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「考え事なんてえらい余裕があるんやな」
絶え間なく重ねらた唇がようやく離れると
若葉は気まずそうに俯く
「久しぶりに会えたっちゅうのに冷たすぎるやろ」
「……っ」
その無骨な手が頬に添えられると強引に上を
向かせられた
怒っているような、それでいて何処か
寂しげな表情を浮かべている顔がこちらを
静かに睨んでいた事に気がつく
「何か言いたい事でもあるんか?それなら
ハッキリ言えや」
どうやら自分の迷いも全てお見通しだったようだ
「……もう、会えない」
「それだけじゃ分からへん」
「終わりにしたい、です」
どことなくそんな気はしていた。前は比較的に
連絡もすぐ返ってきていたのに最近は既読無視も
多くなっていて……
それでも松尾は若葉を責めたりはしなかった。
そんな事をさせているのは自分達の関係性に原因が
あると分かっていたからだ
「俺がカタギと違うって始めから
分かっとった事やろ?」
「それは」
「五条組の人間やからかあかんのか」
裏社会に生きる人間だという事は何となく
知っていた
……五条組の武闘派だったというのは予想外
だったけれど、若葉が後ろめたさを感じるのには
もう一つ、理由がある
「あぁそれとも」
いつもと寸分狂わぬ動作で若葉はベッドに
押し倒された
しかし違うのは両腕を押さえつけるその手に
込められた力があまりにも強すぎるという事
「自分が天王寺組の妹分やからか」
「!!」
武闘派でもない自分がその存在を
知られているとは思えない
事が大きくなる前に関係を終わらせれば……
そんな考えはあまりにも浅はかだった
「始めから知っとったで」
「嘘……」
「ほんまや」
松尾はずっと気付かぬフリをし続けていた。
たった一瞬でもそんな素振りを見せれば
離れていくと分かっていたからだ
「俺、良かったやろ?」
「何言って」
「若葉が望む優しいお兄さんをずっと
演じていたんやからな」
それもこれも全て若葉を手放したく
なかったから。その為なら自分を偽る事も
苦ではなかった
だけどそれも全て終わり。もう優しいお兄さんは
何処にもいない
「逃さへん。若葉は俺だけの女や」
再び重ねられた唇に優しさなど残っていなかった
自由を奪われた腕は苦しいと訴える事すら出来ずに
ただそれを受け入れるしかない
「離して下さ……っ、んんっ」
「ん、聞こえへんな。なーんも聞こえへん」
自分を拒絶する言葉なんか聞きたくもないと
言わんばかりに松尾はその口を塞いだ
「可哀想になぁ。こんな悪いお兄さんに
捕まってもうて」
「……」
「いつもみたいに蔵之介さんって
呼んでくれへんのか。呼んでみぃや。ほら」
「……っ」
若葉の天王寺組の構成員としてのプライドが
それを拒む
「呼べ言うてるやろ」
「……嫌」
「今更、組に義理立てでもするつもりか?
もう遅いんやって」
もう遅い。その言葉は果たして若葉に
向けられているのだろうか
始めから正体を知りながらその手を取った
自分の方こそ……
「本気で好きやから受け入れたんや」
若葉だったから本気になった
「組も何も関係あらへん。俺は、若葉が」
「止めて下さい!」
その瞬間、若葉は声を荒らげた
「そんな言葉、聞きたくない」
「……もうええ。期待するだけ無駄やった」
それならばいっその事……
「お前の天王寺組の妹分としてのプライドも
何もかもを奪ったる」
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カーテンから薄く差し込む光で松尾は目を覚ました
「若葉……」
無意識に伸ばされた手はすっかり冷たくなった
シーツを掴んだ
昨夜はこの腕の中に確かにいた温もりが
もうどこにも見当たらない事にどうしようもない程
虚しさを覚えた松尾はその体をゆっくりと起こす
「女々しいわ。ほんまに」
期待するだけ無駄。そう強がってもいざ一人に
なると自分を選んでくれる瞬間が訪れるのではと
願っていた事に気が付いた
__♫
「カシラ。どないしました」
シャツを羽織ったタイミングでスマホに
着信が入る。相手は佐久間だった
「えらい事になりそうですねぇ。ほな急いで
組に行きますわ……今?ホテルです」
敢えて居場所を口にすれば何かを察した佐久間は
はよ顔出しいとだけ告げて電話を切る
「若葉。俺やなくて組を選んだその度胸に
免じて今は自由にしといたる」
先程の佐久間からの電話……それは天王寺組と
シノギに関する事だった
どうやら自分達の意識に関係なく巡り合う
運命だったらしい
「どうせ俺からは逃げられへん」
因縁の組との不穏な空気の中に歪な縁を見いだした
松尾の笑みは何処までも深かった