曇天
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「壁外調査?」
「あら、ここで働いてるのにあやかちゃん知らないの?」
「本当に何も知らないわね貴女」
芋の皮を手早く剥きながら、口も動かす私達は相当器用だと思う。
すっかり仲が良くなったブレナとマリーネさんは私が何か聞く度にいつも世間知らずだと呆れられる。
「貴女、調査兵団は何をする所だと思ってたの?」
「えー…と、調査するところ」
「この子、バカなの?」
「知識が偏ってるわよね、残念」
残念とか言わないでほしい…
「…じゃあ今ご教授お願い致しますよ!!」
「言葉すら上手く喋れなくなったか」
「調査兵団はね、壁外を調査するのが仕事なのよ」
「壁外…」
「つまりは、壁外に出て巨人と戦い、人類に有益な情報を得る、調査することが仕事ね」
「でも毎回ほぼ成果無しなのに、帰ってこない兵士が多くてね…噂では3割りほどは命を落とすそうよ」
「3割りって…なにか、なにか他の方法で調査出来ないんですか!?」
あまりに多い数字に驚く上、それでも実行し続ける事に疑問を覚える。
そして、今までファンタジーのように思っていた可愛らしいイメージの巨人が、いかに恐ろしいものか少し想像がついた。
「私達に言われてもね。新しく入った子達から亡くなるから、堪えるのよ…」
「マリーネさんは娘さんそれくらいの歳だものね。でも、この前エルヴィン団長が新しい作戦を思い付いたらしく今までより被害を押さえられるかもとか話してたわね」
「ということは、次の壁外調査はその作戦のテストだと…」
「そうなるわね」
まさか、リヴァイ達はその壁外調査に行くなんて言わないわよね…?
そんな死にに行くみたいな…というか、ここの人達どうして、何の為にそこまでして…
「あやかちゃん手止まってるわよ」
「……あ、ごめんなさい」
上の空で仕事を続け、部屋に戻るとイザベルが浮かない顔で待っていた。
「そんな顔しちゃって、可愛い顔が台無しよ?」
魔法瓶に入れてきたお湯で紅茶を作り彼女に渡す。
「俺、書類を盗んでここを出て行くって分かってるんだ…ここは足掛かりだって…ちゃんと分かってる。でも、俺、ここにいる奴等の邪魔したくねぇんだよ!だってあいつらは命張って外に出ようとしてる。俺達と一緒じゃんかよ。」
私と違って他の兵士と近い距離で関わってる彼女は、きっと兵士の信念や志しを垣間見る瞬間が多いのだろう。
「イザベルは凄いね。」
「…なにがだよ」
「自分の事で手いっぱいで、他人の立場になって考えることが出来ない人も沢山いると思うの。
でも、イザベルはしょうがないことだと線を引かずにちゃんと自分の心で、頭で考えてる。」
「…そんなこと、兄貴やファーランだってしてる」
「そうね。きっとそう。だから私は皆の事大好きなのよ。
私はそういう柔らかい心を持ったイザベルの事大好きよ。どちらか選ぶ時には苦しくなるだろうけれど、そしたら苦しいって叫んでほしいな。助けにはなれないかもしれないけど、隣にはいられるから。」
泣いている彼女の頭を撫でれば、抱きつかれる。
やっぱり皆行っちゃうのね壁外へ。
「ね、イザベル。お守りあげよっか」
引き出しからネックレスを取り出す。
「これ、あやかが向こうの世界から持ってきたやつだろ!貰えねぇよ」
「やだなぁ、あげないよ?」
「…え!?」
イザベルの首に前からネックレスをつけ、そのまま抱き締める。
「貸してあげるのよ。色々決着がついたら返してちょうだいね。」
「…ああ…ああ!絶対返すよ!」
彼女は、私の胸に頭をグリグリと押し付けてきてお互いに笑った。
