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嵐山准という男は、恋慕の情を感じたことがなかった。それなりにラブストーリーは見聞きするし、男として機能不全を起こしているわけではないけれど。キスしたい人も抱きしめたい人も、家族以外に現れることはなく、家族に対しての感情も大きすぎるだけで深くねじれているわけではない。帰りたいと思うのは自分の自宅であり、血の繋がらない女の胸ではなかった。
「准くんが好きです。釣り合わないの、分かってるけど……付き合ってほしいの」
告白も何度も受けてきたが、全て断ってきた。付き合ってみれば、好きになれる子が現れるかもしれないとも思ったが、それは女の子を実験台として扱うに等しいと。正義感に溢れる彼は却下した。つまりは、彼は無自覚な潔癖性と言える。
「すまない、俺、そういうことはーー」
「知ってるよ。何人も何人も、准くんにフラれた人見てきてるもの。何が足りないのか、研究してきたから」
いつも通りのシチュエーションのはずだった。大学の休み時間、防衛任務へ行くまでの数十分の暇。狙ったように声をかけられ、大学のラウンジで2人、話している。早乙女あきは、嵐山准にとって、守るべき善良な一般市民の1人だった。それは早乙女が中学時代からの顔馴染みであっても変わらないことであった。
「准くんに釣り合おうとするの、准くんには逆効果な気がするんだよね。私も、そんな無理したくないし。でも、普通の女の子じゃ、振り向いてもくれないでしょう? だから私、一生懸命考えたの。准くんと思いを遂げる方法」
嵐山准は、真面目だがどこかぼんやりと聞いていた。どうせ自分は、この子を愛せないのだからと。
「准くん、私と付き合って。付き合ってくれないのなら」
スッと早乙女が胸ポケットから出したのは、嵐山准の妹の写真だった。彼は聡明だが、まだ何を意味するかは分からない。
「この子、殺すよ?」
「は。はーー?」
背筋を蛇が這い上がるような感覚がした。嵐山准は、今一度、目の前の女の子ーー早乙女あきを見る。普通の女の子だ。どこからどう見たって。
「佐補は関係ないだろ」
「関係ないかは、私が決めるよ。准くんが私を選んでくれないなら、仕方ないから殺す」
「……話がめちゃくちゃだ。なんで、俺が君と付き合うかどうかで、佐補が危険な目に合わなきゃならない」
「理不尽だと思うなら付き合って?」
「……断る。俺は君のこと、好きじゃない」
「じゃあ仕方ないよね」
今まで笑顔だった早乙女から、笑みは消えた。そうして、目の前で佐補の写真は真っ二つに裂かれた。
「佐補ちゃんには、死んでもらう」
「俺がそれを、放っとくと思うのか」
「思わないわ。でも、現実を見てね? 嵐山准は、三門市のヒーローでしょ」
嵐山は早乙女の瞳を見た。焦燥した自分が映り、余計に気持ちは焦る。
「君の理想なんて、ひとさじの悪意で崩れ去るのよ?」
再び笑った彼女は、恍惚な表情で彼を誘った。初めて胸が高鳴ったのは、気の迷いというやつで、吊り橋効果だと嵐山准も分かっていた。けれども。
「分かってるよ、全部全部。嵐山准は、市民を悪者になんて出来ないんだから」
嵐山准には欠陥がある。軍団的悪意にはその正義感で立ち向かえるが、個人的悪意には裁きを下せない。さっきまで守るべき対象だった女の子を、断罪することは出来ない。
「私を彼女にしてくれるだけでいい。それだけで、佐補ちゃんを危険な目から遠ざけられるんだよ? 悪い話じゃないよね?」
気付けば、早乙女あきに頷いていた。嵐山准は、受け入れることにしたのだ。その想いを、悪意を。
「分かった。君の彼氏になる。それでいいんだろ」
「うん! 私、幸せ」
早乙女から握られた手は温かくて、嵐山の心を凍えさせた。
「准くんが好きです。釣り合わないの、分かってるけど……付き合ってほしいの」
告白も何度も受けてきたが、全て断ってきた。付き合ってみれば、好きになれる子が現れるかもしれないとも思ったが、それは女の子を実験台として扱うに等しいと。正義感に溢れる彼は却下した。つまりは、彼は無自覚な潔癖性と言える。
「すまない、俺、そういうことはーー」
「知ってるよ。何人も何人も、准くんにフラれた人見てきてるもの。何が足りないのか、研究してきたから」
いつも通りのシチュエーションのはずだった。大学の休み時間、防衛任務へ行くまでの数十分の暇。狙ったように声をかけられ、大学のラウンジで2人、話している。早乙女あきは、嵐山准にとって、守るべき善良な一般市民の1人だった。それは早乙女が中学時代からの顔馴染みであっても変わらないことであった。
「准くんに釣り合おうとするの、准くんには逆効果な気がするんだよね。私も、そんな無理したくないし。でも、普通の女の子じゃ、振り向いてもくれないでしょう? だから私、一生懸命考えたの。准くんと思いを遂げる方法」
嵐山准は、真面目だがどこかぼんやりと聞いていた。どうせ自分は、この子を愛せないのだからと。
「准くん、私と付き合って。付き合ってくれないのなら」
スッと早乙女が胸ポケットから出したのは、嵐山准の妹の写真だった。彼は聡明だが、まだ何を意味するかは分からない。
「この子、殺すよ?」
「は。はーー?」
背筋を蛇が這い上がるような感覚がした。嵐山准は、今一度、目の前の女の子ーー早乙女あきを見る。普通の女の子だ。どこからどう見たって。
「佐補は関係ないだろ」
「関係ないかは、私が決めるよ。准くんが私を選んでくれないなら、仕方ないから殺す」
「……話がめちゃくちゃだ。なんで、俺が君と付き合うかどうかで、佐補が危険な目に合わなきゃならない」
「理不尽だと思うなら付き合って?」
「……断る。俺は君のこと、好きじゃない」
「じゃあ仕方ないよね」
今まで笑顔だった早乙女から、笑みは消えた。そうして、目の前で佐補の写真は真っ二つに裂かれた。
「佐補ちゃんには、死んでもらう」
「俺がそれを、放っとくと思うのか」
「思わないわ。でも、現実を見てね? 嵐山准は、三門市のヒーローでしょ」
嵐山は早乙女の瞳を見た。焦燥した自分が映り、余計に気持ちは焦る。
「君の理想なんて、ひとさじの悪意で崩れ去るのよ?」
再び笑った彼女は、恍惚な表情で彼を誘った。初めて胸が高鳴ったのは、気の迷いというやつで、吊り橋効果だと嵐山准も分かっていた。けれども。
「分かってるよ、全部全部。嵐山准は、市民を悪者になんて出来ないんだから」
嵐山准には欠陥がある。軍団的悪意にはその正義感で立ち向かえるが、個人的悪意には裁きを下せない。さっきまで守るべき対象だった女の子を、断罪することは出来ない。
「私を彼女にしてくれるだけでいい。それだけで、佐補ちゃんを危険な目から遠ざけられるんだよ? 悪い話じゃないよね?」
気付けば、早乙女あきに頷いていた。嵐山准は、受け入れることにしたのだ。その想いを、悪意を。
「分かった。君の彼氏になる。それでいいんだろ」
「うん! 私、幸せ」
早乙女から握られた手は温かくて、嵐山の心を凍えさせた。