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香月の女嫌いは天羽組内では周知の事実だ
だからこそ妹分である自分も決して例外では
ないのだと若葉は考えていた
「香月の兄貴!書類、持ってきました」
「そこ置いておけ」
今日はたったの一度も目線を合わせてくれない
淡々と指示を出す背中を見ていつもの事だと
自分に言い聞かせた若葉は静かに部屋を後にする
「ったく。何でヘラヘラしながらツーショット
なんか撮ってんだよ……」
背後から不機嫌そうな声が聞こえてくるも、
再び話しかける勇気なんか若葉にはなかった
「私が潜入捜査に……?」
そんなある日。兄貴分の小峠から呼び出された
若葉はまさかの命令を受けていた
「ウチのシマで悪事を働いている連中の動向を
探りたい」
ここ最近、空龍街で若い女性を狙った悪質な
詐欺行為が多発していた
親しくなった男性からの金銭要求に始まり、
払えないとなった途端に夜の店へ……中には
天羽組に守代を納めている店の従業員もその
被害に遭ったという報告が上がっている
女である自分にこの話が来るという事は
つまりそういう事だ
「ハニトラ……ですか」
「香月の兄貴も多忙だ。こういう事が出来る
人間が多いに越したことはない」
そもそも何故、このタイミングで若葉に
こんな話が来たのかと言うと……
『小峠の兄貴。この前、若葉とツーショット
撮ったんですけどヤバくないですか?』
『ヤバいなんてもんじゃねぇ……香月の兄貴と
肩を並べるレベルだぞ』
「お前が自分に自信が無いのは知っている。
だがそのポテンシャルを生かさないのは
勿体ないと思うぞ」
あの日、速水が小峠に見せたのはプライベートで
若葉と水族館に行った時の写真だ
普段は動きやすさ重視の服を好むがこの時は白を
基調としたシャツに淡いピンクのフレアスカートと
普段とまるで違う姿に小峠はかつて野田が香月に
女装ヒットマンの素質を見出した時のような直感が
走ったらしい
「本当なら香月の兄貴に指導してもらってからと
思っていたんだがな」
生憎と香月は別件で潜入捜査中であるが
経験を積むチャンスを逃す訳にいかない
不安はありつつ、若葉はやりますと力強く
返事をする
「(成功したら少しは香月の兄貴も
認めてくれるかな……)」
こうして若葉の初めてのハニトラが
決行される事になるのだった
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伍代から得た情報によると空龍街で悪事を
働くその連中はかつて天羽組によって解体された
愚連隊の残党で、悪事の証拠を掴むには自分が
妹分である事を悟られないのが重要だ
「(慣れないなぁ)」
いつもはナチュラルメイクだが今日は連中の
目を惹く為に所謂、大人を意識したメイクを
施している
「(……この雰囲気、なんか変。本当にバーなの?)」
店自体は普通のバーであるものの、周囲の人間の
目つきや飛び交う隠語混じりの注文に若葉は
早々に違和感を覚えていた
武闘派ではないとはいえ、天羽組にいるだけ
あって自然とその辺りの観察眼自体は鍛えられて
いたようだ
「もしかしてこういう所は初めてなのかな」
カウンターで飲んでいるフリをしていた
若葉の元に一人の男が近づく
「(間違いない……この人だ)」
見た目はまさしく好青年。しかし彼の淀んだ
瞳が本命のターゲットである事を物語っている
「初めてです」
「だと思ったよ」
ここまでは順調。こんなに早くターゲットと
接触出来るとは思ってもいなかった若葉は
何とか自分を落ち着かせて本題を切り出す
「でもこういう少し怪しい雰囲気の方が好きです」
「実は僕はここのオーナーでね。気に入って
もらえて嬉しいよ」
「(なる程。そういう事)」
この店でターゲットを吟味している事は明白だ
「彼女にホワイトルシアンを出して上げて。
僕が払うから」
所謂、レディーキラーと呼ばれるカクテルを
飲ませるのがこの男の手法なのだろう。そして
酔わせた後にホテルへと連れていき、既成事実を
作る……
被害を訴えた女性達の証言と何もかもが
一致していた
「では素敵な出会いに乾杯」
「……乾杯」
若葉がカクテルグラスを傾けたその瞬間……
__カラン、カラン……
店の扉の鐘が来客者を知らせる。その音に
