am 或いは pm
きっと、土曜日の度になにかものが消えていることに、るあちゃんは気づいていないと信じている。
るあちゃんが部屋を出ていったのを見届けて、あたしはプレイしていた音楽ゲームをポーズ画面にした。ぐるりと部屋を見渡す。るあちゃんが育った部屋。おぞましい量の本と簡素なベット、いくつかの小物とまた本が積まれた勉強机。本以外は平均的な子供部屋と言っていい。
目当てはどの棚でもなくゴミ箱だ。るあちゃんのお母さんは週一回、日曜日に家をまとめて掃除する習慣があり、それと同時にこの部屋のゴミ箱も空になる。だから土曜日は一番ゴミが多く入っていて、1つ消えていても気づく確率が低い。
思考を回して、その上で気持ち悪すぎてドン引きしちゃう。なんでこんなに神聖な部屋で、ゴミ漁りなんて、そんな。遺跡建造物を荒らす観光客と同ベクトルだ。そう、この部屋はあたしにとってキリストが生まれた部屋より清くて明るい部屋なのに。あたしは異物だ。棄てられたコカ・コーラの缶みたいに、変な色の。
ティッシュペーパーの丸められたやつ。これは、消しカスをまとめるのに使ったのだろうか。それとも何かしらの体液を拭き取ったものなのか。後者を求めてごめんなさい。濁った心が、更に濁っていく。
くしゃくしゃに丸まったティッシュをポケットに突っ込んで、わたしは勝手口に向かった。足音が聞こえた長さと方向的に、台所及びトイレではなく、庭の方向だと思ったが、どうやら正解だったらしい。部屋を出てから追いかけるまでにラグがあったことなんてどうせ気にしていないだろうに、「探してたの」なんてうそをついてしまう。早くバレて裁かれて、そしたらあたしが真っ白になるなら、それでもいい。でも実際のところ、二度と会えなくなって、それだけだろうから、この秘密は守らなければいけない。
その手元にシャボン玉の道具があるのに気づくまで、数秒かかった。るあちゃんは俯いて、芝生の、更にその先を見ている。ショッキングピンクのプラスチックの容器は陰になって見えにくくなっていたが、るあちゃんがこちらを見た時、その姿も光に照らされて顕になった。
気づいた瞬間、碌でもない思考が頭を過ぎった。
最悪だと思った。こんなことが出力されるあたしの脳は最初から欠陥品なのだろう。
でも止められなかった。既に運動神経へと送られた信号は取り消し不可で、あたしの穢れた手がるあちゃんの白い手に伸びていく。両手にそれぞれ握られていた容器とストローはあんまりにもあっさり持ち主を変えたので、止めてよ、なんて悪態をつきもした。どう考えてもあたしが悪いのに。
「______、_、_____!」
ストローを口につける。少し粘ついたるあちゃんの唾液はまだ少し温かかった。
家に帰ってから、ポケットの中身を机に広げる。
あたしの部屋。光の入らない北向き六畳。るあちゃんの部屋は一日中光で満ちているのに、帰ると暗すぎて笑っちゃう。でもお似合い。寧ろ明るい部屋でこんなことしてたら惨めさで死にたくなってしまう。あたしに寄り添ってくれるのなんて、暗さと寒さしかない。
ティッシュを広げる。多分鼻をかんだときの固まり方。指で肝心のものがついているところをつつくと、僅かに爪が湿った。
ティッシュは他にもいっぱいあって、全部時系列順にファイリングしている。
でもやっぱり古いのは乾燥しきっていて、ただのパサパサした紙になってしまっているので、新しいものはやっぱり違う。…何も継続して収集する言い訳にはなっていない。ごめんなさい。これが贖罪なのか、この行為のために免罪符を買わなきゃいけないのか、どっちなんだろう。
そして、緑の筒を目前にし、思わず息を呑んだ。わたしの唾液と、るあちゃんの唾液が混ざりあって付着しているはずのそれ。混ざりあって浄化されているのか、混ざりあって穢れたのかは分からない。
立ち上がって、ベッドの下に置いてある鍵付きのメイクボックスを持ってきた。ただの箱より、あくまでもお化粧する為の箱に見えた方がバレないと思った。小賢しくて嫌だ。そんなことしても刑が執行されるまでの時間が伸びるだけなのに。
箱を開けると、過去のとびきり素敵なアイテムが詰まっている。涙を拭いたわたしのハンカチ、拾ってくれた鉛筆…
ケーキを食べてたフォークは衝動に任せて持ち帰り、いつか返すいつか返すと思い続けて未だ返せていない。擦り傷の止血に使ったティッシュはティッシュの中でも貴重なのでこっち。
この箱を見ると、うっとりした気持ちと、崇めるような気持ちと、懺悔する気持ちと希死念慮でぐちゃぐちゃになる。頭が痛い。それもきっと罰だと思いながら、メイクブラシのスペースに緑のストローを収めた。棒状のものだからぴったりで最悪だ。
あたしはこんなにもわるいんです、殺してください、赦さないでくださいっていくら祈っても、あたしのかみさまはあたしに微笑むばかりだ。言ってないんだから当たり前。なのに、それにどこかで安堵している自分もいて、また自分が嫌になる。
これを繰り返していたらいつかわたしもるあちゃんみたいにきれいになれるはずだから。でも、それまでの過程で帰れないくらい黒くなったらどうなるんだろう?あたしがるあちゃんの手に負えないくらい、穢れてしまったら。あたしはまだ引き返せるの?もう遅いの?全部わかんないよ。
メイクボックスを閉じる。意味があるのか分からない謝罪を込める。あたしが死ぬとき、これの中身はるあちゃんが棺の中のあたしに投げつけてくださいって遺書に書いておかなきゃな。
あたしだけが、この筒の中に劣情を向けているんだから。
