longseries-2-
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ぼんやりと天井を眺める。朝がとうの昔に訪れているのは分かっているのだが、どうにも身体が重く起き上がることが出来ずにいた。それに、ベットの中は心地が良い。コロコロと寝返りを打ちながら、今日も学校へ行けなかったな、とどこか諦念して他人事のように思った。お腹は空かないが、朝も昼も食べていないから、そろそろなにか口にしなければならないだろう。それすら億劫だ。
「はぁーー」
とりあえず、夕方になる前に起きたい。なんとか身体を起こし、リビングへ移動する。冷凍庫に入っているパスタをレンジで温めて、それを昼食にすることにした。1人で食べる食事は味気ない。手早く食べ終えて、携帯をチェックした。特に連絡もない。つまらなくて、退屈に胸をぐずぐずと侵略される。気分が悪い、沈む。気分転換に、なにかしていたい。今日はボーダーの合同訓練の日ではない。……哲次、暇じゃないかな。すがる思いで、メールを打つ。
『今日、このあと暇?』
送信。思ったより早く、返信が来る。
『このあと防衛任務』
短い文章からは、忙しさが感じられる。みんな私と違って、忙しい。相手をしてくれる暇は、ない。時間は有限なはずなのに、私にとってはだだ余って、苦しみの元になる。今日は、どうやって過ごそう。またソファーの上で横になりながら、ぼんやりとしていた。不意に、また携帯が鳴る。鋼くんからメールが来ていた。
『大丈夫? もうすぐ学校終わるんだけど、出てこれそうなら遊ぶ?』
思ってもみない申し出に、ふわりと気分は持ち上がる。
『うん、遊びたい! どこで待ち合わせる?』
鋼くんの返事を待たずして、私は外出の準備を始めた。着替えて、髪を整えて、持ち物をチェックして。メールを確認すれば、16時頃に来てくれるらしい。あと1時間ちょっとか。それくらいなら、街中を歩いていれば潰せるかな。私は早めに家を出ることにした。
ぶらぶらと街を散策して、15分前に待ち合わせの公園に着いた。携帯をいじりながら、キョロキョロ落ち着きなく辺りを見回してしまう。学ラン姿の鋼くんを見つけて、軽く飛び跳ねながら手を振った。
「やほー、お疲れ様!」
「うん、お疲れ。……思ったより元気そうでよかった」
「鋼くんのおかげだよ、ありがとう!」
私はすっかり上機嫌で、鋼くんの隣を歩く。私は歩くのがわりと速いが、鋼くんが気を遣ってゆっくり歩くので、2人で歩くとだいぶスローペースになる。
「……そういえば、なんで私が具合悪いって分かったの?」
「えっそれは」
鋼くんが言い淀んで、困った顔をするので、不思議に思う。
「な、なんとなく。なんとなく、そんな気がしたんだ」
「へぇ……すごいね! 以心伝心みたい」
「はは。たまたまだよ、たまたま」
「まぁでも、私は鋼くんのこと分からないから、以心伝心ではないか。一方通行で知られてるの、なんて言うのかな」
私がうんうん頭を捻っていると、鋼くんが神妙な面持ちで
「荒船と珠莉の方が、以心伝心って感じするけど」
と言うので、目を丸くしてしまった。
「え〜? そう?」
「うん、そうだよ」
「私哲次のこと、よく分からないけどなぁ」
幼い頃から一緒にいるが、分かっているという感じはしない。私は哲次をよく頼るし、振り回している自覚は多少あるけど、哲次が私をどう思っているかは不透明なところがある。けれど、気にはならない。鋼くんと河川敷に向かいながら、会話を続ける。
「哲次の負担になってないか、たまに不安だよ」
「そんなふうには、思ってないんじゃないか?」
「そうかなぁ。そうだといいけど」
「…………珠莉は、荒船のことどう思ってるんだ?」
「どう?」
どう、と言われると。少し考えたが
「優しくて大好きな従兄弟」
と、素直に口にした。それ以上でも以下でもなかった。
「…………そっか」
「窓みたいな奴だなぁーと思う」
「窓?」
