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「おや、あの時の御仁ではありませんか」
「おー、その節は世話になったな」
紫がかった灰色の髪が夜風に揺れ、まるでそこにだけ
美しい花でも咲いているのかと錯覚してしまう
「ちょうど良かったわ。これ、アンタに返そうと
持ってきてたんだよ」
そう言いながらオリオンが懐から出してきたのは
あの日、あの戦場で落としたと思われる青いリボンだった
「うちの女アサシンが「ちゃんと持ち主に返しなさい」って
言うもんだから」
「やっぱりあの場に落としていたみたいで……ご親切にどうも。
それにしても……外で客と酒盛りとは当主様にしては珍しい」
「まぁ半分成り行きでもあるが。それより俺に何か用事が
あったのではないのか」
「栄山様の事ですよ。御前側の動きが少し気になりまして……」
「何かおたくら距離近くないか?」
「……オリオンよ。今、俺達は主である栄山様の事について
話をしている。すまないが静かにしていてくれ」
「はいはい。分かりましたよっと」
当主様、と敬意を払った呼び方とフランクに話しかける
そのギャップにオリオンは少し戸惑っていた
そう言えばあの戦闘の際、二人は息がぴったりだった。
そんな考えを考えていた時、オリオンは鈴蘭から言われた
一言を思い出す
『ちゃんと持ち主に返しなさい。それにしても、わざわざ
戦場から持ち帰るなんて……そのリボンの持ち主が好きなの?』
「(あん時は敵同士だったし、それはあり得な……ん?)」
「今度、モーリーに顔を出すと良い。幼馴染が来れば智也も
きっと喜ぶ」
「ははっ、おやつにおからしか出ずに二人で落ち込んでいた
あの頃が懐かしいですよ」
「(……鵺の大将の目、何か俺と話してる時と違うよなぁ)」
流石トップアサシン。僅かな違いをすぐに見抜いた
……と言いたい所だけれど、若葉を見つめる鵺兄の目は
まさしく愛おしい者を見つめるそれだった
「御仁……いえ、オリオンと呼んでも?」
「へっ?あぁ、構わねぇよ」
「先程から当主様の顔を見つめているがいかがされました?」
「見てねぇよ。いや、見てたには見てたけどよ……
あ、そうだ。アンタも一緒に飲まねぇか?」
「せっかくのお誘いですがこの後、この子達の手入れを
しなくてはいけませんので」
日本刀が収められた鞘を一撫ですると若葉は用事が
済んだのか足早にその場を去ろうとする
「なぁ」
しかしオリオンは名残惜しそうに引き止めてしまった
若葉がその場を去ろうとしたのは、楽しく飲んでいる
二人の邪魔をするのは気が引けるからだったからであり、
オリオン本人が引き留めたのだからその足は簡単に立ち止まる
「明日も鵺達に剣の指導をするのだろう?手入れが済んだら
ゆっくり休むと良い」
「は?アンタ、何言ってんだ?俺は」
「では話の続きはまた今度ですね」
「あ、あぁ……そう、だな」
そして再び二人きりになった時、オリオンの恨み節は
全開になる
「アンタ……やってくれたな」
「俺が見逃すと思ったか。あの時からお前の目の色には
恋心が滲み出ていた」
「マジ?」
「あの子は中沢琴の生まれ変わりだと信じる鵺もいる」
「確か自分より強い男としか……って、それがなんだってんだよ」
「あの子を振り向かせるのは至難の業だぞ」
「……それは中沢琴の例え話じゃなくてアンタの経験から
そう言っているんだろ?」
この時、鵺兄は一瞬だけ顔を曇らせた
「図星かよ」
「……酒も無くなった。今日はここで終わりだ」
「そうだな。また今度飲もうぜ?」
「機会があればな」
「んな寂しい事言うなっての」
「はーあ、それにしても厄介な男だ」
エルペタス本部に戻るその道中、オリオンは鵺兄の
優れた観察眼をボヤいていた
__では話の続きはまた今度ですね
「……いやいや、待て待て。と言う事はあの子と
二人きりになるチャンスがあるって事じゃねぇか」
その為には鵺兄の目をかい潜る必要がある。誰が聞いても
顔を顰めるで難題にも関わらず、オリオンは何故か不敵な
笑みを浮かべていた
「俺を甘く見たらどうなるか分かってんだろ?鵺の大将よぉ」
ちょっとやそっとの事で折れたりしない。それが
オリオンがエルペタスで随一のタフさを持っていると
言われる所以なのだ