ショールを羽織りイザベルを表まで見送り部屋に戻れば、扉の前に浮かない顔のファーランが居て笑ってしまった。
似た者同士ね。
ファーランを部屋の中で待たせ、食堂でお湯を沸かし魔法瓶に入れる。
お茶会第2弾の始まりね。明日休みで良かった。
部屋に戻ればファーランが申し訳なさそうにベッドに腰をかけていた。
ノンカフェインの紅茶を淹れ、彼に渡す。
「悪いな」
「ううん、私もちょうど飲みたかったから。」
「ごめんな、こんな遅くに」
「ふふっ、謝ってばっかりね。大丈夫よ。明日お休みもらえたし。」
暫く無言が続く。
何か言いづらそうにこちらをチラチラ見ている。
「…ファーラン…一緒に寝る?」
「えっ!?…ねね寝る?い、いいいや!…いやいやいや!…なに言ってんだよ…!」
「冗談だよ。不安そうにしてるからさ」
彼の強張った頬に触れるとビクリと肩を震わせた。
「大丈夫?」
「…俺がこれから言うことで…幻滅しないでくれるか?」
「どんな事を言われても幻滅なんてしない。もし違う考えを私が持っていたとしたら話し合うだけよ。」
膝の上で赤くなるほど両手を握りしめ、それを見つめる彼は小さく「こわいんだ」と呟いた。
「うん。」
「俺の計画では壁外に行く前には書類を手に入れて、地上の居住権を手にしてる予定だった。
だけど、壁外調査は目前だ。俺達は行かなきゃいけない。新兵は5割しか生き残らないらしい…こんなはずじゃなかったんだ…」
「5割…酷い数字…」
2分の1。3人が揃って無事に帰ってくる確率は、とても低い…
「俺はこわいんだ、壁外に行くのが。こわいんだ。」
涙声で震えるファーランの身体を横から抱き締める。
果たしてこの状況で、怖くない人なんているのだろうか。見たこともない化け物がうじゃうじゃいる所に、沢山の人が戦死するという所に赴くのに、怖くない人なんているのだろうか。
「怖いに決まってる。そんな所に皆を行かせたくないよ…。ずっと一緒にいたい。」
「でも、行かなきゃいけないんだ。地上で生きるために」
「……強いね。ファーランは」
「どこがだよ、こんなっ、女の前で震えて…」
「恐怖と見つめあって、足がすくんでも、逃げずに進んでる。これのどこが弱い人なの?私には凄く強い人に見えるよ。」
「…あやかっ!」
ファーランが私をきつく抱き締める。
「ごめんね、私も戦えたら皆の近くにいられるのに、守られてばっかりで…」
「いや、あやかちゃんはそのままで居てくれ。俺達の止まり木でいてくれ。そうすれば俺達の心は救われる。」
そんな風に私の事を想ってくれてたなんて…なんの力にもなれてないと思ったのに、ツンと鼻の奥が痛くなる。
「ファーラン。帰ってきてね。」
「…ああ。」
暫く私を抱き締めてから離れる彼は、私の顔を熱っぽく見つめてから頬にキスを落とす。
「…へ?ファーランこういうことするキャラだっけ…」
「ははっ!なんだよキャラって。他の奴等にもさせてんのか?」
「ま、まさか!ファーランとリヴァイとイザベルだけだよ!!」
「させてんのかよ…」
「ほ、頬にキスするのはアメリカでは普通なんだから!挨拶でチュッチュするのよ?」
ジェスチャーでやってみせる。
「アメリカってどこだよ。そんなキスばっかする所どうにかしてるぜ」
「アメリカ顔のくせになに言っちゃってんの」
「もう意味わかんないこと言わないでくれるかな」
いつものファーランの調子に戻り、そろそろ帰るわ邪魔したな。と言いベッドから立ち上がる。
またも、ショールを羽織り、ランタンを持って階段の下まで見送る。別れる際に抱き締められ頬に先程と同じようにキスをされる。
