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ランク戦、夜の部。途中想定外の展開にはなったが、からくも勝利することが出来た。
「今日は上手いこといったな」
「運がよかったのもあるけどね」
クラウチと反省会も兼ねてそんな会話をして、帰る身支度を整えていく。カシオが熱心に今日の評価や今後の課題を訊いてきたので、とりあえず褒めておいた。
「さて、お疲れ様。ぼくはお先に失礼するよ」
「お疲れ様です」
「お疲れ様。」
隊室をでて、ぼくが歩みを進めるのは出口とは逆方向だった。ランク戦のブースを通り過ぎ、中央のオペレーター室を抜けて、とある個室に辿り着く。この時間ならもう部屋に戻っているはずだ。オペレーターのシフトも確認してきた。ぼくは呼吸を整えると、部屋の扉を2回、ノックした。すると、
「王子君ね? ちょっと待ってて」
中から声がして、ガチャリと鍵が開けられる。あきさんはもう化粧も落としてオフの状態だったけど、今日も美しかった。
「ごめん、明日早朝オペレーションなの。だから、今夜は一戦だけね?」
「はい、よろしくお願いします」
あきさんはチームに所属していないフリーのオペレーターだ。普段から沢村さんと一緒に全体のオペレートを任されている。部屋は住み込みでボーダーから与えられているもので、実質この部屋は彼女の家になる。無駄なものの少なく、白と黒を基調にしたシックな空間。彼女のオシャレでクールな美しさをよく表していると思う。
「さ、早速始めましょうか!」
あきさんの部屋にある少し脚の長い机に、チェス盤が広げられる。そう、彼女はボーダーでは随一のチェスの名手。ぼくはチェスにおいては彼女の弟子だ。向かいの席に座り、白の駒を手に取る。盤の上に並び終えると、
「さあ、どこからでもどうぞ?」
と挑戦的な眼差しを向けられる。ぞくり、と背中に歓喜にも似たなにかが走るのが分かった。
彼女の指は美しい。その指か巧みに駒を動かし、確実に僕の兵を奪っていく。
「今日のランク戦、見てたわ。運が良かったわね」
「やっぱりそう思いますか」
「そうね~。王子君は、計画もしっかりしてるし、着実で冷静。隙がない。でもね、」
にこり、と笑いながら彼女が僕のキングを倒した。
「だからこそ、怖くはないのよね。こちらからも行動が読めるもの」
「……精進します」
チェックメイト。勝負はあっさりと決まってしまった。今日は一戦だけ、の約束通り、ぼくは帰るために鞄を手に取った。ふふっ、とあきさんの笑い声が聞こえる。
「潔いのね。もう一戦、粘ってくれたっていいのに」
「いえ、そういう約束でしたから」
「律儀。嫌いじゃないわ、王子君のそういうとこ」
それはきっと、貴方だけが知っているぼくだ。そうは口に出さないけれど。
「じゃあ、またね。いつでもいらっしゃい。」
「はい、ありがとうございました。おやすみなさい」
一礼をして、部屋を出る。ふーっと長く息を吐き、緊張をほぐした。
「怖くはない、か」
それはチェスだけの話ではないんだろう。けれど、関係を壊すことが怖くて、ぼくは踏み込めずにいる。手に入れるなら、着実な方がいい。臆病なぼくは、玉砕を恐れている。
「怖いのは貴方の方だ、あきさん」
きっとあの人は、全て知った上で僕を招き入れているんだ。
「今日は上手いこといったな」
「運がよかったのもあるけどね」
クラウチと反省会も兼ねてそんな会話をして、帰る身支度を整えていく。カシオが熱心に今日の評価や今後の課題を訊いてきたので、とりあえず褒めておいた。
「さて、お疲れ様。ぼくはお先に失礼するよ」
「お疲れ様です」
「お疲れ様。」
隊室をでて、ぼくが歩みを進めるのは出口とは逆方向だった。ランク戦のブースを通り過ぎ、中央のオペレーター室を抜けて、とある個室に辿り着く。この時間ならもう部屋に戻っているはずだ。オペレーターのシフトも確認してきた。ぼくは呼吸を整えると、部屋の扉を2回、ノックした。すると、
「王子君ね? ちょっと待ってて」
中から声がして、ガチャリと鍵が開けられる。あきさんはもう化粧も落としてオフの状態だったけど、今日も美しかった。
「ごめん、明日早朝オペレーションなの。だから、今夜は一戦だけね?」
「はい、よろしくお願いします」
あきさんはチームに所属していないフリーのオペレーターだ。普段から沢村さんと一緒に全体のオペレートを任されている。部屋は住み込みでボーダーから与えられているもので、実質この部屋は彼女の家になる。無駄なものの少なく、白と黒を基調にしたシックな空間。彼女のオシャレでクールな美しさをよく表していると思う。
「さ、早速始めましょうか!」
あきさんの部屋にある少し脚の長い机に、チェス盤が広げられる。そう、彼女はボーダーでは随一のチェスの名手。ぼくはチェスにおいては彼女の弟子だ。向かいの席に座り、白の駒を手に取る。盤の上に並び終えると、
「さあ、どこからでもどうぞ?」
と挑戦的な眼差しを向けられる。ぞくり、と背中に歓喜にも似たなにかが走るのが分かった。
彼女の指は美しい。その指か巧みに駒を動かし、確実に僕の兵を奪っていく。
「今日のランク戦、見てたわ。運が良かったわね」
「やっぱりそう思いますか」
「そうね~。王子君は、計画もしっかりしてるし、着実で冷静。隙がない。でもね、」
にこり、と笑いながら彼女が僕のキングを倒した。
「だからこそ、怖くはないのよね。こちらからも行動が読めるもの」
「……精進します」
チェックメイト。勝負はあっさりと決まってしまった。今日は一戦だけ、の約束通り、ぼくは帰るために鞄を手に取った。ふふっ、とあきさんの笑い声が聞こえる。
「潔いのね。もう一戦、粘ってくれたっていいのに」
「いえ、そういう約束でしたから」
「律儀。嫌いじゃないわ、王子君のそういうとこ」
それはきっと、貴方だけが知っているぼくだ。そうは口に出さないけれど。
「じゃあ、またね。いつでもいらっしゃい。」
「はい、ありがとうございました。おやすみなさい」
一礼をして、部屋を出る。ふーっと長く息を吐き、緊張をほぐした。
「怖くはない、か」
それはチェスだけの話ではないんだろう。けれど、関係を壊すことが怖くて、ぼくは踏み込めずにいる。手に入れるなら、着実な方がいい。臆病なぼくは、玉砕を恐れている。
「怖いのは貴方の方だ、あきさん」
きっとあの人は、全て知った上で僕を招き入れているんだ。