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「お呼び立てしてすみません」
「香坂さん。話って一体何でしょうか」
裏神の動きを探るべく、若葉は末端構成員として
下部組織への潜入を組から命じられていた
そこで少しずつ実績を積み上げ、成果に
目を付けた香坂は幹部候補として裏神本部へ
引き抜いた訳だが……
「ダヴィッツ抹殺の命令は既に聞いたとは思いますが
伊織さんはこの件に関して動かないで下さい」
「仰っている意味が分かりません」
「貴方は成長が著しい。ですが現時点でダヴィッツに
勝てる程の実力はありません」
「お言葉を返すようですがそんな事を
言っていられる場合では無い筈ですよ」
「適材適所という言葉があります。敵は彼だけでは
ありません。貴方には別の案件を任せたい」
……おかしい。どことなく違和感を感じる
「伊織さん程、魅力的な人材を失うのは
我々にとって大きな損失となるでしょう」
人当たり良い笑みが一層、深くなる。香坂は
若葉の髪留めに手を伸ばす
「何をしているんですか」
「こうして髪を下ろすとまるで女性のようだ」
もしかして自分は今、試されているのだろうか?
いや、そんなミスはしていない筈。それに
これくらいの事で狼狽えてはいけない
「私は伊織さんが男性でも女性でも構いません」
「はい?」
香坂はしなやかな髪を指に巻きつけた
「男性であれは私の右腕として傍に置いて……」
「!」
しかしその指はすぐに離れ、今度は手を握った。
若葉の細い指はあっという間に絡め取られる
「女性あればこの体に私を刻み込んで
ずっと愛でたい」
「冗談は止めて下さい」
「今、言った通り私はどちらでも構わないので
貴方次第ですよ」
冗談でも何でもなく本気だと言いたいのだろうか?
いずれにしてもこの状況はあまり好ましくない
「そろそろ仕事に戻ってもよろしいでしょうか。
僕には幹部に成り上がるという目的があるんです」
「向上心があるのはとてもいい事です。
期待していますよ」
背を向けた時、背後から心臓を掴まれるような
一言を投げかけられる
「本当にどこまでも魅力的な人だ。
一体、何人の男を虜にしてきたのでしょうね」
「虜になるのが男性だけだと思ったら
大間違いですよ」
男装ヒットマンとしてのプライドを含ませた
笑みを香坂に向け、今度こそ本部を後にした
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「なるほど。香坂ちゃんも男なんだな」
「お前さっきから何を訳わからん事言うてるんや!