「もうっ!」と声を上げればケラケラと笑いながら、おやすみと言い、暗闇のなかにファーランが消えていく。
流石に眠くなってきたのか欠伸が出てくる。重くなった瞼をなんとか開けて、階段を登りきった所で誰かの足が見えビックリしてしまう。
ランタンを上げると誰か判別がつき更に驚く。
エルヴィンさんがいつもよりラフな格好と髪を下ろした状態で腕を組んで立っていたのだ。
「…お疲れさまです。失礼します。」
いち早く退散しようとしたのに、彼は口を開いた。
「君の部屋には随分来客がくるな。きっと楽しい話しをしているんだろうね。」
なんで知ってるのよ、この無表情が…
「ええ。家族ですから、不安に思えば顔が見たいと思うのが普通じゃありませんか?壁外調査とやらが近いみたいですし。」
「そうだな、変な勘繰りすまなかった。 君の部屋から帰る彼等は、部屋の前で待ってる時と違って、凄くスッキリとした顔をしているからね。どんな楽しい話しをしているか気になってしまって」
なにを言いたいんだこの人は…
というか全部見られてたみたいで物凄く怖いんですが…
「本当に下らない話しかしてないですよ。それより、もう遅いですからエルヴィンさんも早く寝てくださいね。お体に触りますから」
「ああ、そうだな。」
部屋に戻るエルヴィンが闇の中へ消えていく途中、伝えなくてはいけない事を思い出す。
「あ、あの!」
爪先がこちらに振り向く。
「どうした?」
「エルヴィンさんに、頼むのは違うかもしれないんですが……」
「言ってみろ」
「壁外で…3人をよろしくお願いします。あの3人は私の居場所なんです…」
都合の言い話だ。私達は彼から大切なものを奪おうとしているのに。
他の兵士だって誰かの大切な人で、誰かの居場所で、私達ばかり優遇されるはずないのに。だけれど、彼等だけでも戻ってきてほしい。
勝手だとは分かっている。それでも、私は必死に頭を下げる。
「…約束はしない。善処はしよう。」
「ありがとうございます…あの、おやすみなさい」
そう言い捨てて自分の部屋へ駆ける。
背後からは小さくおやすみと聞こえた気がした。
「あら、ここで働いてるのにあやかちゃん知らないの?」
「本当に何も知らないわね貴女」
芋の皮を手早く剥きながら、口も動かす私達は相当器用だと思う。
すっかり仲が良くなったブレナとマリーネさんは私が何か聞く度にいつも世間知らずだと呆れられる。
「貴女、調査兵団は何をする所だと思ってたの?」
「えー…と、調査するところ」
「この子、バカなの?」
「知識が偏ってるわよね、残念」
残念とか言わないでほしい…
「…じゃあ今ご教授お願い致しますよ!!」
「言葉すら上手く喋れなくなったか」
「調査兵団はね、壁外を調査するのが仕事なのよ」
「壁外…」
「つまりは、壁外に出て巨人と戦い、人類に有益な情報を得る、調査することが仕事ね」
「でも毎回ほぼ成果無しなのに、帰ってこない兵士が多くてね…噂では3割りほどは命を落とすそうよ」
「3割りって…なにか、なにか他の方法で調査出来ないんですか!?」
あまりに多い数字に驚く上、それでも実行し続ける事に疑問を覚える。
そして、今までファンタジーのように思っていた可愛らしいイメージの巨人が、いかに恐ろしいものか少し想像がついた。
「私達に言われてもね。新しく入った子達から亡くなるから、堪えるのよ…」
「マリーネさんは娘さんそれくらいの歳だものね。でも、この前エルヴィン団長が新しい作戦を思い付いたらしく今までより被害を押さえられるかもとか話してたわね」
「ということは、次の壁外調査はその作戦のテストだと…」
「そうなるわね」
まさか、リヴァイ達はその壁外調査に行くなんて言わないわよね…?
