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この日、エルペタス本部に意外な来客が訪れていた
「我が一族に伝わる秘伝の薬を届けに来た」
「わざわざ鵺の里から薬を届けずとも貴様がオリオンにつけた
傷は我がエルペタスの医療班が完璧に治す」
「世良蓮二郎。お前と話をしに来た訳ではない。
オリオンは何処だ」
「何故教えなければならんのだ」
「鈴蘭、あれ何」
「貴女って本当にモテるのね。織香」
遠目で不毛なやり取りを覗いていたオリオンこと織香は
鈴蘭にこっそり話をかける
「鵺一族の頭領、ウチのトップランカーの世良。
どっちと恋人になっても悪くないじゃない」
「ないない。それに世良とは腐れ縁なだけだって」
事の発端は少し前、鵺一族の頭領である鵺兄と
織香が激突した時にまで遡る
歴代の鵺一族の中でも圧倒的な強さを誇る鵺兄が
エルペタスの……それも女アサシンと激突。戦線離脱を
余儀なくされる程の重傷を互いに負う事になったものの、
増援が来たおかげで結局、その勝敗はつかなかった
その後、織香が可愛がっている彩綾を傷付けたのが
鵺兄の主導ではなかった事が判明し、一応は和解したが……
「こう言う仕事なんだから傷一つ付いたからって
どうって事はないでしょ。変な所で細かいなぁ頭領は」
「貴女のそういう所にも興味を持ったんじゃないかしら?」
その間にも鵺兄と世良の言い争いは激しさを増すばかり
「はぁ……面倒くさい。鈴蘭、ちょっと行ってくるわ」
「織香?今、貴女が行っても余計に」
「いい加減、オリオンの居場所を教えたらどうだ」
「貴様といちいち顔を合わせる程、オリオンは暇じゃない」
「さっきから何を揉めてるのよ。お二人さん」
「「!」」
話の渦中にいた人物……織香が現れた事で二人の
言い争いは一瞬だけ止まる
「お忙しい当主様がわざわざここに来たって事は何か
用事でもあるんじゃないの?」
「オリオン。君に会いに来た」
「ならば用事は済んだろう。さっさと帰るといい」
「世良、あんたいい加減にしなさいよ」
「そもそも原因はお前にあるのだぞ。オリオンよ」
「はぁ?」
思わぬ飛び火だ。しかしここで何故か世良のその言葉に
鵺兄が深く頷く
「トップアサシンである君が鈍すぎる故にこの男が
哀れになっている事に何故気が付かぬのだ」
「何よそれ」
「それは貴様にも言える事だ」
「……今度はお前が居ない時に来る。これではオリオンと
まともに話す事すらままならぬ」
すると鵺兄は持っていた薬を織香に手渡すと何事も
なかったかのようにその場を後にしようとする
「鵺一族の当主よ。俺は認めんぞ」
「オリオンの気持ちを無視するつもりなのか」
「貴様が俺からオリオンを掠め取るなど断じてあり得ん。
その事をゆめゆめ忘れるな」
「それを決めるのは我でもお前でもない」
「オリオンだけは誰にも渡さん」
「………」
世良の一言が聞こえているのか、それとも聞こえて
いないのか。何も反応を見せる事なく、鵺兄はエルペタス
本部を今度こそ後にした
「男って本当につまらない事で喧嘩しちゃうのね」
物陰から様子を伺っていた鈴蘭はそう言いながら
織香と世良に近付く
「鈴蘭?まだ隠れてたの?」
「盗み聞きとは悪趣味だぞ」
「こんな所で口喧嘩してたのは誰かしら。ねぇ織香」
「何よ?」
「鵺一族の当主と世良、どっちがタイプ?」
鈴蘭のその好奇心にまみれた質問に世良は
酷く動揺を見せる。しかし質問をされた織香の答えと
反応はあまりにも残酷だった
「いや、さっきも言ったけどさぁ?本当にそういうのじゃ
ないんだって。特に世良は昔からの付き合いだから
仲間っていうか、家族っていうか……逆に異性として
意識する瞬間が全くなかったし」
「……それは本気で言ってるのか」
「お互いそうでしょ」
「ならばどのような男ならお前は異性として意識するのだ」
「確かにそれは私も気になるわね」
「鈴蘭まで乗っかって来ないでよ」
とは言え、織香も色恋に全く関心がない訳ではない。
無かったとしたらそれは女アサシンとして致命的だからだ
しかしここで真面目に答えるのも面倒だ。さて、二人を
納得させる為になんと答えようか……
「見た目は?どう言う人がタイプなの」
「男らしい見た目っていうか……眉毛がしっかりしてる人?」
「性格はどうなのだ」
「面白い人」
「……他に何かあるか」
「タフネスで丈夫な体を持ってるとかかなぁ。
銃で何発撃たれても死なないような」
「「………」」
その既視感のある特徴に世良と鈴蘭は思わず互いの
顔を見合わせる
「確か貴方の同期に居た筈よね」
「鈴蘭、タイプはあくまで理想でしかない。だから
あの男の事が好きだと決まった訳ではないぞ」
「二人して何をコソコソ話してるのよ」
「認めん。断じて認めんぞ」
少し落ち込んだ様子の世良はふらふらとした
足取りで何処かへと消えた
「いやー、何とか切り抜けた」
「全く切り抜けてないわよ。寧ろ火に油を
注いだんじゃない?」
「え?」
「よりによって同期の特徴を言うなんて」
「同期?」
「さっきの特徴、まるまる当てはまってたじゃないの」
「あの条件に当てはまる同期、私にいないと思うけど」
「織香……貴女ってば」
「えぇ?何で呆れてるのよ」
恋敵というのは目の前にいる男だけとは限らないのだ
「くしゃみも鼻水も止まりま……へっぶし!!」
「何や。風邪でも引いたんか」
「別嬪さんが俺の噂でもしとるんちゃいますかね」
「お前が別嬪さんにモテるとこなんか想像出来へんけどな」
「陣内の兄貴。辛辣過ぎますて」