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「若葉。準備は出来ているか」
「ええ」
「では行こう」
酒瓶とツマミを携えて二人は美しく咲き誇る桜の下に
腰を下ろした
「まさか今夜、全て飲み切るおつもりですか?」
「酒は飲んても飲まれん。心配する必要はない」
「もう……仕方ない人」
「君の顔を見ながらなら幾らでも飲める」
「それじゃあツマミを用意した意味がありませんよ」
「そんな事はないさ」
そう、二人は夜桜を眺めに来ていたのだ。
遡る事数日前。任務を終えた若葉の元に俊也が現れ……
「夜桜でも見に行こう。栄山様から譲り受けた
いい酒もあるんだ」
「あら。素敵ですね」
そう誘いを掛けていた。愛する旦那からの誘いを
断る理由なんかない
俊也の好物を少しだけ多めに用意していたが、
先程から自分を見つめてばかりであまりツマミに
箸をつけない夫に少しだけ呆れている様子だ
「勿体ないじゃありませんか」
「案ずるな。全て食べる」
ただ今は桜の花びらを頭に数枚纏う若葉を
眺めていたいだけ
するとほんの少しだけ頬を染めた若葉が俊也に
寄りかかり……
「私はもう飲めませんよ」
「ならば残りは俺が飲もう」
「えぇ。俊也様……寄りかかってもいいですか?
何だか今宵は酔いが回るのが早いみたいで……」
「遠慮せず幾らでも寄りかかるといい」
ひらひらと揺れる桜の花弁を月明かりが淡く照らし、
頬を撫でる優しい風が二人を包み込む……
何も語る必要はない。二人が一緒に居るだけでも
こんなにも心地よいのだから
「来年も……」
「どうした?」
「いいえ……このさきもずっと、旦那様……俊也様と
こうして桜を愛でたいです」
「俺もだ。桜の季節が過ぎれば葉桜……秋になれば紅葉、
冬は雪化粧を纏う椿も風情があるだろうな」
「俊也様は一年中、私と過ごすおつもりなのですね」
「それは若葉もだろう?」
「えぇ……それにしても本当に綺麗ですね」
「夫婦二人で見ているから尚更だ」
抱き寄せればその距離はさらに縮まる。こうして
素直に甘えられる幸せなつかの間の時間を二人は
ただひたすら噛みしめるのだった
「どうするんだよ。あんなに仲睦まじくされたら
声かけにくいじゃねぇか」
「わ、我々もあのお二人があそこまでとは……」
「だから止めただろう」
龍臣のその一言に気まずそうに答える鵺、そして
弟故に兄者こと俊也の性格を熟知していた智也は
軽くため息をつく
「兄者は鵺一族の長、若葉さんは女鵺を束ねる
責任者だ。我々の目の前で分かりやすく仲良くする
訳がなかろう」
表に出さないだけで二人は深く愛し合っている。
今の時期なら仲良く花見をしていても不思議ではない
水を指すような真似は控えろと忠告したものの、
どうも龍臣も他の鵺もそういった事には疎いらしく
この場に来てしまった……と、いう事だ
「と言うより既にバレたらしい 」
智也の一言にハッとした死龍はつい二人がいる方向を
向いた。すると兄者が不機嫌そうに目を細め、こちらを
見ていた事に今更気がついた
「お前達。何をしている」
「えーと、お兄さん?邪魔するつもりは
無かったんだけど……よ」
「あら。智也?死龍さん……皆、お揃いならこちらで
一緒に花見でもどうでしょう?」
「若葉。俺は二人で」
「たまには良いでしょう?それに先程仰ってたでは
ありませんか」
一年中、自分と過ごすつもりだという俊也の言葉……
「二人で景色を眺める機会はまだまだあります。
今日くらいは大勢でもいいのでは?」
「……お前達。一緒に飲むぞ」
先程の静けさから一変、まるで祭りのように
はしゃぐ皆の様子を眺めながら俊也は再び杯に
口をつけるのだった