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「や、やーい!伊武の兄貴の怖い顔!変な顔!」
「お前ちょっとこっち来るといいねぇ」
血管が浮き出るほど鉄棒を強く握りしめ、伊武は
走り出した
「人の顔を見るなり悪口なんて羨ましくないねぇぇぇ!」
「きゃーっ!」
この鬼ごっこはそんな事がキッカケで始まったのだった……
若葉は元々、花宝町で一人彷徨っている所を
来栖に声をかけられてそのまま黒澤派へとついた
だからシノギ重視という黒澤派の思想を若葉は
完全には受け継いでおらず、肩身の狭い思いをする事も
よくあった
_新入りか。頑張るといいねぇ
_あ、はい!頑張ります
_いい返事だねぇ。黒澤派には勿体ないねぇ
_勿体ない?
この時は眉済派と黒澤派の仲が険悪という事を
理解していなかったし、普通に伊武や同い年の阿蒜と
よく話もしたし、ご飯に行ったりもしていた
……この内部抗争が本格的に勃発するまでは
「お前も往生際が悪いねぇ」
「ひぇ……っ」
路地裏の壁に追い込まれた若葉は気の毒な程に
震えている。呆気なく捕まってしまったようだ
「へ、変な顔……柳楽の兄貴程じゃないけど怖い顔……」
「失礼にも程があるねぇ」
「じ、じゃあ……面白い顔」
「意味は同じだねぇ」
すると壁に触れていた手が若葉の頬へと
添えられる
「伊武の兄貴……?」
「若葉。眉済派に来る気はあるか?」
「えーと、その予定は……ありません」
「そうか」
どうせ締められるのだから今更どっちにつくかとか
そういう問題ではない。そんな思いからか、その返事は
少し投げやりになっていた
勿論、伊武自身も断られるのは百も承知で聞いた為に
それで何かしてやろうとは思っていないようだ
「どうして黒澤派なんだろうねぇ」
「あ、あの……」
「まぁそれはそれとして……お前をただ帰す訳には
いかないねぇ」
段々と近付いてくる顔、こんな間近で見るのは
初めてだった
「伊武の兄貴……っ!?」
額に触れる柔らかい感触。何をされたのか
理解した瞬間、若葉の顔はみるみる赤くなっていく
「次そんな事言ったらここを塞ぐから
覚悟するといいねぇ」
「にゃに、するんでふかっ!」
親指でグイグイと唇を押しつぶされ、上手く
話せない若葉に思わず笑みが溢れる
「俺は執念深いから気をつけるんだねぇ」
するとあっさりと若葉から離れた伊武は
振り返ることなく路地裏を後にした……
「遅かったな。何かトラブルでもあったのか?」
黒澤派の拠点に戻って来た若葉の挙動が
おかしい事にすぐに気が付いた。そしてそう切り出すと
若葉は震えながら必死に説明しようとする
「く、来栖の兄貴……私は伊武の兄貴の怒りを
買ってしまったみたいです」
「はぁ?」
「こ、殺しのターゲットになったかもです」
「何でそうなるんだよ」
これは完全に憶測だが、恐らく眉済派も自分達と
同じく殺しのターゲットは武闘派兄貴分と限定している。
勿論、時と場合によっては違ってくるだろうが……
それなのに何故、ターゲットになってしまったと
思い込んでいるのか。来栖は理解が出来なかった
「一矢報いろうと……伊武の兄貴を挑発しまして」
「頑張ったじゃん。それで?」
「俺は執念深いから覚悟しろと言われました……」
「で、その挑発って何を言ったの」
「怖い顔とか、変な顔と言ってやりました」
「………」
断言しよう。その程度で殺しの標的になる事は
絶対にあり得ない
何なら挑発とも言いにくい、何とも低レベルな
語彙力に来栖はもはや呆れるしかなかった
「取り敢えず若葉はこの抗争中は事務仕事に
専念してていいよ」
「すみません……」
敵どころか味方さえも調子を狂わせてしまう
若葉を招き入れた判断は本当に正しかったのか……
自分の事なのに来栖は分からなくなるのだった
「若葉。仕事終わったらどこか食べに行くか」
「行きませんっ!」
「即答だねぇ(こりゃあ相当警戒されてるねぇ……)」
内部抗争終結後も暫くの間、伊武を警戒する
若葉さんでした