とある日の前夜

「♪♪〜♪……いや、これも違う」
「おい、ユカリ」
「うーん、どうしよう……」

周囲に配慮した、控えめな歌声が響く。そこにノエルが声をかけるが、反応はない。

「ユカリ?」
「わっ、ごめんなさい!没頭しすぎていました」
「ふん……こんな時間まで取りかからなければならないほど追い詰められているのか?」
「えっと、まだ余裕はあるんですけど、少しでも早く完成させたくて……」
「そう焦っていても、いい音楽は生み出せないだろう。今日はもう休め、僕も寝る」

厳しい言葉の裏にある優しさを理解しつつも、ゆかりは納得のいかない面持ちだ。

「わざわざ言わせるな。明日、情けない姿を僕に見せるつもりか?」
「……そうですね。全力が出せなければ、師範代や兄者にも迷惑がかかる……。ありがとうございますノエル君、気持ちをリセットして、また頑張ります!」
「貴様のために言ったんじゃない、くだらない悩みでウジウジされるのが不快極まりないというだけだ。分かったら、せいぜい明日も美味しい紅茶を淹れるんだな」
「またぼくを使用人みたいに扱うつもりですか?ノエル君ったら、うふふ……」
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