露店でドリンクを買うので、会話が中断した。私はチャイティーのホットを、鋼くんはカフェラテのホットを買った。手提げの紙袋は、鋼くんが持ってくれた。
「窓ってどういう意味?」
「ん? あぁ」
話を続ける。
「哲次は私と見てるものが違くってさ。私よりも優秀で、私よりも視野が広くて。私に、いろんな世界を見せてくれるから」
閉じこもりがちの私を、外の世界と繋ぎ止めてくれる人だと思う。
「なんか、窓みたいだなぁって思った」
「……なるほど」
「鋼くんは? 哲次のことどう思う?」
河川敷に到着した。適当な木の下に腰掛けて、夕陽を眺めながらさっき買った飲み物を飲む。車の走る音が遠くで聞こえて、山に帰る鳥の群れが空を横切っていく。穏やかな時間が流れている。
「カッコいいな、と思うよ」
「哲次が?」
「うん。俺もああなれたらいいな、と思う」
「えー」
鋼くんが哲次に憧れているとは思わなかったが、哲次みたいに振る舞う鋼くんは想像が出来なかった。
「鋼くんが哲次みたいになる必要、ないでしょ。それは嫌」
「嫌?」
「うん。鋼くんは鋼くんのままがいい」
鋼くんはそれを聞くと、少し遠くを眺めた。なにか考えているようだった。
「そうかー……」
「うん、そうだよ」
それから、しばらく言葉のない心地よい時間を過ごす。陽はほとんど川の向こう側に沈んだ。チャイティーは少し冷めて、底が見えてきた。
「…………お腹、空かないか?」
「んーそうでもない。お昼遅かったし……あ、でも鋼くんはお腹空いたよね」
「ん、まぁ」
「鋼くんって一人暮らしだよね。ちゃんと食べてる?」
「うん、それなり」
鋼くんは料理出来るのかな。だとしたら、私より女子力高そうだな。1人で食べるのは、寂しくないだろうか。
「なに食べるの?」
「カップ麺の日もあるし、簡単に料理する日もあるよ」
「へぇ、偉いなー」
私は1人だと、食事を摂ることも出来ない時がある。自立してるんだなぁ。
「食べてみたいなぁ、鋼くんが作るご飯」
「え」
「食べてみたい」
鋼くんの顔を窺えば、明らかに困った顔をしていた。変なこと言ったかな。
「…………じゃあ、来る? 俺の家」
「うん! 邪魔じゃなければ!」
嬉しくて笑えば、鋼くんもぎこちなく笑った。まだ、楽しい時間が続く。それが幸福で、私は身体を揺らした。
「はぁーー」
とりあえず、夕方になる前に起きたい。なんとか身体を起こし、リビングへ移動する。冷凍庫に入っているパスタをレンジで温めて、それを昼食にすることにした。1人で食べる食事は味気ない。手早く食べ終えて、携帯をチェックした。特に連絡もない。つまらなくて、退屈に胸をぐずぐずと侵略される。気分が悪い、沈む。気分転換に、なにかしていたい。今日はボーダーの合同訓練の日ではない。……哲次、暇じゃないかな。すがる思いで、メールを打つ。
『今日、このあと暇?』
送信。思ったより早く、返信が来る。
『このあと防衛任務』
短い文章からは、忙しさが感じられる。みんな私と違って、忙しい。相手をしてくれる暇は、ない。時間は有限なはずなのに、私にとってはだだ余って、苦しみの元になる。今日は、どうやって過ごそう。またソファーの上で横になりながら、ぼんやりとしていた。不意に、また携帯が鳴る。鋼くんからメールが来ていた。
『大丈夫? もうすぐ学校終わるんだけど、出てこれそうなら遊ぶ?』
思ってもみない申し出に、ふわりと気分は持ち上がる。
『うん、遊びたい! どこで待ち合わせる?』
鋼くんの返事を待たずして、私は外出の準備を始めた。着替えて、髪を整えて、持ち物をチェックして。メールを確認すれば、16時頃に来てくれるらしい。あと1時間ちょっとか。それくらいなら、街中を歩いていれば潰せるかな。私は早めに家を出ることにした。
ぶらぶらと街を散策して、15分前に待ち合わせの公園に着いた。携帯をいじりながら、キョロキョロ落ち着きなく辺りを見回してしまう。学ラン姿の鋼くんを見つけて、軽く飛び跳ねながら手を振った。
「やほー、お疲れ様!」
