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「おいおい。そんな機嫌悪くならなくても
いいだろ?」
「だってぇ……せっかくのデートだったのに」
恨めしそうに窓の向こうを見つめる若葉の頭を
撫でながら龍臣はある物を差し出す
「ほら。お前が見たいって言ってた映画借りてきたぞ」
「いつの間に?」
「お菓子だってある。家デートでも十分楽しめるぞ?」
「………」
「どうした?」
「随分準備がいいね。もしかして今日、雨が振るって
知ってたの?」
「え」
ジト目で詰め寄る若葉に龍臣はタジタジだ
「知ってたんた」
「いや、その……」
「……ふーん」
「えぇ!?ちょ、ちょっとぉ!?」
再びベッドに潜り込む若葉に必死になって
弁明する
「たまたま雨が振るかもー、なんてニュース見てよ……
まぁ確実って訳じゃねぇし?でも一応、念の為に
家デート楽しめるように色々と準備しただけで……」
「………」
「俺は……若葉と一緒に居られるなら正直
外でも家でも良かったっつーか……悪い」
「………」
「おーい、若葉?若葉ちゃーん?
無視されるの地味に堪えるんですけどー」
「二度寝するから静かにして」
少し拗ねているのか顔を見せようとしない。
すると龍臣もベッドの中へ潜り込む
「よし。じゃあ俺も二度寝するわ」
「え?」
抱き枕の要領で若葉を抱え込み、龍臣も
同じく二度寝するようだ
「何かこうしてゆっくりすんのも悪くないと
思わねぇ?」
「……毎回はやだ」
「分かってるって。次のデートは雨だろうが
何だろうが付き合ってやるから」
「……じゃあいいよ」
ようやく許してもらえた所で安堵した龍臣は
若葉の頭を優しく撫でる
「映画は昼飯食った後でいいか」
「龍臣が作ってくれる?」
「いいぜ?何が食いたい?」
「んー……フレンチトースト。アイスクリーム
乗っけて欲しい」
「OK。とびっきり美味いの作ってやる」
そう言えば若葉は組織に居た時は他の人のように
やれあれが食べたいだとか言っていなかったような
気がする
自分のように任務を重ねるうちに感覚が麻痺して
味が分からなくなったのかとも思ったが……
「(こいつ……ウチの班に来た時、細かったよな)」
カリンよりも小柄で細くて、同じ年齢とは到底
思えなかった若葉は親から捨てられてたった一人
孤独に生きてきた
生きる為に手当たり次第、口にしていたせいか
美味しいかどうかではなく食べれるか食べられないかで
食事を決めていた
「(俺が食わせなかったら平気で食事抜くから
大変だったぜ……)」
かく言う自分も何を食べても血の味しかしなかった
時期がある。そんな自分達が今では貴凛町で少し有名な
メロンパン屋を営んでいる
本当に人生、何があるか分からないものだ
「……龍臣……」
「寝言か」
「好き……」
「それは反則だっての」
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______________
焦がしバターのいい香りで目を覚ました若葉は
キッチンで昼ご飯の準備をする龍臣の背中に抱きつく
「起きたのか」
「本当に作ってくれたんだ」
「お前の飯は昔から俺が用意してただろ?」
「うん」
「紅茶も用意してる。早く食べようぜ」
「……スパダリ?」
「え?何つった?」
「何でもない」
午後に入っても雨は止む気配がない。しかし
午前の時ほど、若葉は気にしている様子はなかった
「……雨、振って良かったかも」
「急にどうした?」
「こうやってのんびり過ごすのも良い」
「だろ?」
「でも雨降りそうなの知ってて内緒にしてたのは
ちょっと嫌」
「……午後も全力で尽くさせていだたきます」
死龍と恐れられた龍臣も若葉の前ではただの男らしい
昼食を食べ終えた後はお待ちかねの映画鑑賞だ
幼い頃から見てきた少女がいつの間にか大人の女性へと
変化していて、お兄ちゃんと呼ばれていた主人公が
幼馴染の壁を越えようとするラブストーリーだが……
「何かすげー既視感がある」
「?」
「いや、この主人公達……まるで俺ら
みたいじゃないか?」
「……そう、かも?」
しかし若葉は決定的に違う所があると言う
「だってこのヒロインは告白されるまで主人公の事
意識してないよ」
「あぁ」
「私は龍臣に告白される前から好きだった」
「……マジで!?」
ちなみに若葉は告白された時にうん、としか
返事をしていない
「え?じゃあ何で告白された時、あっさりと
してた訳?俺、バースとジェイクの二人に
散々、勘違いしてるって言われたんですけど」
「?好きって言われたらうんって言われただけだよ」
「……ちなみに俺の何処が好きか言えるか?」
「ご飯作ってくれる所」
「それだけ!?」
「いつも傍に居てくれたから」
女のアサシンはある年齢になると班から一時的に
離れ、男のアサシンとは違う訓練を受ける事が
義務付けられている
その間も龍臣は何だかんだ様子を見に来ていて……
「でも龍臣は優しいから私じゃなくても心配すると
思ってた。カリンの事も気にかけてたし」
「まぁ……それは、同じ班だしな」
一度、毛利に抗議した事がある。若葉に
色任務なんか務まる筈がないと
そしてとある任務に若葉が就いた時、龍臣は
先回りしてターゲットを粛清するという事件を
起こした事があった
「(流石に毛利のおっさんにドヤされたっけな)」
後にも先にも死龍が任務より感情を優先したのは
この一件のみ。その後は女アサシンの宿命なのだと
無理やり自分を納得させていたが……
「(あぁそういう事か)」
自分がただの殺戮者にならず、ギリギリの所で
踏みとどまれたのは若葉がいたからこそだ
「ほら、龍臣。続き見ようよ」
「………」
「龍臣?」
無反応の龍臣を心配して若葉が顔を覗き込む
すると無骨な大きい手が白くて柔らかい若葉の
頬を包みこんだ
「ちょ、ちょっと……」
「んだよ」
この距離はキスする距離だ。慌てて龍臣の口を
抑え込むも……
「はい。無駄な抵抗はしないの」
トップアサシンである龍臣が若葉の両腕を
抑え込むなんて簡単だった
「映画、続き見ようよ」
「後でまた見ればいいだろ?」
「見たいの!」
「……分かった」
これは惚れた弱みだ。映画に集中し始めた若葉を
後ろから抱きしめながら龍臣もボンヤリと映画を眺める
「幸せってこういうのを言うんだろうな」
「龍臣もこの映画の良さが分かった?」
「バーカ。そうじゃねぇよ」
かつては妹、今は最愛の恋人。もう随分と長く
居るおかげで若葉のいない人生は考えられなく
なってしまった
「もっと稼がねぇとな……」
「何で薬指なんか撫でるの?擽ったい」
「気にすんな。映画に集中してろよ」
「龍臣のせいで集中出来ないんですけど」
絡め取られた指を解こうとしないのは若葉も
嫌ではないからだ
「……どうせ付けるならシンプルなのがいい」
「え?お前、今何て」
「何でもないよ。バカ臣」
「彼氏に向かって酷い言い方じゃねぇか」
朝から降り続いていた雨がいつの間にか
止んでいた
二人はそれに気が付きながらも映画に夢中に
なるのだった