るあちゃんが部屋を出ていったのを見届けて、あたしはプレイしていた音楽ゲームをポーズ画面にした。ぐるりと部屋を見渡す。るあちゃんが育った部屋。おぞましい量の本と簡素なベット、いくつかの小物とまた本が積まれた勉強机。本以外は平均的な子供部屋と言っていい。
目当てはどの棚でもなくゴミ箱だ。るあちゃんのお母さんは週一回、日曜日に家をまとめて掃除する習慣があり、それと同時にこの部屋のゴミ箱も空になる。だから土曜日は一番ゴミが多く入っていて、1つ消えていても気づく確率が低い。
思考を回して、その上で気持ち悪すぎてドン引きしちゃう。なんでこんなに神聖な部屋で、ゴミ漁りなんて、そんな。遺跡建造物を荒らす観光客と同ベクトルだ。そう、この部屋はあたしにとってキリストが生まれた部屋より清くて明るい部屋なのに。あたしは異物だ。棄てられたコカ・コーラの缶みたいに、変な色の。
ティッシュペーパーの丸められたやつ。これは、消しカスをまとめるのに使ったのだろうか。それとも何かしらの体液を拭き取ったものなのか。後者を求めてごめんなさい。濁った心が、更に濁っていく。
くしゃくしゃに丸まったティッシュをポケットに突っ込んで、わたしは勝手口に向かった。足音が聞こえた長さと方向的に、台所及びトイレではなく、庭の方向だと思ったが、どうやら正解だったらしい。部屋を出てから追いかけるまでにラグがあったことなんてどうせ気にしていないだろうに、「探してたの」なんてうそをついてしまう。早くバレて裁かれて、そしたらあたしが真っ白になるなら、それでもいい。でも実際のところ、二度と会えなくなって、それだけだろうから、この秘密は守らなければいけない。
その手元にシャボン玉の道具があるのに気づくまで、数秒かかった。るあちゃんは俯いて、芝生の、更にその先を見ている。ショッキングピンクのプラスチックの容器は陰になって見えにくくなっていたが、るあちゃんがこちらを見た時、その姿も光に照らされて顕になった。
気づいた瞬間、碌でもない思考が頭を過ぎった。
最悪だと思った。こんなことが出力されるあたしの脳は最初から欠陥品なのだろう。
でも止められなかった。既に運動神経へと送られた信号は取り消し不可で、あたしの穢れた手がるあちゃんの白い手に伸びていく。両手にそれぞれ握られていた容器とストローはあんまりにもあっさり持ち主を変えたので、止めてよ、なんて悪態をつきもした。どう考えてもあたしが悪いのに。
「______、_、_____!」
ストローを口につける。少し粘ついたるあちゃんの唾液はまだ少し温かかった。
家に帰ってから、ポケットの中身を机に広げる。
あたしの部屋。光の入らない北向き六畳。るあちゃんの部屋は一日中光で満ちているのに、帰ると暗すぎて笑っちゃう。でもお似合い。寧ろ明るい部屋でこんなことしてたら惨めさで死にたくなってしまう。あたしに寄り添ってくれるのなんて、暗さと寒さしかない。
ティッシュを広げる。多分鼻をかんだときの固まり方。指で肝心のものがついているところをつつくと、僅かに爪が湿った。
ティッシュは他にもいっぱいあって、全部時系列順にファイリングしている。
でもやっぱり古いのは乾燥しきっていて、ただのパサパサした紙になってしまっているので、新しいものはやっぱり違う。…何も継続して収集する言い訳にはなっていない。ごめんなさい。これが贖罪なのか、この行為のために免罪符を買わなきゃいけないのか、どっちなんだろう。
そして、緑の筒を目前にし、思わず息を呑んだ。わたしの唾液と、るあちゃんの唾液が混ざりあって付着しているはずのそれ。混ざりあって浄化されているのか、混ざりあって穢れたのかは分からない。
立ち上がって、ベッドの下に置いてある鍵付きのメイクボックスを持ってきた。ただの箱より、あくまでもお化粧する為の箱に見えた方がバレないと思った。小賢しくて嫌だ。そんなことしても刑が執行されるまでの時間が伸びるだけなのに。
箱を開けると、過去のとびきり素敵なアイテムが詰まっている。涙を拭いたわたしのハンカチ、拾ってくれた鉛筆…
ケーキを食べてたフォークは衝動に任せて持ち帰り、いつか返すいつか返すと思い続けて未だ返せていない。擦り傷の止血に使ったティッシュはティッシュの中でも貴重なのでこっち。
この箱を見ると、うっとりした気持ちと、崇めるような気持ちと、懺悔する気持ちと希死念慮でぐちゃぐちゃになる。頭が痛い。それもきっと罰だと思いながら、メイクブラシのスペースに緑のストローを収めた。棒状のものだからぴったりで最悪だ。
あたしはこんなにもわるいんです、殺してください、赦さないでくださいっていくら祈っても、あたしのかみさまはあたしに微笑むばかりだ。言ってないんだから当たり前。なのに、それにどこかで安堵している自分もいて、また自分が嫌になる。
これを繰り返していたらいつかわたしもるあちゃんみたいにきれいになれるはずだから。でも、それまでの過程で帰れないくらい黒くなったらどうなるんだろう?あたしがるあちゃんの手に負えないくらい、穢れてしまったら。あたしはまだ引き返せるの?もう遅いの?全部わかんないよ。
メイクボックスを閉じる。意味があるのか分からない謝罪を込める。あたしが死ぬとき、これの中身はるあちゃんが棺の中のあたしに投げつけてくださいって遺書に書いておかなきゃな。
あたしだけが、この筒の中に劣情を向けているんだから。
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