠りについてしまうほど、心を閉ざしてしまったのだ。
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