そんな死にに行くみたいな…というか、ここの人達どうして、何の為にそこまでして…
「あやかちゃん手止まってるわよ」
「……あ、ごめんなさい」
上の空で仕事を続け、部屋に戻るとイザベルが浮かない顔で待っていた。
「そんな顔しちゃって、可愛い顔が台無しよ?」
魔法瓶に入れてきたお湯で紅茶を作り彼女に渡す。
「俺、書類を盗んでここを出て行くって分かってるんだ…ここは足掛かりだって…ちゃんと分かってる。でも、俺、ここにいる奴等の邪魔したくねぇんだよ!だってあいつらは命張って外に出ようとしてる。俺達と一緒じゃんかよ。」
私と違って他の兵士と近い距離で関わってる彼女は、きっと兵士の信念や志しを垣間見る瞬間が多いのだろう。
「イザベルは凄いね。」
「…なにがだよ」
「自分の事で手いっぱいで、他人の立場になって考えることが出来ない人も沢山いると思うの。
でも、イザベルはしょうがないことだと線を引かずにちゃんと自分の心で、頭で考えてる。」
「…そんなこと、兄貴やファーランだってしてる」
「そうね。きっとそう。だから私は皆の事大好きなのよ。
私はそういう柔らかい心を持ったイザベルの事大好きよ。どちらか選ぶ時には苦しくなるだろうけれど、そしたら苦しいって叫んでほしいな。助けにはなれないかもしれないけど、隣にはいられるから。」
泣いている彼女の頭を撫でれば、抱きつかれる。
やっぱり皆行っちゃうのね壁外へ。
「ね、イザベル。お守りあげよっか」
引き出しからネックレスを取り出す。
「これ、あやかが向こうの世界から持ってきたやつだろ!貰えねぇよ」
「やだなぁ、あげないよ?」
「…え!?」
イザベルの首に前からネックレスをつけ、そのまま抱き締める。
「貸してあげるのよ。色々決着がついたら返してちょうだいね。」
「…ああ…ああ!絶対返すよ!」
彼女は、私の胸に頭をグリグリと押し付けてきてお互いに笑った。
ショールを羽織りイザベルを表まで見送り部屋に戻れば、扉の前に浮かない顔のファーランが居て笑ってしまった。
似た者同士ね。
ファーランを部屋の中で待たせ、食堂でお湯を沸かし魔法瓶に入れる。
お茶会第2弾の始まりね。明日休みで良かった。
部屋に戻ればファーランが申し訳なさそうにベッドに腰をかけていた。
ノンカフェインの紅茶を淹れ、彼に渡す。
「悪いな」
「ううん、私もちょうど飲みたかったから。」
「ごめんな、こんな遅くに」
「ふふっ、謝ってばっかりね。大丈夫よ。明日お休みもらえたし。」
暫く無言が続く。
何か言いづらそうにこちらをチラチラ見ている。
「…ファーラン…一緒に寝る?」
「えっ!?…ねね寝る?い、いいいや!…いやいやいや!…なに言ってんだよ…!」
「冗談だよ。不安そうにしてるからさ」
彼の強張った頬に触れるとビクリと肩を震わせた。
「大丈夫?」
「…俺がこれから言うことで…幻滅しないでくれるか?」
「どんな事を言われても幻滅なんてしない。もし違う考えを私が持っていたとしたら話し合うだけよ。」
膝の上で赤くなるほど両手を握りしめ、それを見つめる彼は小さく「こわいんだ」と呟いた。
「うん。」
「俺の計画では壁外に行く前には書類を手に入れて、地上の居住権を手にしてる予定だった。
だけど、壁外調査は目前だ。俺達は行かなきゃいけない。新兵は5割しか生き残らないらしい…こんなはずじゃなかったんだ…」
「5割…酷い数字…」
2分の1。3人が揃って無事に帰ってくる確率は、とても低い…
「俺はこわいんだ、壁外に行くのが。こわいんだ。」
涙声で震えるファーランの身体を横から抱き締める。
果たしてこの状況で、怖くない人なんているのだろうか。見たこともない化け物がうじゃうじゃいる所に、沢山の人が戦死するという所に赴くのに、怖くない人なんているのだろうか。
