日常編
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それは深夜。阿久津が小峠を連れてここ最近、
空龍街で危険運転をする暴走族の尻尾を捕まえる
為に調査に訪れていた時の事だ
「あ、阿久津のカシラ……これは一体」
「何があったんだ」
メンバーと思しき男達がバイクと共に道路へ
倒れ込んでいた
まさか激しい喧嘩でもあったのかと考えるも組へ
その報告は来ていない。だとすれば……
「私に追いつけない癖に何が暴走族のリーダーよ!」
「このアマ!ぶっ潰してやる!」
彼方からそんな物騒にも程がある会話が
聞こえてきた。驚く事にうち一人は女性の声だ
「阿久津のカシラ……まさかとは思いますが」
「あぁ」
今、まさに暴走族のリーダーと体を張っている
その女性こそ、この惨状を引き起こした張本人だ
とは言え、本当に一人でこれだけの人数を
相手にしたとはにわかに信じがたい
「(それにしても運転上手いな)」
「阿久津のカシラ?」
リーダーは女性を振り切ろうと乱暴な運転を
試みるも引き離す事が出来ずにいる
すると突然、女性は急速にスピードを上げて
リーダーの横へ張り付いた次の瞬間。その長い足は
リーダーとバイクへ伸ばされ……
「私より運転が下手な奴が道路を占領しないでよ」
「ぐぁぁっ!?」
強烈な蹴りをまともに受けたリーダーは激しく
転倒。傍らに女性はバイクを停めると、その
フルフェイスヘルメットを脱いだ
「……本当に夜風が気持ちいい」
ひらひらと風に揺らめく髪から覗くその
端正な顔立ちに阿久津は目を奪われた
カシラ!と呼び止める小峠の静止が耳に届いて
おらず、阿久津なまるで吸い寄せられるように
一歩、また一歩と近付いていく
「さっきからジロジロと……何の用ですか?」
その瞳は月明かりに照らされてオレンジ
……そして赤と不思議な色を反射させた
明らかに嫌悪感を滲ませるその表情が目に
入らないのか阿久津はそのまま肩を掴み、
衝撃的な言葉を口にする
「天羽組に来ないか?」
「………はぁ?」
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「まさか第一声が天羽組に入らないか?って……
驚きましたよ本当に」
あれから数年。阿久津とその女性は空龍街の
居酒屋で仲睦まじげに酒を飲んでいた
「若葉。あの時は驚かせてすまなかったな」
「ああいう出会い方も悪くないですよね」
あの時の女性……もとい飛鳥若葉は阿久津の顔を
覗き込む
「後悔してませんか?」
「する訳無いだろう。逆に若葉はウチに
入った事を後悔していないのか」
「する訳がないじゃないですか」
__まぁいいですよ
あっさりとした返事だった。小峠はその様子を
見てすぐに辞めるだろうと思っていたと後に語る
しかしその予想は見事に外れた。他の構成員にも
負けない意地と根性を見せ、今では欠かす事の
出来ない立派な天羽組員へ成長した
「カシラ。もう少し飲んでいいですか?
わざわざ相棒を置いてきたんですから
とことん飲みたいです」
「好きなだけ飲め」
相棒とはちなみにバイクの事だ。その大切な相棒を
置いてまで自分との飲み会を選んだ事に阿久津は
若干の優越感に浸っていた
「(しかしバイク相手に張り合うなんて俺も
大人気ねぇなぁ)」
そもそも張り合うものでもない。だが若葉が
関わるのなら話は別だ
こうしてサシ飲みをする為に仕事のスケジュールを
調整して、事務作業も全て終わらせ……現金な男だと
自分のことながらつくづく思う
「阿久津のカシラ。どっちが先に潰れるか
勝負しませんか?」
「馬鹿野郎。そこまで酒に強くない癖に勝負なんか
仕掛けるもんじゃないぞ」
「阿久津のカシラが酔った所が見たいんですもん」
「………」
そんな事、軽く言うもんじゃない
……なんて窘める事が出来ない辺り、満更でも
ないのだと自覚してしまう
「俺はそう簡単にやられないぞ」
今の阿久津に出来るのは男としての
プライドを保つ為にそう強がる事だった
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翌日。妙に様子がおかしい阿久津を心配した
天羽は執務室へ呼び出していた
「阿久津。昨日、若葉と飲んだらしいな」
「はい……」
「何かあったのか?」
「実は……」
__阿久津のカシラぁ
__馬鹿野郎。だからもう止めとけって言っただろう
__私は足がないんれすからおんぶして家まで送って
くだしゃい
__今からタクシー呼ぶから待ってろ
__おんぶがいいです、おーんーぶー
「……という事がありまして。若葉の家に
送り届けるまでずっとおぶってたんです」
「それで疲れてそんな顔をしていたのか」
「?いえ、疲れてはいませんが……」
「じゃあ何故そんな顔をしている?」
__阿久津のカシラの背中、広いなぁ……
__お、おい。そんな頬を寄せるなよ
__温かい……
「つまり若葉に甘えられたその余韻に未だに
浸っていたという事か」
「っ、笑わないで下さいよ」
何か問題が起きた訳ではない事にとりあえず
一安心だ
天羽は余程、おかしかったのか若干腹を
抱えるような仕草をしながら笑っていた
「お前みたいな真面目で堅物そのものの男が
年下の女性に翻弄されているんだ。おかしいに
決まっているだろう」
「話がそれだけなら失礼します!」
少し大きな音を立てて扉を閉めて執務室から
出てきた阿久津は周りをよく見ていなかったせいで
誰かとぶつかってしまった
「すまない……って、若葉!?」
「だ、大丈夫ですか?カシラ……」
なんとその相手は若葉だった。咄嗟に
支えた為に転ばずに済んだものの、昨夜の事を
連想させるその距離の近さに阿久津は少しだけ
顔が赤くなる
「親っさんに何か用事でもあったか?」
「いえ、阿久津のカシラに……」
「俺に?」
執務室に呼び出された阿久津を心配して
ここまで来てしまったとの事
まさかその原因が若葉であると言えず、
気まずそうに目線を逸らすとその端正な顔立ちが
心配そうにこちらを見つめ始める
「いつでも相談に乗りますから」
「あ、あぁ……ありがとう」
もう一度言うがその原因は若葉だ
自分の身を案じてくれる優しさに感動すると
同時に中々、複雑な心境になる
「また飲みに行きましょうね」
「あぁ……」
天羽組のカシラ、阿久津敏郎は今日も妹分に
振り回されるのだった