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俺は王子一彰の弟だ。双子のくせに、似ていないとはよく言われる。髪色は兄より少し黒いし、目も兄と違いつり目がちだ。兄の醸し出す雰囲気は優美と言ったところだが、俺には当てはまらない。俺はなんだ……将校とかに近いんじゃないか。父も母も王子、もちろん、王子なんて名字でしかなく俺たち双子は特別な身分なんかじゃないが、どうしたってこの名前に影響を受けてきた。少なくとも、俺はそうだ。
兄がああなのは、女の子が思い描く理想の王子様を演じてみよう、という幼い頃の実験が始まりだった。
「あきはぼくと同じにしちゃダメだよ、ぼくとは別にして」
言われるがまま、兄が軟派で雄弁なのに対し、俺は硬派で寡黙な印象を持たれるように生きてきた。それをストレスに思ったことはない。お互い、性分に合っていた。けれど……少しだけ、兄に可愛いと言って近づく女共が羨ましかった。誰にでも平等に接する兄に、舞い上がる周囲。兄の特別でいたかった俺は、嫉妬の炎にじりじり焦された。
「あきは可愛いね」
兄はよく、俺のことを可愛いと言う。女にもよく言っていそうなその言葉は、好ましくなかった。けれど、兄の言うことに間違いなど生みたくなくて、俺は可愛くもなければいけないのではと考え始めた。それで始めたのがーー女子の装いをすることだった。ウィッグを被り、口に紅を引き、不自然にならない程度にアイラインを入れる。肩を内側に入れて、足も内股にして立つ。鏡の前で、ぎこちなく笑った。やっぱ俺、可愛くなんかない。バレる前に隠してしまおうと、ウィッグを取ろうとした時。パタン、と後ろのドアが閉まる音がした。
「あ……兄さん、これは」
一瞬、目を丸くした後、兄の唇は綺麗な弧を描いた。
「やっぱり、あきは可愛いね」
「そのままにして、顔を見せて」
あきは僕に言われるがまま、身を委ねている。双子なのに僕とは少し色素の違う瞳。満足気な僕が映る。
「僕に見せたくて、お粧ししたのかい?」
「いや、そういうわけじゃ」
「ふーん?」
軽くあきの左耳に触れる。ピクッと肩が震えたのが分かる。昔から嘘を吐かれた時は、左耳を引っ張って真実を問い質すようにしているから。
「……兄さん、俺のこと可愛いって言うから」
「うん」
「絶対可愛くなんかないのに、でも、兄さんを嘘吐きにしたくないから」
涙目で頬を染めて、それでも兄である僕から顔を背けない。背けられない。そんな弟が、可愛くないわけがない。あきが僕のために女装したとは思ってなかったけど、僕のためと知っても嫌悪など微塵も感じない。むしろ、葛藤する姿は狂おしく愛おしい。
「可愛いよ、あき。可愛い」
「か、可愛くなんかない! 可愛いのはいつも兄さんで、」
そこから先を言わせないように、しーっと人差し指を当てた。指先に真っ赤な口紅がついた。どくん、と心臓が波打つ。ザワザワと胸が高揚し、堰き止めていた感情が溢れそうになる。口付けてしまおうか、口紅の跡がついたら、この歪んだ熱情も免罪符が出たりしないだろうか。
「兄さん」
「っ、なんだい?」
気付けば人差し指をそっと握り込まれ、指と指を絡めていた。手と手の熱が馴染み、どちらのものか分からなくなる時間。長かったような刹那のような時間、見つめ合っていた。弾かれるように手を離した。危なかったから。
「…………母さんたちに見つかる前に、着替えておきなよ。内緒にしてあげるから」
「うん、ありがとう兄さん」
部屋から出ていく兄さんを見送る。
「やっぱり、兄さんは可愛い」
ここまで俺を掌握して、あと一歩に怖気付く兄さんを、俺は愛してる。例え、歪んでいたとしても。
兄がああなのは、女の子が思い描く理想の王子様を演じてみよう、という幼い頃の実験が始まりだった。
「あきはぼくと同じにしちゃダメだよ、ぼくとは別にして」
言われるがまま、兄が軟派で雄弁なのに対し、俺は硬派で寡黙な印象を持たれるように生きてきた。それをストレスに思ったことはない。お互い、性分に合っていた。けれど……少しだけ、兄に可愛いと言って近づく女共が羨ましかった。誰にでも平等に接する兄に、舞い上がる周囲。兄の特別でいたかった俺は、嫉妬の炎にじりじり焦された。
「あきは可愛いね」
兄はよく、俺のことを可愛いと言う。女にもよく言っていそうなその言葉は、好ましくなかった。けれど、兄の言うことに間違いなど生みたくなくて、俺は可愛くもなければいけないのではと考え始めた。それで始めたのがーー女子の装いをすることだった。ウィッグを被り、口に紅を引き、不自然にならない程度にアイラインを入れる。肩を内側に入れて、足も内股にして立つ。鏡の前で、ぎこちなく笑った。やっぱ俺、可愛くなんかない。バレる前に隠してしまおうと、ウィッグを取ろうとした時。パタン、と後ろのドアが閉まる音がした。
「あ……兄さん、これは」
一瞬、目を丸くした後、兄の唇は綺麗な弧を描いた。
「やっぱり、あきは可愛いね」
「そのままにして、顔を見せて」
あきは僕に言われるがまま、身を委ねている。双子なのに僕とは少し色素の違う瞳。満足気な僕が映る。
「僕に見せたくて、お粧ししたのかい?」
「いや、そういうわけじゃ」
「ふーん?」
軽くあきの左耳に触れる。ピクッと肩が震えたのが分かる。昔から嘘を吐かれた時は、左耳を引っ張って真実を問い質すようにしているから。
「……兄さん、俺のこと可愛いって言うから」
「うん」
「絶対可愛くなんかないのに、でも、兄さんを嘘吐きにしたくないから」
涙目で頬を染めて、それでも兄である僕から顔を背けない。背けられない。そんな弟が、可愛くないわけがない。あきが僕のために女装したとは思ってなかったけど、僕のためと知っても嫌悪など微塵も感じない。むしろ、葛藤する姿は狂おしく愛おしい。
「可愛いよ、あき。可愛い」
「か、可愛くなんかない! 可愛いのはいつも兄さんで、」
そこから先を言わせないように、しーっと人差し指を当てた。指先に真っ赤な口紅がついた。どくん、と心臓が波打つ。ザワザワと胸が高揚し、堰き止めていた感情が溢れそうになる。口付けてしまおうか、口紅の跡がついたら、この歪んだ熱情も免罪符が出たりしないだろうか。
「兄さん」
「っ、なんだい?」
気付けば人差し指をそっと握り込まれ、指と指を絡めていた。手と手の熱が馴染み、どちらのものか分からなくなる時間。長かったような刹那のような時間、見つめ合っていた。弾かれるように手を離した。危なかったから。
「…………母さんたちに見つかる前に、着替えておきなよ。内緒にしてあげるから」
「うん、ありがとう兄さん」
部屋から出ていく兄さんを見送る。
「やっぱり、兄さんは可愛い」
ここまで俺を掌握して、あと一歩に怖気付く兄さんを、俺は愛してる。例え、歪んでいたとしても。