B.T.SHOW作戦会議 グルメリポート編

ある日の106号室、悶々と扉を見るおぼろ。ゴールドハイムを守る者である聖人は、無論目を留め——

「どうしたんだい、霧山君?もしかしてドアの立て付けが悪くなってたかな、それならすぐに……」
「いえ、ドアはなんともないんです。……はっ、むしろ俺が見つめ続けるせいで壊れてしまったかも……あの、ちゃんと弁償はしますので!」

相変わらずだねえ、と言いながら聖人は扉へと歩き、一度開けてそのまますぐに閉めた。特に異常のない様子に胸を撫で下ろしたおぼろを見て、改めて質問を畳みかける。

「じゃあ何か悩み事かな?よかったら、お兄さんに話してみなさい」
「そんな、寮長殿に話すほどのことじゃないんです。いやでも、うじうじとした俺の姿を晒す方が迷惑になるかもしれない」

一つ頷いて、聖人の方へと向き直る。相手が先輩とはいえ、「話すほどじゃない」悩みを相談するにはやたら大きい決意を固めながら、口を開いた。

「実は、食堂に行こうか迷っているんです」
「ほうほう、何か食べたいものがあるのかい?」
「はい。おにぎりの変わり種シリーズが、今は天むすで……」
「そうか、霧山君は天ぷらが好きなんだったねえ」

食堂で提供されているおにぎりは、梅干しや昆布などの定番メニューと月替わりで提供される変わり種メニューの2種類がある。
変わり種は好評なことが多く、過去には牛肉おにぎりが牛丼みたいだとソラが喜んでいたり、たこ焼きおにぎりにギンコが興味を示したりしていた。そして、今月は天むすがおぼろの心を射止めたようだ。

「おにぎりは、稽古の合間に自分たちで作って食べることもありますし、俺も好きです。ましてや、天ぷらのおにぎりなんてきっとおいしいに違いない。でも……」
「おやおや、そんなに魅力を感じているのにためらう理由があるのかい?」
「天ぷらとおにぎりという素晴らしい組み合わせを、俺なんかがいただいてしまっていいのだろうか、と……。そもそも俺がいつも食べているのは塩むすびで、具の入ったおにぎりってだけでもおこがましいのに……ああ、塩にもまれて食べられるべきなのは俺の方だ……!」
「ふふ、それだとまるで不思議な料理店に迷い込んだ男たちのようじゃないか。しかし、どうしたものかねえ」

迷う必要はないと言いたい聖人だが、それだけではある意味頑ななおぼろの心はほどけないかもしれない。
そんな時、ふと思い出したことが口をついて出る。

「そういえば、とある作家は天ぷらそばとサイダーの組み合わせが好きだったそうだねえ」
「サイダーを?す、すごいですね……俺なら、おしるこ?うーん……食後ならともかく、一緒に食べるのは合うのかな……」
「そうだ!いいことを思いついたよ。次のブラックテールの動画は、グルメリポートだ!」
「えっ、急に動画の話ですか?でも、なるほど……ってダメです、ものを食べるならマスクを外さなきゃいけないから、そしたら正体が……!」

すんなり納得しそうになったおぼろだったが、直後に自らが恐れるリスクに気づく。しかし、いつもながら相手もすぐには引き下がらない。

「いい案だと思ったんだけどなあ。じゃあ、食べる間はついたてを使うか、編集で隠しておこう。これなら君の秘密も守れる。どうだい?」
「そ、そういうことなら……」
「野菜をリポートしたら、子どもの好き嫌いが解消されるかもしれないねえ。そうなれば、ヒーローとしても喜ばしいことじゃないかい?」
「確かに、そうですね……」

丸め込まれたようではあるが、動画の方向性が決まっていく。うんうんと頷く聖人は満足げだ。

「霧山君が乗り気になってくれて嬉しいよ。そうと決まったら、善は急げだ。天むすを買っておいで」
「えっ、なんでそこで天むすに戻るんですか?」
「ブラックテールのグルメリポート第1弾は、天むすにするのさ。ブラックテールの好物が判明すれば、視聴者もますます注目するだろうからね」

覆面をつけたヒーローとして、とはいえ注目という言葉を聞くとさすがに顔色が悪くなる。

「そ、それってやっぱり、正体がバレることにつながりませんか……?」
「今までだってバレずにやってこれたんだし、心配いらないさ。さあ、俺は撮影の準備をしておくから行っておいで」
「うう、わかりました……。あの、寮長殿、ありがとうございます。なるべく早く戻りますね」

一抹の不安はあるが、天むすを食べる理由を作ってくれた感謝を述べて部屋を出る。
足取りは軽い。おぼろ自身、ブラックテールとして新しいことに挑戦するのが楽しみになってきている部分もあるのだ。次はどんな動画になるのだろうか、と。
おぼろが変身してカメラの前に勇姿を見せるまで、あともう少し。





後書き
このお話を書いた時、106の日に合わせる事に加え、ワンドロ(ライ)の練習をするつもりで書き始めました。題材を決めた上で、プロットは頭の中に留めて書き出さない、といった感じで(プロットなどを書き出したら絵のラフに相当するという解釈です)。
普通に無理でした。一時間経った時には数百文字しかありませんでした。それでもなるべく早く、突貫で書き上げたので雑になってしまったところが結構あります。
しかし、ダの小説で最初に完成させたのがこれで良かった、という思いはしっかりあります。やはり推しから書くのは大事ですね。
ワンドロ参加は…今の地力では厳しいので、未来の私がやれたらやります。

24/05/30追記:ダンキラwebオンリー「紅鶴創立祭 ~フラミンゴールド☆フェスティバル〜」に出展し、その際にタイトルを「01/06」から現在のものに変更しました。実質無題のまま書き切って公開してしまったので、まともな名前を付けたいなーとは思ってたのです。長いし特にひねりもないタイトルになりましたが。
なお「B.T.SHOW作戦会議」がシリーズ化するかはまだ決めてません。でも二人が作戦会議する話はいくらでも書きたいです。ほぼ確実に似たような話ばかりになるけど、それがうちのラーメンの味って事にしといて頂けると幸いです。



以下、特に暇な人や物好きな人だけ読んでね地帯。
伝わらなくて良いこだわりポイントは、冒頭の地の文です。
固有名詞以外は全て"1"、"0"、"6"に置き換えられる文字で構成しています。0616106号室、606010…といった具合ですね。数字と平仮名の対応表をググって使える文字を選抜しました。それ無理矢理じゃね?と思ったりした文字もありましたが、使える文字が多いに越した事はないですからね。何より、「の」や「は」を使えるのが有難かったです。
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