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「将ちゃん。何で怒ってるの」
悲しげな表情を浮かべる若葉に罪悪感を
刺激されるが、この時ばかりはいつものように
振る舞う事がどうしても出来なかった
「自分で考えて下さい」
「将ちゃん……」
「(あぁもう……何だってんだよ!)」
「んだよ騒がしいな……おい虎徹。何なんだ?
この騒ぎはよ」
事の発端は今日の昼頃だ。シノギの回収を終えて
事務所に戻るとやけに組内がざわついていて、
たまたま近くにいた久我にその事を尋ねると……
「何か海瀬の兄貴の知り合いが応接室に
いるみたいで……」
「俺の知り合い?来客の予定はねぇぞ?」
「しかも物凄い美人で……って、兄貴!?」
美人、と聞いた瞬間だった。何か思い当たる節が
あったのか全力で応接室へと走り……
「何で連絡も無しに来るんですか!若葉さん!」
「あ、将ちゃん!」
「海瀬、ノックくらいしろ。それにその言い方は
ないんじゃないのか」
ノックも無しに扉を開けた将悟に五十嵐が
そう窘めるもそれを気にしている余裕はない
「将ちゃんのお弁当にタコさんウィンナー
入れ忘れて」
「んな事でいちいち来なくていい!」
「でも昨日、入ってたら嬉しいって……」
「もう黙れ!」
一方的にキレる将悟の様子を見て疑問符を
浮かべる久我の後ろから高砂がそっと現れ……
「あの子はね。将ちゃんの奥様よ」
「……え?」
何かの間違いでは、と思わず言いたくなった
「(いや、だって釣り合ってなさ過ぎるだろ!?)」
少々……いや、かなりガサツな部類に入る
兄貴分と温厚そのものな若葉は端からそう
思われても仕方がない事なのかもしれない
「……え?ちょっと待って下さい」
久我はここで重大な事実に気が付く
「海瀬の兄貴って結婚してたんですか!?」
それなりに付き合いがあるにも関わらず、
結婚していたという事実をこの瞬間まで
知らなかったようだ
「結婚指輪もしてませんし独身だと思ってましたよ」
「カチコミの時に返り血が付くのが嫌だからって
いつも胸ポケットに入れて持ち歩いているの」
「そうだったんですか……」
久我と高砂がそんな会話をしている最中でも
若葉と将悟のちょっとした揉め事は続いていた
「ちなみに彼女の方が将ちゃんより歳上よ」
「(嘘だろ!?)」
敬語を使っていなかったら間違いなく若葉の方が
年下に見られるだろう
「おい虎徹!何をジロジロ見てるんだよ!」
「いや見てるのは俺だけじゃないですよ。兄貴」
「将ちゃん!そんな言い方したら可哀想でしょ!」
果たして本当に夫婦なのか信じがたいこの光景が
いつまでも頭から離れず……
この日、京極組は若葉の話題で持ちきりで
名前が出る度に将悟が飛んできて舎弟を締める
といういたちごっこが続くのだった
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「黙って来ちゃったのは……あの、ごめんなさい」
将悟が何故これ程不機嫌なのか。若葉は
連絡もなしに訪れた事を謝った
しかし怒りの原因はそれでも、おかずの事でもない
「俺が怒ってるのはそういう事じゃねぇよ」
「……将ちゃん」
「さっきから、将ちゃん将ちゃんうるせ」
怒りの言葉の続きを紡ぐ事は出来なかった
「ん、将ちゃ……っ」
「っ!?」
若葉が自分の唇で塞いだ事で将悟は驚くも
それを受け入れていた
少しの間、軽いリップ音が続いたが程なくして
開放されると少し潤んだ瞳がこちらを見つめて
いた事に気が付く
「許して。お願い」
「……」
この際、自分がどうしてこんなに怒っているのか
もはやどうでもいい
いつもは自分が少し強引に迫ってようやく出来る
キスを若葉が自らしたのだから
__……ッ
「え、将ちゃん?ねぇ」
「うるせえ」
突然、ソファーに倒された若葉の視界には
天井と顔を赤く染めた将悟が映っていた
「若葉さんには本当に敵わねぇな……」
「どうしたの?」
「もう何も分からなくていい。そのままでいろよ」
この鈍感とも天然とも言える若葉の性格は
恐らく直ることはない
そう思った瞬間、キツく当たっていた事が
馬鹿馬鹿しくなってしまった
「その気にさせた責任は取ってもらいますけどね」
「え……晩ごはんは?冷めちゃうよ」
「温めなおして食えばいいだろ。先に若葉さんを」
「やだ、お風呂入ってない」
「んな細かい事言うなっての」
「駄目!ご飯とお風呂は先に済ませなさい!」
キッと眉を吊り上げ、スルリと腕の中から
抜け出した若葉は用意してたバスタオルを
強引に押し付ける
「将ちゃん。返事は?」
「……はいはい、分かった分かった。入って来りゃ
良いんだろ?」
結局、将悟が食らったのは若葉ではなく
お預けだった
「(明日、絶対に冷やかされるよな……)」
せっかく隠していた大切な若葉の存在を思わぬ
形で見られる事となった将悟の心労は計り知れない
そして仲直り出来たと思っている若葉は安心した
様子でお風呂から上がってくる夫の為に食事の支度を
着々と進めるのだった
「いいか?若葉さんの事を思い浮かべたら
ぶん殴るからな」
「海瀬の兄貴。それはちょっと理不尽なのでは……」
「虎徹ぅ……まずはお前からだ」
「いやいや!ちょっと待って下さいよ!」
金砕棒を構えるその姿はまさしく鬼そのものだった