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大人ってのは、いくつからを言うと思う? 俺は二十一になった今も、自分を大人だと思ったことはない。煙草だって吸うし、酒も多少嗜むが。大人って、どういう奴のことを言うんだ?
「あきさん、こんにちは」
「……染井」
俺を呼ぶ少女の声に、反射的に煙草の火を消す。筆記具とノート、参考書を抱えた彼女が、俺に頼むことは一つだ。
「また勉強、教えてもらってもいいですか」
「おう。俺でよければな」
染井の返事は待たずに、俺はいつもの休憩所を目指す。染井も黙って、俺の後ろをついて歩く。ボーダーの休憩所は、若い連中が多いこともあって騒がしい。けれど、ここ以外に彼女の勉強を見るのに適切な場所は思いつかない。隣り合わせに席に座り、染井が開く参考書を覗く。今回の科目は科学のようだ。
「この実験の結果の、理由が説明出来なくて」
「うん」
パッと見て、染井にしては簡単な問題を聞きに来たなと思う。染井が分からないはずはない、と俺は思うくらいの。前回もそうだったことには、気づきたくない。
「これは、こっちの実験の結果と照らし合わせて……」
俺の指が染井の参考書を滑る。それを静かに、熱心に染井は見つめた。眼鏡の下の賢く冷静な瞳に、俺は色気を感じていた。まだ俺の妹と変わらない年齢の彼女にだ。
「あきさんの教え方、本当に分かりやすくて助かります」
薄く、けれど確かに染井は笑った。その笑みにドクリと脈打つ器官の名前を出したくない。呼び方が早乙女さんからあきさんに変わった理由も、考えたくはない。考えたくはないのに、想像してしまうのだ。
「別に、大したもんじゃねぇよ」
「そんなことないです。分かりやすいです」
純粋に俺を慕ってくる彼女に、煙草を吸いたい気分になる。けど、女の子の前で吸うなんてわけにはいかねぇから、足を組み直して我慢した。
「今度、中間テストあるんですけど」
「確かそんな時期だな」
「首席だったら褒めていただけませんか?」
「…………どう」
ストイックな彼女が、報酬を求めるなんて珍しい。珍しいから、恐ろしかった。彼女らしい、なんて俺はきっと分かっちゃいないけど。染井らしくないことを言われるような気がして。
「そう、ですね。あきさんも私を名前で呼んでくれるとか」
「…………名前で、ね」
俺が踏み込みたくないラインだ。踏み込めずにいたラインだ。きっと賢いこの子は、そのことをよーく分かっている。
「考えとくわ。まぁ、染井なら大丈夫だろ」
「私だって頑張らなきゃ無理ですよ」
「頑張ってる奴に頑張れとは言えねぇ」
「……言って欲しいです、あきさんになら」
ちら、と染井と目を合わせた。ずるい女だと思う。五つも歳が離れてるとは思えねぇ。けれど、現実的に横たわるのは成人と未成年という深い溝だ。
「ま、頑張れよ」
俺は立ち上がり、去り際に軽く染井の頭を撫でた。無意識だった。染井も驚いたのが分かったが、気にしないフリで立ち去った。じわじわと侵食される心に、抗う術はないのだろうか。俺だってまだ子供で、大人な彼女と同じなんだと言えてしまえたらいいのにな。
「あきさん、こんにちは」
「……染井」
俺を呼ぶ少女の声に、反射的に煙草の火を消す。筆記具とノート、参考書を抱えた彼女が、俺に頼むことは一つだ。
「また勉強、教えてもらってもいいですか」
「おう。俺でよければな」
染井の返事は待たずに、俺はいつもの休憩所を目指す。染井も黙って、俺の後ろをついて歩く。ボーダーの休憩所は、若い連中が多いこともあって騒がしい。けれど、ここ以外に彼女の勉強を見るのに適切な場所は思いつかない。隣り合わせに席に座り、染井が開く参考書を覗く。今回の科目は科学のようだ。
「この実験の結果の、理由が説明出来なくて」
「うん」
パッと見て、染井にしては簡単な問題を聞きに来たなと思う。染井が分からないはずはない、と俺は思うくらいの。前回もそうだったことには、気づきたくない。
「これは、こっちの実験の結果と照らし合わせて……」
俺の指が染井の参考書を滑る。それを静かに、熱心に染井は見つめた。眼鏡の下の賢く冷静な瞳に、俺は色気を感じていた。まだ俺の妹と変わらない年齢の彼女にだ。
「あきさんの教え方、本当に分かりやすくて助かります」
薄く、けれど確かに染井は笑った。その笑みにドクリと脈打つ器官の名前を出したくない。呼び方が早乙女さんからあきさんに変わった理由も、考えたくはない。考えたくはないのに、想像してしまうのだ。
「別に、大したもんじゃねぇよ」
「そんなことないです。分かりやすいです」
純粋に俺を慕ってくる彼女に、煙草を吸いたい気分になる。けど、女の子の前で吸うなんてわけにはいかねぇから、足を組み直して我慢した。
「今度、中間テストあるんですけど」
「確かそんな時期だな」
「首席だったら褒めていただけませんか?」
「…………どう」
ストイックな彼女が、報酬を求めるなんて珍しい。珍しいから、恐ろしかった。彼女らしい、なんて俺はきっと分かっちゃいないけど。染井らしくないことを言われるような気がして。
「そう、ですね。あきさんも私を名前で呼んでくれるとか」
「…………名前で、ね」
俺が踏み込みたくないラインだ。踏み込めずにいたラインだ。きっと賢いこの子は、そのことをよーく分かっている。
「考えとくわ。まぁ、染井なら大丈夫だろ」
「私だって頑張らなきゃ無理ですよ」
「頑張ってる奴に頑張れとは言えねぇ」
「……言って欲しいです、あきさんになら」
ちら、と染井と目を合わせた。ずるい女だと思う。五つも歳が離れてるとは思えねぇ。けれど、現実的に横たわるのは成人と未成年という深い溝だ。
「ま、頑張れよ」
俺は立ち上がり、去り際に軽く染井の頭を撫でた。無意識だった。染井も驚いたのが分かったが、気にしないフリで立ち去った。じわじわと侵食される心に、抗う術はないのだろうか。俺だってまだ子供で、大人な彼女と同じなんだと言えてしまえたらいいのにな。