Dear Saiyans 16話・孤独の旅路

「…大丈夫かい?どうして逃げるんだい?」
声が聞こえた。クリスは恐る恐る目を開けた。
そこには、懐中電灯を持った二人の若い男性が立っていた。一人はまだ幼い少年で、もう一人は体格の良い男性だった。
巨大なお化けの目に見えていたものは、二人が持っていた懐中電灯の明かりだったのだ。
「…あなたは…?」
クリスが言った。
「駅で電車を待っていたら、森から君の叫び声が聞こえたから、助けに来たんだよ」
「…ぼくの、声…?」
「はい、だけどこの子、フリーザにちょっと似てるような…」
少年は不思議そうに言った。
「こら、トランクス!そんな事言っちゃダメじゃないか!」
男性は少年をピシャリと叱った。
「う…。ご、ごめんなさい…」
少年はクリスに謝った。
「ううん、気にしてないよ…」
クリスは悲しそうに言った。
男性はクリスの手をひいて言った。
「いつまでも、こんな真っ暗な森にいたら危ないよ。さぁ、一緒に出よう」
しかし、クリスはすっかり弱っていて、立ち上がることができなかった。
体が冷えきって、力も入らなかった。
「す、すみません…。力が…」
「う~ん、ずいぶん弱ってるね…。よし、オレに任せて」
男性は少年に懐中電灯を渡すと、クリスを抱き上げた。クリスは男性を見てハッとした。
「…!?あ、あの…」
「なんだい?」
「…ひ、左腕が…」
なんとその男性は、左腕を失っていたのだ。
さらによく見ると、見覚えのある道着を着ていた。
「…あの、お名前は…?」
クリスは固まりながら聞いてみた。
「オレは、孫悟空の息子・孫悟飯だよ」
「そしてぼくは、ベジータの息子・トランクスといいます」
「えっ!?」
クリスは信じられなかった。クリスの知っている悟飯は、まだ小さな子どもである。しかし、今目の前にいるのは、大きく成長した悟飯だった。
しかもベジータに子どもがいたとは、あまりに衝撃的だった。
「あ、あの…。それって、どういうことですか…?」
クリスは震えながら言った。二人のことを、悟飯たちに化けた魔物じゃないかと疑っているのだ。
悟飯はふぅっとため息をついて言った。
「信じられないかもしれないけど、びっくりしないで聞いてね…」
その話は、本当に悲しく、そして不思議な話だった。
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