「怖いに決まってる。そんな所に皆を行かせたくないよ…。ずっと一緒にいたい。」
「でも、行かなきゃいけないんだ。地上で生きるために」
「……強いね。ファーランは」
「どこがだよ、こんなっ、女の前で震えて…」
「恐怖と見つめあって、足がすくんでも、逃げずに進んでる。これのどこが弱い人なの?私には凄く強い人に見えるよ。」
「…あやかっ!」
ファーランが私をきつく抱き締める。
「ごめんね、私も戦えたら皆の近くにいられるのに、守られてばっかりで…」
「いや、あやかちゃんはそのままで居てくれ。俺達の止まり木でいてくれ。そうすれば俺達の心は救われる。」
そんな風に私の事を想ってくれてたなんて…なんの力にもなれてないと思ったのに、ツンと鼻の奥が痛くなる。
「ファーラン。帰ってきてね。」
「…ああ。」
暫く私を抱き締めてから離れる彼は、私の顔を熱っぽく見つめてから頬にキスを落とす。
「…へ?ファーランこういうことするキャラだっけ…」
「ははっ!なんだよキャラって。他の奴等にもさせてんのか?」
「ま、まさか!ファーランとリヴァイとイザベルだけだよ!!」
「させてんのかよ…」
「ほ、頬にキスするのはアメリカでは普通なんだから!挨拶でチュッチュするのよ?」
ジェスチャーでやってみせる。
「アメリカってどこだよ。そんなキスばっかする所どうにかしてるぜ」
「アメリカ顔のくせになに言っちゃってんの」
「もう意味わかんないこと言わないでくれるかな」
いつものファーランの調子に戻り、そろそろ帰るわ邪魔したな。と言いベッドから立ち上がる。
またも、ショールを羽織り、ランタンを持って階段の下まで見送る。別れる際に抱き締められ頬に先程と同じようにキスをされる。
「もうっ!」と声を上げればケラケラと笑いながら、おやすみと言い、暗闇のなかにファーランが消えていく。
流石に眠くなってきたのか欠伸が出てくる。重くなった瞼をなんとか開けて、階段を登りきった所で誰かの足が見えビックリしてしまう。
ランタンを上げると誰か判別がつき更に驚く。
エルヴィンさんがいつもよりラフな格好と髪を下ろした状態で腕を組んで立っていたのだ。
「…お疲れさまです。失礼します。」
いち早く退散しようとしたのに、彼は口を開いた。
「君の部屋には随分来客がくるな。きっと楽しい話しをしているんだろうね。」
なんで知ってるのよ、この無表情が…
「ええ。家族ですから、不安に思えば顔が見たいと思うのが普通じゃありませんか?壁外調査とやらが近いみたいですし。」
「そうだな、変な勘繰りすまなかった。 君の部屋から帰る彼等は、部屋の前で待ってる時と違って、凄くスッキリとした顔をしているからね。どんな楽しい話しをしているか気になってしまって」
なにを言いたいんだこの人は…
というか全部見られてたみたいで物凄く怖いんですが…
「本当に下らない話しかしてないですよ。それより、もう遅いですからエルヴィンさんも早く寝てくださいね。お体に触りますから」
「ああ、そうだな。」
部屋に戻るエルヴィンが闇の中へ消えていく途中、伝えなくてはいけない事を思い出す。
「あ、あの!」
爪先がこちらに振り向く。
「どうした?」
「エルヴィンさんに、頼むのは違うかもしれないんですが……」
「言ってみろ」
「壁外で…3人をよろしくお願いします。あの3人は私の居場所なんです…」
都合の言い話だ。私達は彼から大切なものを奪おうとしているのに。
他の兵士だって誰かの大切な人で、誰かの居場所で、私達ばかり優遇されるはずないのに。だけれど、彼等だけでも戻ってきてほしい。
勝手だとは分かっている。それでも、私は必死に頭を下げる。
「…約束はしない。善処はしよう。」
「ありがとうございます…あの、おやすみなさい」
そう言い捨てて自分の部屋へ駆ける。
背後からは小さくおやすみと聞こえた気がした。