さっさと離れんかい!!」
「鳳崎さん!下手に動いたら伊織が
やられますって!」
潜入捜査を続けていたある日、最悪の事態が
起きてしまった
裏神の身辺調査中に偶然、鳳崎と深瀬に遭遇。
売人の粛清に動向する事になったのだが……そこで
ダヴィッツと鳳崎が激突
「彼……いや、彼女と言うべきかな」
二人が激しい戦闘を繰り広げている最中、
突如その矛先が若葉へと向けられた
致命傷にこそならなかったものの、
戦闘不能にするには十分すぎて……
「見ての通り立派なレディだ」
ダヴィッツは自身の足元でグッタリとしている
若葉の体を強引に起こす
無惨にも切り裂かれたシャツ。ボロボロに
なったサラシは隠しておかなければならない
膨らみを露わにしている
「まさかとは思うが君達はこの子がスパイだと
見抜けなかったのかい?」
「(このままだとやられる……どうすれば……)」
その時、若葉はある事に気が付く
「(優先すべき……)」
裏神本部はマッドカルテルからの刺客を
迎え撃つ事を優先している
京獅子連合とすぐに事を構える気はない。
ならばこの場で鳳崎と深瀬が取る行動と言えば
自分への粛清ではなく、ダヴィッツ殺害だ
__!!
「!」
「何や!?」
「鳳崎さん大丈夫ですか!?」
突如、その場に閃光が走る。靴に忍ばせていた
仕掛けが上手く作動したようだ
ダヴィッツの力が一瞬だけ緩んだ隙に若葉は
窓へ走る
「待たんかい伊織!」
鳳崎の咆哮に答える事無く、そのまま
飛び降りて闇夜に姿を消すのだった
「(組に連絡を入れて迎えに来てもらわないと……)」
建物からだいぶ離れた所で若葉は壁に
背を預けながら座り込んでいた
これ以上、動くのは危険すぎる。スマホに
手を伸ばしたその時……
「京極組の若葉……何があったんだ」
「どうして、ここに」
その場に現れたのは獅子王組の伊武だった
「この辺りで裏神とマッドカルテルの情報を
探っていたんだがまさかこんな所で会うとは
思わなかったねぇ」
「すみません……しくじりました」
すると自身のコートを若葉にかけると
そのまま抱えて歩き始める
「服……汚れますよ」
「その格好はちょっと刺激が強すぎるねぇ」
「……」
その意味が分かった若葉はそれ以降、何も
喋ろうとしなかった
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「本当に迷惑をかけてすみませんでした」
「京極組と獅子王組は同盟関係にある。
当然の事をしたまでだねぇ」
数日後。お見舞いに来た伊武に若葉は
潜入先で得た情報を説明していた
「裏神は俺達とすぐに事を構えるつもりはなく、
あくまで今はマッドカルテル本部から送られた
刺客の抹殺を優先するという事か」
「すみません。これくらいしか情報を
引き出せませんでした」
「………」
「伊武さん?」
「他に何か言われなかったか」
「何かって……あ」
両組は情報を共有している。当然、若葉が
香坂の目に止まり幹部候補として本部へ招かれた事も
聞いていた
「言ってみるといいねぇ」
「その、もしかしたら私が男装しているって
バレていたかもしれないんです」
「何?」
__私は伊織さんが男性でも女性でも構いません
男性であれば右腕として、女性であれば
この身体に自分を刻み込みたい……
女であるかもしれないという考えが最初にあった
時点で正体がバレていたと考えるのが自然だろう
「(でもどうして……?いつバレたの)」
「若葉。何かされたのか」
「まだ何もされてません」
「まだ?」
「あ、いや、言葉の綾です!特に深い意味は」
「気になるねぇ。何されたのか詳しく
教えてもらおうかねぇ」
「う……」
「つまり迫られたって事か」
「迫られたって、そんな」
「明らかにバレてるねぇ」
伊武の圧に負けた若葉は全てを白状した
流石に指を絡め取られた事までは説明しなかった
……というより出来ない
「女を見る目だけはあるなんて気に入らないねぇ」
「え?」
「気にするな。それより潜入捜査ご苦労だった」
「あ、ありがとうございます……」
すると伊武はふと、ある事を尋ねる
「傷痕は治りそうか?」
「残る事を覚悟していた方がいいとは言われました」
闇医者からすれば、致命傷にこそならなかった
ものの、たった数日で意識を取り戻したのが奇跡と
言わざるを得ない程に傷は深かったらしい
「だとしても俺が貰ってやるから
安心するといいねぇ」
「い、意味が分かりません……」
「こういう事だねぇ」
「ひゃっ!?」
額に触れる暖かくて柔らかい感触。突然の行動に
驚きの声を上げる事すら忘れてしまった
「まさか奴にこんな事はされてないだろうねぇ」
嫉妬が滲み出てる笑みを前に指を絡め取られた事を
内緒にしたのは正解だったのだろうか……と若葉は
思うのだった
「京極組の若葉……」
一方、その頃。裏神本部にて香坂は憂いを
帯びた表情を浮かべながら思考を巡らせていた
「何も言わずに消えるなんてあまりにも
寂しいじゃないですか」
男装こそバレたものの、その目的を悟られる事なく
欺き続けた事は称賛に値する。香坂はそのような事に
関しては素直に認めていた
「私はまだこの指に残る温もりを
忘れられないと言うのに」
__女性あればこの体に私を刻み込んでずっと愛でたい
それは紛れもない香坂の本心だ。だが、それ程までに
夢中になった若葉はもういない
「若葉は私だけのもの。京極組にも獅子王組にも
……ダヴィッツ、貴方にも渡しません」
組織の意向を探る大きな目的こそ達成したものの、
その代償はあまりにも大きい
「貴方の為に特別な席を用意しましょう。
楽しみにしていて下さいね」
辰巳とタンタンが部屋に入る頃には裏神のトップ
香坂慎太郎の顔がそこにあるのだった