吸い寄せられるように若葉は振り向いた
「若葉。こんな所で会うなんて偶然ね」
「な、何で此処に……」
「何でって、貴女に会いたかったからよ」
艶やかなドレス姿、まさしく夜を舞う美しき蝶。
その人物を若葉はよく知っていた
「(か、香月の兄貴……!?)」
「うぉ……今日は美人がよく来る日だな」
「なぁ。あの女もやっちまうか?」
自分に向けられる下卑た視線を受け流して香月は
男の隣に座る
「私の可愛い後輩に優しくしてくれてありがとう」
「美人に優しくするのは男の努めだよ」
香月が少し微笑むと男は気を良くしたのか再び
ホワイトルシアンを注文する
「じゃあ私からはイートホットデスを
プレゼントしちゃう」
「中々刺激的だね。ありがとう」
程なくして香月にホワイトルシアン、そして男に
イートホットデスのそれぞれが差し出された
「ふふっ……」
香月が意味深に笑うと男も釣られて笑い出す
「どうしたんだい?」
「女を口説くのに何で同じ酒を頼むんだよ。
二番煎じなんて一番ダセェだろうが」
「……へ?どうし」
__カチャッ
「お前、誰の女を口説いてると思ってんだ」
隠し持っていたチャカを男の額に押し付け、
その狂人オーラを真っ向から浴びせると香月は……
「え、え?何?どういう」
「バイバイ。最後までダサかったわね」
その妖艶な声と共に二発の弾丸を男に放つ。
しかし撃ち抜いたのは額ではなく両足だった
激痛にのたうち回る男を尻目に銃口は次の
ターゲットへと向けられる
「可愛い後輩との女子会を邪魔する奴は死ね」
一人、また一人と香月の閃光のような早打ちの
餌食になっていく。客、もとい愚連隊の残党は
リーダーを残して殲滅
気が付けば残っていたのはバーテンダーだけと
なっていた
「コイツらから随分と金をもらってたみたい
じゃねぇか」
愚連隊から多額の報酬を受け取る代わりに
ターゲットの女性を選別する為の場所として店を
提供していたらしい
「な、何なんだお前達は!」
「空龍街で汚ぇ商売するってのに何にも
知らないのか?俺達は天羽組だよ」
「あ、天羽組だと!?」
「取りあえずカタギを嵌める酒を作る両腕は
要らないよな」
リーダーの男を撃ち抜いた時のように
バーテンダーの男の両腕を撃ち抜いた
「あっ!逃げられないように足も撃たないと」
その声色に反してやっている事は中々にエグい
男を手玉に取る女の顔をしたかと思えば
天羽組武闘派の顔を見せ……一番混乱しているのは
若葉だ
「あの、香月の兄貴」
「話ならアイツらが来た後に聞いてやる」
「アイツら……?」
__カラン、カラン
「遅ぇよ。お前ら」
「「も、申し訳ございません!」」
「(え、小峠の兄貴と速水君……)」
現れたのは小峠と速水の二人だった。両者ともに
額から汗をかいているが、おそらく冷や汗だろう
店に入るや頭を下げる二人に対し、香月は淡々と
先程の粛清劇の一部を語る
「愚連隊の残党共はリーダーを残して殲滅、グルに
なってたバーテンダーも確保している。後始末は
しっかりやっとけよ」
「「はい!」」
「あ……私も」
「若葉はこっちだ」
香月は無遠慮に若葉の腕を掴み、バーを
後にする
兄貴分と同期を置いてはおけないと訴えても
全く聞き入れて貰えず……ただその後ろをついて
行くしかなかった
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「香月の兄貴。どこに行くんですか?」
「若葉」
所謂、そういう建物が並ぶ路地に入ると香月は
その妖艶な声色で名前を呼ぶ。たまらず心臓が
跳ね上がる若葉の腕に自身の腕を絡めると
耳元でそっと囁く
「私が本当のハニトラを教えて上げる」
「……えっ」
「さっきあの男共に言ったでしょ?可愛い後輩との
女子会を邪魔しないでって」
確かに言ってはいたけれど……まさかそういう
意味とでも言うのか。香月の足はネオンで美しく
彩られた建物へと向かう
勿論、腕を取られている若葉も一緒だ
「せっかくだからいい部屋取りましょうよ」
「待って、香月の兄貴……っ」
「逃げちゃ駄目」
絶世の美女に変装していてもやはり武闘派兄貴だ。
力で敵う筈がない
「お姉さんがいい事たくさん教えてあげる。
覚悟しなさい」
その妖艶な声色と一言が若葉に向けられた
最後の優しさなのだった