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今夜は眠らないと決めた。眠れないのではない。眠らない。ヘッドフォンからは軽快なロックミュージックが流れている。身体を冷やさないように毛布をかけ、液晶を眺めながらベッドに横になっている。月や星でも見に行きたい衝動に駆られるが、生憎窓の向こうからは雨音が鳴り響いている。濡れるのも悪かないかなぁ、なんて、沈みきった心はアーティスティックな羨望に焦がれている。そんなことをしたところで風邪を引くだけで、何者かになれるわけじゃない。
『哲次の雨男!』
『あぁ!? お前だろが雨女!』
『哲次といる時しか雨降りませーん』
元気な時な私があいつとデートしてる。哲次といる時しか雨が降らない、なんて。裏を返せば、私がずーっと彼の傍を望み続けたというだけの話だ。私と違い、ふらつくことも立ち止まることのない背中に、憧れて恋い焦がれて。触れてしまった、届いてしまった。その事実が喜びだけでなく悲しみも運ぶとは思いもしなかった。彼の隣に立つことが苦しい。
(今、なにしてるかな)
時刻は丑三つ時をとうに過ぎている。当然、こんな寒い夜はもう眠りについているだろう。でも、もしかしたら。気持ちを持て余した私は時計の針を見ない振りで、携帯のアドレス帳を開いた。タップすると、コールされる「荒船哲次」の文字。あぁ、どうせ眠らないのだからメールで吟味すればよかったものを。コールが終わっても、彼が出ることはなかった。安心して、液晶を閉じかけた時、鳴り響いたコール。愛しい人からの、折り返しの電話。
「…………もしもし」
「ん、ど……した」
遠慮がちに出れば、かすれた声で理由を問われる。それだけで、何故泣けてくるのだろうか。
「なんか、眠れなくて」
「俺は寝てる」
「知ってるけど」
「……なんだ、またなんか辛いのか」
「……哲次、好き」
「知ってっけど……あー、泣くなよ」
声を押し殺して涙していたが、呼吸の不自然さにバレてしまったようで。そこからは言葉には出来なくて。将来の不安とか、日々の不完全燃焼感とか、自分の存在のちっぽけさとか。いろんなものに押しつぶされて助けても言えない。
「うっ、ぐす、ひっく」
「大丈夫だ、なんも怖いことねーよ。ちゃんと電話出ただろ?」
「う、ん」
「離れもしないし見捨てもしないから。いつだって想ってるよ」
「う、ん」
順風満帆の彼の、足を取る影になりたくないのだ。けれど、こんな夜は引きずりこむように付き合わせてしまう。哲次の呼吸が聞こえるだけで、安心して涙は乾いていく。彼の笑顔が、見えた気がした。
「落ち着いたな?」
「うん」
「行かなくても平気か?」
「大丈夫」
「おう。じゃ、寝ろよ」
おやすみ、そう優しく囁かれて切れた。眠れそうもない。そもそも、眠らないことに決めたのだ。けれど、朝一番に彼を訪ねたいと思うから、そっと目を閉じた。きっと、お小言一つ頂戴するだけで受け入れてくれる。結局、優しさからも甘さからも逃げられずに、彼の元へ引き寄せられていく。
せめて、彼という太陽の光で生きる月になれたらと思う。
『哲次の雨男!』
『あぁ!? お前だろが雨女!』
『哲次といる時しか雨降りませーん』
元気な時な私があいつとデートしてる。哲次といる時しか雨が降らない、なんて。裏を返せば、私がずーっと彼の傍を望み続けたというだけの話だ。私と違い、ふらつくことも立ち止まることのない背中に、憧れて恋い焦がれて。触れてしまった、届いてしまった。その事実が喜びだけでなく悲しみも運ぶとは思いもしなかった。彼の隣に立つことが苦しい。
(今、なにしてるかな)
時刻は丑三つ時をとうに過ぎている。当然、こんな寒い夜はもう眠りについているだろう。でも、もしかしたら。気持ちを持て余した私は時計の針を見ない振りで、携帯のアドレス帳を開いた。タップすると、コールされる「荒船哲次」の文字。あぁ、どうせ眠らないのだからメールで吟味すればよかったものを。コールが終わっても、彼が出ることはなかった。安心して、液晶を閉じかけた時、鳴り響いたコール。愛しい人からの、折り返しの電話。
「…………もしもし」
「ん、ど……した」
遠慮がちに出れば、かすれた声で理由を問われる。それだけで、何故泣けてくるのだろうか。
「なんか、眠れなくて」
「俺は寝てる」
「知ってるけど」
「……なんだ、またなんか辛いのか」
「……哲次、好き」
「知ってっけど……あー、泣くなよ」
声を押し殺して涙していたが、呼吸の不自然さにバレてしまったようで。そこからは言葉には出来なくて。将来の不安とか、日々の不完全燃焼感とか、自分の存在のちっぽけさとか。いろんなものに押しつぶされて助けても言えない。
「うっ、ぐす、ひっく」
「大丈夫だ、なんも怖いことねーよ。ちゃんと電話出ただろ?」
「う、ん」
「離れもしないし見捨てもしないから。いつだって想ってるよ」
「う、ん」
順風満帆の彼の、足を取る影になりたくないのだ。けれど、こんな夜は引きずりこむように付き合わせてしまう。哲次の呼吸が聞こえるだけで、安心して涙は乾いていく。彼の笑顔が、見えた気がした。
「落ち着いたな?」
「うん」
「行かなくても平気か?」
「大丈夫」
「おう。じゃ、寝ろよ」
おやすみ、そう優しく囁かれて切れた。眠れそうもない。そもそも、眠らないことに決めたのだ。けれど、朝一番に彼を訪ねたいと思うから、そっと目を閉じた。きっと、お小言一つ頂戴するだけで受け入れてくれる。結局、優しさからも甘さからも逃げられずに、彼の元へ引き寄せられていく。
せめて、彼という太陽の光で生きる月になれたらと思う。