イザベルの立体起動装置特訓後、帰り道を３人で歩く。

「あはははは！あんなよたよたした立体起動見たことねぇよ！最後ずっと逆さまだったじゃねぇか！」
「うるせぇ！！今に見てろよ！ファーランなんてすぐ追い抜いてやるんだからな！　な、兄貴！俺素質あるだろ？」
「さぁな。だが、逆さに吊られて揺れる姿は傑作だったな」
「だろ？あはははは！」
「ファーランうるせぇ！指差すな！」
「お前も指差してるじゃねぇか！！」
ギャーギャーと騒ぐ二人を他所目に、地面に花模様の落書きをする濃い茶髪の小さな女の子を見て、既に顔も朧気にしか浮かばない女の事を思い出す。

もう10年以上経つのか。
黒髪に黒目、白い肌、柔らかい感触と、匂い
「だいすきよ」
と言う柔らかい声
思い出せるのはそれくらいだ。

あいつが本当に存在していたのかどうかすら危うい。
俺が餓死しかけた時や、心を闇に支配されそうになる度、急に目の前に現れる女は俺が作り出した幻想だったのかもしれないとすら思う反面、手元に残っている彼女が置いていった物が確かな現実感を生み出していた。

もし、本当にあいつがどこかで存在しているならば、変わり無く幸せに暮らしてることを願う。

「おい、埃落とせ」
自宅前まで来ても言い合いをしてる目の前の二人に声をかける。
「おう」
「わぁーってるって兄貴！」
体や靴裏の泥を落としてから、ファーランが自宅の扉を少し開けた所で不自然に扉が止まる。
「ん…何か詰まって…リヴァイ」
声を潜めて俺を呼び鋭い目付きになる。
家の中に誰かいるのか…
「チッ。イザベル下がれ」
2人を背に隠すようにドアの隙間から中を覗く。
人の気配は無く、変わった様子も特にないが、ドアを塞ぐように白い手首と黒い髪が散らばっていた。

蹴り開けると、ドアを塞いでいた物がゴロゴロと転がりいつかの柔らかい匂いが広がった。



「…女？」
「…あーこいつ死んでんなぁ」
なんで俺らの家の中に
とファーランとイザベルが女の髪を避け顔を見ている。
動かない胸、血色の無くなった肌
何度も見た死を遂げた肉塊

俺はそいつの顔を見て動けずにいた。
こいつは、こいつは…「…あやか…？」
呟いた瞬間、バチンと頭のなかで音がして記憶が甦る。

彼女の様子を見ていた二人を掻き分け、勢いよく抱き上げるとだらりと腕が垂れる。
「あやかっ！！くっそ、なんで！！！あやかっ！あやか目ぇ開けろ！！！！」
あの頃と同じ匂いがするのに、死を感じる体の冷たさに心が冷えていく。
「あやかっ…あやかっ！」
冷えた体を温めるようにあやかの体を擦る。

「…お、おい、リヴァイ…？」
「あ、兄貴、こいつもう死んで」
俺の肩を掴むイザベルの手を思い切り払う。
「っるせぇ！触るな！
あやかあやかっ、やっと…やっと、会えたのに死ぬんじゃねぇ！！！」
必死に抱き抱えると、ふと、首筋に風を感じた。
ハッと顔を離せば、あやかの唇からは微かに息が吐き出されていた。

息を…してる…？
そうだ…そうだ、そのまま戻ってこい。

胸に耳を当てるとゆっくりだが脈打つ音が聞こえる。
支えている体に体温が少しずつ戻る。
「…あやか」

しばらくすると何事も無かったような安らかな寝顔になり、頬を撫でると擽ったそうに首を竦めてさえみせた。
ああ…ああ「…生きてる。」

「うそだろ…」
「…生き返った？」
ファーランとイザベルが驚きの声を上げる。
それは生き返った見知らぬ女が原因の１つだが、リヴァイらしからぬ取り乱し方のほうが二人にとって衝撃的だった。