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「……またそんなとこにいたら、風邪をひきますよ。姉様」
城で一番高い場所、バルコニーでミラお姉様は城下の町並みを見るのがとても好き。風で短い髪がなびいて、黒い角が剥き出しになる。それを私は忌まわしく思った。姉様を蝕む、黒い角。
「あら、あき。お稽古はもういいの?」
「先程終わらせてきました。姉様、もうすぐ夕食のお時間ですよ、戻りましょう」
「そうね……そうよね」
姉様はきっと、家族の私にだけ見せる寂しい顔をした。多分私も同じような顔をしているだろう。
「あと何回、あきと食事を共に出来るのだろう」
「姉様、」
「姉さんね、珍しく悲しいなんてこと、思ってるのよ」
姉様はとても強い人だ。我が家の繁栄は姉様にかかっているほど。幼い頃、姉様が黒トリガーに選ばれてから、この家はずっと姉様が引っ張ってきた。ベルティストン家との婚約が決まったのは、ひとえに姉様が才能溢れる人だからだ。
『あきはなにも心配しなくていいのよ』
それが姉様の口癖だった。私が背負う分まで、姉様は抱え込んだ。そのおかげで私はこのアフトクラトルでなに一つ不自由なく暮らせている。いいご身分だ。
「今までね、私はあきがいるから頑張ってこれたの。けれど、貴方のいない生活を、私は遂行出来るのかしら」
「……弱気だなんて、姉様らしくないです。なにも問題ありませんよ」
「……悪あがきは好きじゃないのよ」
姉様は私を引き寄せ、ひしと抱きしめた。細い腕は微かに震えていた。
「けれど、逃げ出したくなるわ。貴方と2人で、慎ましく暮らす道もあるはずだもの」
「姉様がそうしたいなら、あきはついていきます」
「いい子ね。優しい子……でも、それももう無理ね」
姉様は私から離れ、儚げに髪を耳にかけた。そのまま闇に溶けていきそうで怖かった。姉様に手を伸ばせば、そっと手を取られる。
「私が全て受け入れれば、貴方はこちら側に来なくて済む。それが、私の1番の幸せよ」
「そんな、おかしいです。私は姉様になにもしてあげられないのですか?」
「今、この時に。あきと生きられて幸せ。それで充分」
引き止める強さも、送り出す強さも。私は持ち合わせない。ふわふわと、ミラお姉様の影を追うばかり。こんな日が来る前に、気がつけばよかったのに。姉様には、自由も時間も無くなっていっていることに。
「さあ、夕食にしましょう。残り少ない食卓、笑顔で囲んで頂戴?」
すすり泣く私の肩を抱いて、姉様は屋内に入った。この星の夜空は、明日もちゃんと明けるだろうか。このままずっと朝がこなければ、ずっとお姉様と一緒にいられるだろうか。叶いもしない、理想の話だ。
城で一番高い場所、バルコニーでミラお姉様は城下の町並みを見るのがとても好き。風で短い髪がなびいて、黒い角が剥き出しになる。それを私は忌まわしく思った。姉様を蝕む、黒い角。
「あら、あき。お稽古はもういいの?」
「先程終わらせてきました。姉様、もうすぐ夕食のお時間ですよ、戻りましょう」
「そうね……そうよね」
姉様はきっと、家族の私にだけ見せる寂しい顔をした。多分私も同じような顔をしているだろう。
「あと何回、あきと食事を共に出来るのだろう」
「姉様、」
「姉さんね、珍しく悲しいなんてこと、思ってるのよ」
姉様はとても強い人だ。我が家の繁栄は姉様にかかっているほど。幼い頃、姉様が黒トリガーに選ばれてから、この家はずっと姉様が引っ張ってきた。ベルティストン家との婚約が決まったのは、ひとえに姉様が才能溢れる人だからだ。
『あきはなにも心配しなくていいのよ』
それが姉様の口癖だった。私が背負う分まで、姉様は抱え込んだ。そのおかげで私はこのアフトクラトルでなに一つ不自由なく暮らせている。いいご身分だ。
「今までね、私はあきがいるから頑張ってこれたの。けれど、貴方のいない生活を、私は遂行出来るのかしら」
「……弱気だなんて、姉様らしくないです。なにも問題ありませんよ」
「……悪あがきは好きじゃないのよ」
姉様は私を引き寄せ、ひしと抱きしめた。細い腕は微かに震えていた。
「けれど、逃げ出したくなるわ。貴方と2人で、慎ましく暮らす道もあるはずだもの」
「姉様がそうしたいなら、あきはついていきます」
「いい子ね。優しい子……でも、それももう無理ね」
姉様は私から離れ、儚げに髪を耳にかけた。そのまま闇に溶けていきそうで怖かった。姉様に手を伸ばせば、そっと手を取られる。
「私が全て受け入れれば、貴方はこちら側に来なくて済む。それが、私の1番の幸せよ」
「そんな、おかしいです。私は姉様になにもしてあげられないのですか?」
「今、この時に。あきと生きられて幸せ。それで充分」
引き止める強さも、送り出す強さも。私は持ち合わせない。ふわふわと、ミラお姉様の影を追うばかり。こんな日が来る前に、気がつけばよかったのに。姉様には、自由も時間も無くなっていっていることに。
「さあ、夕食にしましょう。残り少ない食卓、笑顔で囲んで頂戴?」
すすり泣く私の肩を抱いて、姉様は屋内に入った。この星の夜空は、明日もちゃんと明けるだろうか。このままずっと朝がこなければ、ずっとお姉様と一緒にいられるだろうか。叶いもしない、理想の話だ。