通常
Name Change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「俺はトップになって親父が見れんかった
景色を見たいんや」
馴染みの居酒屋で城戸は熱く語る。妹分である
若葉はある疑問を投げかけた
「知ってます。その話するなら浅倉君も呼んだ方が
良かったと思いますけど」
「え?あぁ……せやな」
「そもそも何でサシ飲みなんです?今からでも
全然、呼べますよ」
「いや、ちゃうねん」
「何がです?」
熱く語る兄貴分の姿はとても格好いい。
だけど今日はそれが本題ではないようだ
「あんな……その」
「ハッキリして下さいよ。こんなん兄貴らしくない」
「じゃあ言うで?絶対に笑わんって約束出来るか?」
「はよ言ってください」
「……俺が親になれた時、変わらず
隣に居ってくれるか?」
「それで?」
「は?」
「え?いや、はよ話の続きを」
「待て待て待て」
城戸は想像していなかった若葉の反応に
思わず動揺してしまった
「何でそんな冷静なん。告白されてるんやで?」
「いや、初めて会うた時からずっと親になりたい
言うてましたよね?今更、驚く事やないと」
「そのアホ加減、ほんま変わらんな」
「アホでも何でもいいです。それで何が言いたいのか
教えてもらえます?」
「……やっぱり浅倉も呼ぼか」
「最初からそう言ってますよね」
____________________
________________
サシ飲みから数週間後。若葉は空龍街に来ていた
『何事も準備が大切や。東京に行ってこい。
潜入捜査は得意やろ?』
東京侵攻、その事前準備の為に大嶽は
若葉に対してそう命じた
城戸はその報告を受けた時、少しばかり
難色を示したが……
『今更そんな事言わんといて下さい』
『若葉……』
『城戸の兄貴らしくないです』
あれだけ散々、語っていた夢への準備を手伝おうと
しているのにどうして止めようとするのか
その真意は分からないままだった
「小峠の兄貴!今日、飲みに行きましょう!」
「おいおい。この前行ったばかりだろ?」
少し離れた所から聞き流せない人物の名前が
聞こえてきた。若葉はそっとその声がした方向へ
顔を向ける
「宇佐美」
「良いですよね!飯豊の兄貴と速水の兄貴も呼んで
皆で語り明かしましょうよ!」
「仕方ねぇな」
城戸と浅倉、そして自分を見ているかのようだった
もしも……天王寺組が関東侵攻に失敗をしたら
城戸の夢はどうなるのだろう
この抗争で命を落としてしまったら……
「城戸の兄貴。本当にこれでいいんですか」
彼らが天王寺組を裏切った訳ではない。お互いに
30年前の当事者ではないのだ
本当にこれが正解なのか。城戸と彼らの何気ない
日常を壊す日が近づいている事実に若葉は苦しそうに
顔を歪ませる
「ほんまに……良いんですか」
既に狂い始めている歯車を止める術がない事が
こんなにも苦しいとは思わなかった
「何だ?」
「小峠の兄貴。どうしたんですか」
「今、誰かに見られていたような気が……」
「何だと」
「あ、アイツ……!この前、兄貴に締め上げられた
男じゃないですか?まさか逆恨みでも……」
「懲りねぇ奴だな。締め上げるぞ」
その日の夜。ホテルに戻った若葉は城戸に
電話をしていた
「大丈夫か?」
「大丈夫ですよ」
「大嶽のカシラから聞いたんやけど……小峠っちゅう
舎弟の中でも有望な男とニアミスしたらしいやん」
「私を甘く見んといて下さい。彼に恨みを持つ人間を
隠れ蓑に撒きましたから」
大嶽へ報告を終えて程なくして城戸からメッセージが
届くようになり、なんとなく返事を帰す気になれずに
いると今度は電話がかかってきて……
「あのな若葉。この前のサシ飲みで
言うた事、覚えとるか?」
「覚えてますよ」
「あんなん言うたけど……若葉が笑っていられるなら
俺の隣やなくてもええと思っとる」
「ふざけんといて。いくら城戸の兄貴でも怒りますよ」
「落ち着けって」
「落ち着いていられますか?私は別に関東侵攻なんか
どうでもええんです」
「は?」
「城戸の兄貴の夢を……」
自分の努力を今更否定するつもりか。怒りと
同時に湧き上がる深い悲しみは言葉をどんどん
小さくしていく
「……すみません」
「……いや、俺が悪かったわ。ほな気を付けてな」
本音を言えないのはお互い様だった
_______________________
_________________
「何故ですか親っさん」
「和中。お前の言いたい事は分かる」
満身創痍の城戸は天羽と小林の会話を地面に
倒れたまま聞いていた
「今、この男を殺せばこの抗争は更に激化する。
そうなれば当然だがウチもタダでは済まないだろう」
「イモ引けって言うんですか」
「小林、そうではない。交渉の材料にするだけだ」
天羽は城戸に近付く
「君と君の舎弟である浅倉という男を敢えて生かした
我々の温情に応えなさい」
「………」
「先程、俺に向けた刃には僅かに迷いが見えた」
「………」
「何が君をそうさせたのだ」
「………ほんまにこれでええのか、分からんくなったんです」
ぼんやりとした頭でも若葉の姿だけは
ハッキリと見える
「もし、天羽組長を……殺して、ゴフ……ッ、渡世で
上り詰めても、俺には……資格が無い思ったんです」
天羽は城戸の話を静かに聞いていた
「好きな子の手を、これ以上……汚したくない……」
「………」
「せやけど、俺の、せいで……この抗争に……
巻き込んでしまって……俺は、どうすれば……
良かったんか……」
「城戸君……」
「皆さんに恨みはありませんでした……申し訳、
ありませ……ほんまに……申し訳ありません……」
遠のいていく意識の中、何度も何度も謝罪する
城戸の目から涙が零れ落ちるのだった
「若葉。せっかく潜入捜査でええ情報手に入れた
いうのに残念やったなぁ」
城戸と浅倉は東京の病院から天王寺組が世話に
なっている病院へ転院。同時期に城戸派の撤退が
決定し、代わりに戸狩派が送り込まれる事になった
「何が言いたいんですか。戸狩の兄貴」
「アイツの為に身を削ったいうのに肝心の本人が
あぁなってもうて可哀想やって話や」
「まぁ俺らが必ず結果残してくるから安心せぇ。
お前はアイツの傍におったれ」
「……」
無言で立ち去る若葉の後ろ姿に戸狩は
ため息をつく
「……叱り飛ばしたろう思っとったのにあんな表情
見せられたら何も言えんくなるやろ」
天羽組は抗争を止めるなら今だと交渉してきたが
そんな事で止まるつもりはない。自分は城戸と違う
「ほんまにどうしようもない奴らや。はよ素直に
ならんかい。見てて腹が立つわ」
素直になれない城戸と若葉に呆れつつ、
戸狩も東京へ向かう準備を始めるのだった