彼は「よく気がつく人」だ。

「これでどうかな？……よし。電球の付け替え完了、と」

あらゆる困り事の種に気づき、先回りするように対処している姿を毎日のように見かける。

「おーい、君！椅子にタオルを置き忘れていたよ。はい、どうぞ」

トラブルなどはそこそこあるけど、それでも何割かは寮長が未然に防いでくれている。気がする。

「おや、ラウンジ用のお菓子が減ってきているねえ。時間もあるし、今から買いに行こうかな」

コーチ科の生徒という意味では珍しい存在である私も、ゴールドハイムにおいてはただの一人の寮生。寮長には頭の下がる思いだ。

「コーチ君、よければ付き合ってくれないかい？もちろん、ご褒美の飴ちゃんも用意しているよ」

だから、頼み事をされたら積極的に応じるようにしている。ご褒美欲しさではなく、寮長の役に立ちたいから。まあ、もらえるものはもらっておくけど。

「こちらこそ、私でよければお手伝いします」
「ありがとうねえ。今日は他に必要なものもないから、そんなに手間はかけさせないよ。安心しておくれ」

確かに重いものを買ったりあちこち回ったりするなら、ダンサーに比べて体力のない私は荷物持ちどころか足を引っ張ってしまうかもしれない。そもそも、そういう場合は毒島さん辺りに声をかけるだろう。この寮長は、適材適所な人選についても抜かりない。
さて、お菓子の買い出しには私が適任という自信があるわけじゃないけど、引き受けた以上はいくつかの責任が伴う。

「コーチ君は準備とか、今やっておきたいことはあるかい？あるなら待っているから、慌てずにやっておいで」
「いえ、すぐに出られます。寮長も大丈夫なら、行きましょうか？」
「そうだねえ。善は急げだ、早速出発しようか」
「玄関はこっちですよ！」

一つは、ちゃんと目的地に辿り着き、無事に帰ること。
どんなに迷ってもなんだかんだ無事に帰ってくる寮長だけど、万が一のことがあるかもしれない。そうでなくても、あんまり遅くなるといろんな人に心配をかけてしまう。寮長と出かけるのであれば、私が道を把握し、はぐれないよう気を張って歩くのが大切な任務となる。
そしてもう一つの責任は……