「うん、お疲れ。……思ったより元気そうでよかった」
「鋼くんのおかげだよ、ありがとう!」
私はすっかり上機嫌で、鋼くんの隣を歩く。私は歩くのがわりと速いが、鋼くんが気を遣ってゆっくり歩くので、2人で歩くとだいぶスローペースになる。
「……そういえば、なんで私が具合悪いって分かったの?」
「えっそれは」
鋼くんが言い淀んで、困った顔をするので、不思議に思う。
「な、なんとなく。なんとなく、そんな気がしたんだ」
「へぇ……すごいね! 以心伝心みたい」
「はは。たまたまだよ、たまたま」
「まぁでも、私は鋼くんのこと分からないから、以心伝心ではないか。一方通行で知られてるの、なんて言うのかな」
私がうんうん頭を捻っていると、鋼くんが神妙な面持ちで
「荒船と珠莉の方が、以心伝心って感じするけど」
と言うので、目を丸くしてしまった。
「え〜? そう?」
「うん、そうだよ」
「私哲次のこと、よく分からないけどなぁ」
幼い頃から一緒にいるが、分かっているという感じはしない。私は哲次をよく頼るし、振り回している自覚は多少あるけど、哲次が私をどう思っているかは不透明なところがある。けれど、気にはならない。鋼くんと河川敷に向かいながら、会話を続ける。
「哲次の負担になってないか、たまに不安だよ」
「そんなふうには、思ってないんじゃないか?」
「そうかなぁ。そうだといいけど」
「…………珠莉は、荒船のことどう思ってるんだ?」
「どう?」
どう、と言われると。少し考えたが
「優しくて大好きな従兄弟」
と、素直に口にした。それ以上でも以下でもなかった。
「…………そっか」
「窓みたいな奴だなぁーと思う」
「窓?」
露店でドリンクを買うので、会話が中断した。私はチャイティーのホットを、鋼くんはカフェラテのホットを買った。手提げの紙袋は、鋼くんが持ってくれた。
「窓ってどういう意味?」
「ん? あぁ」
話を続ける。
「哲次は私と見てるものが違くってさ。私よりも優秀で、私よりも視野が広くて。私に、いろんな世界を見せてくれるから」
閉じこもりがちの私を、外の世界と繋ぎ止めてくれる人だと思う。
「なんか、窓みたいだなぁって思った」
「……なるほど」
「鋼くんは? 哲次のことどう思う?」
河川敷に到着した。適当な木の下に腰掛けて、夕陽を眺めながらさっき買った飲み物を飲む。車の走る音が遠くで聞こえて、山に帰る鳥の群れが空を横切っていく。穏やかな時間が流れている。
「カッコいいな、と思うよ」
「哲次が?」
「うん。俺もああなれたらいいな、と思う」
「えー」
鋼くんが哲次に憧れているとは思わなかったが、哲次みたいに振る舞う鋼くんは想像が出来なかった。
「鋼くんが哲次みたいになる必要、ないでしょ。それは嫌」
「嫌?」
「うん。鋼くんは鋼くんのままがいい」
鋼くんはそれを聞くと、少し遠くを眺めた。なにか考えているようだった。
「そうかー……」
「うん、そうだよ」
それから、しばらく言葉のない心地よい時間を過ごす。陽はほとんど川の向こう側に沈んだ。チャイティーは少し冷めて、底が見えてきた。
「…………お腹、空かないか?」
「んーそうでもない。お昼遅かったし……あ、でも鋼くんはお腹空いたよね」
「ん、まぁ」
「鋼くんって一人暮らしだよね。ちゃんと食べてる?」
「うん、それなり」
鋼くんは料理出来るのかな。だとしたら、私より女子力高そうだな。1人で食べるのは、寂しくないだろうか。
「なに食べるの?」
「カップ麺の日もあるし、簡単に料理する日もあるよ」
「へぇ、偉いなー」
私は1人だと、食事を摂ることも出来ない時がある。自立してるんだなぁ。
「食べてみたいなぁ、鋼くんが作るご飯」
「え」
「食べてみたい」
鋼くんの顔を窺えば、明らかに困った顔をしていた。変なこと言ったかな。
「…………じゃあ、来る? 俺の家」
「うん! 邪魔じゃなければ!」
嬉しくて笑えば、鋼くんもぎこちなく笑った。まだ、楽しい時間が続く。それが幸福で、私は身体を揺らした。